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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第16話 白金のおみくじと、3LDKの提案

 カビ臭いアパートの万年床。

 現実世界の枕元に置いた2つ目の『夢の欠片』が、淡い光を放ちシステムに干渉する。


 深い睡眠の底。真っ暗な空間に、3つの宝箱のシルエットが浮かび上がった。


 『睡眠時間:8時間を達成しました』

 『睡眠ボーナス:夢の三択が発生します。一つを選択してください』


 次の瞬間。

 3つのシルエットが内側から発光し、白金の輝きへと染まっていく。


 中身は見えない。完全に伏せられた運任せのおみくじだ。

 悩む時間は無駄だ。俺は迷わず、真ん中のシルエットを選択した。


 ポン、と軽い電子音。


 『スキル:すり抜け連撃 を獲得しました』


 意識がそのまま、深い眠りへと落ちていく。



 朝。

 パチリと目が覚める。


 身を起こし、脳内で新しく獲得したスキルの効果を確認した。


 敵の間をすり抜けながら、通過ライン上の敵すべてに1回ずつ致死の傷を入れる。

 移動そのものが攻撃になる。ナイフを使った最小動作での多体撃破に特化した、新たな最適解の挙動だった。



 昼前。探索者ギルドに併設された薄暗い喫茶店。


 栞と合流した俺は、コーヒーを一口飲み、切り出した。


「昨日ギルドに預けた8階層のボスのドロップ品、『深淵の骨杖』だが。あれ、栞が使ってくれないか。俺には使えないし、支援の精度が上がるなら俺も助かる」

「……いいの? オークションに出せば結構な額になるわよ」

「昨日の死闘も、栞の限界支援のおかげで勝てた。持っていてくれ」


 俺が短く返すと、栞は少しだけ表情を緩め、頷いた。


「……わかったわ。ありがたく使わせてもらう」


 続けて、俺は手の中で柄だけになった高品質ゴブリンナイフを見せる。


「俺の武器が壊れた。新しいナイフが必要だが、この街のギルドでは調達が難しい。それに、今の田舎にはダンジョンが少なすぎる」

「ええ。Dランクになった私たちには、ここはもう狭いわね」

「ああ。だから、日本で1番のダンジョン密集地である東京へ拠点を移そうと思う」


 俺の提案に、栞は迷いなく頷いた。

 そして、コーヒーカップを静かに置いてから、とんでもないことを口にした。


「賛成よ。なら、東京で3LDKの部屋を借りて一緒に住みましょう。初期費用は、特大魔石の換金分で余裕で足りるわ」

「……は? 一緒に?」


 俺は思わず聞き返した。


 若い男女が、東京で一緒に住む。

 その言葉の響き。風呂上がりや寝起きといった、無防備な生活空間の共有。

 柄にもなく、顔に少し熱が集まるのを感じた。


 栞は目を細め、ニヤリとからかうように笑う。


「……今、変なこと考えたでしょう」

「……考えてない」


 図星を突かれ、俺は短く咳払いをした。


「まあいいわ。当然でしょ。完璧な観測手は、前衛のコンディションを24時間把握できる環境にいないとダメなの。食事の栄養管理も含めて、別々に住むのはロスが多すぎるわ」


 あくまで合理的な理由。

 栞が言うなら、そういうことなのだろう。


「……わかった。助かる」

「よし。物件探しと契約は私がやるわ。引越しの準備もあるし、1週間後に駅で合流しましょう」



 それからの1週間、俺たちは別々に準備を進めた。


 俺はダンジョンには潜らなかった。

 武器がない状態で潜するのは、無駄なリスクでしかない。


 起きている時間は、東京のメガダンジョンの階層構造や、次に買うべき頑丈なナイフの目星をつけるための情報収集。そして引越しの荷造りに充てた。

 だが、何より優先したのは、毎日きっちり8時間眠ることだ。


 翌日からはいつもの通常の睡眠ボーナスに戻ったが、それでも毎日確実に俺の肉体に新たな力が刻まれていく。

 この1週間で、合計7つの睡眠ボーナスを獲得し、俺の力は確実に底上げされていた。


 出発の朝。

 俺は家賃3万のボロアパートに別れを告げる。


 ブラック企業で使い潰され、睡眠を削られ、絶望の中で帰るだけだったこの部屋。

 今はもう、ボストンバッグ一つで踏み出せるほど足取りは軽い。


 バッグの中には、Dランクのギルドカードが入っている。

 俺は空になった狭い部屋に一礼し、静かにドアを閉めた。



 駅のホーム。

 大きなキャリーケースを持った栞が、手を振っている。


「遅いわよ。さあ、行くわよ東京へ」

「ああ。杖は手続きしたか?」

「ええ、東京のメガダンジョン支部へ転送手配済みよ」

「なら、まずは向こうのギルドだな。移転の手続きと、俺の新しいナイフの調達だ」


 滑り込んできた新幹線のドアが開く。

 俺たちは田舎街に別れを告げ、更なる高みと未知の同居生活が待つ東京へと向けて出発した。

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