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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第11話 初陣のバディと限界突破の最適解

第5階層の青い光を背にして、俺たちは下層へ続く階段へ向かった。

 セーフエリアを出る直前、指定ドローンのスイッチを入れる。


 無機質な起動音。

 ホログラムが空中に浮かび上がった途端、視界の端でコメントが雪崩れた。


 『寝落ちニキの配信きた!』

 『え、隣の美少女だれ!?』

 『おい待て、あの白銀の髪……神城栞だぞ!』

 『なんで地雷ヒーラーと一緒にいるんだよ!』

 『ニキ逃げろ! そいつと組むと骨折らされるぞ!』


 荒れ方が一瞬で臨界を超える。

 栞の悪名は伊達じゃないらしい。組めば自滅する、壊される、やめろ。警告が滝みたいに流れ続ける。


 だが、俺にとって他人の評価や数字なんてどうでもいい。必要なのは絶対的なレベリング効率だけだ。

 ホログラムの騒ぎは視界の端に追いやって、前だけを見る。


 隣の栞も、空中に浮かぶ辛辣な言葉を一瞥しただけで鼻で笑った。まったく意に介していない。



 第6階層へ降りる道中、ひんやりした空気が肌を撫でる。

 やがて薄暗い通路の奥から、硬い緑色の鱗を持ったリザードマンが3体、重い足音を鳴らして現れた。


 俺は横に立つ栞を手で制止する。


「支援魔法は少し待ってください。まず、今の素の火力がどれくらい通るか基準を見たい」

「了解。計測ね」


 淡々と告げて、目を閉じる。

 脳髄を睡魔が殴り、意識が深い底へ沈む。


 現実。

 脱力したままの俺の身体が、リザードマンの群れへ無防備に歩き出す。


 先頭の1体が槍を突き出す。

 俺の肉体は最小限の踏み込みで切っ先を外し、そのまま懐へ滑り込んだ。


 狙うのは鱗の隙間。装甲の薄い関節。

 高品質なゴブリンナイフが、的確な角度で差し込まれる。


 回避も、攻撃も、間合いも、すべて最適解。

 3体は俺に触れることすらできず、次々と関節を裂かれていく。


 だが、1撃で沈まない。

 どれだけ動きが完璧でも、レベル9の筋力では分厚い筋肉の奥にある急所まで刃が届かない。


 システムは被弾リスクをゼロに保ったまま、同じ傷口を何度も何度も削る。

 無駄はない。だが手数が多い。執拗に、徹底的に、削り切るしかない。


 数十の手数の末、ようやく3体が崩れた。


 パチリ。

 目を開けると、リザードマンが光の粒子となって消えていくところだった。足元に魔石が転がっている。


 栞が小さく息を吐いた。


「動きは完璧。でも基礎火力が絶望的ね。あれに数十手かけるのは、効率が悪すぎる」


 俺はナイフの血を軽く払って頷く。


「ええ。俺のステータスだとこれが限界です。このままじゃ上の階層で稼げない。だから、あなたの提案に乗りました」

「ふふ。いいわね、そのいびつな器。劇薬を注ぐには最高の空っぽ具合よ」


 栞は楽しそうに口角を上げた。

 俺たちは魔石を回収し、さらに奥へ進む。



 第6階層の最奥。

 表面に無数の傷が刻まれた重厚な鉄の扉の前で、俺たちは足を止めた。


 短い休憩。

 俺は巨大な空のリュックに手を入れるふりをして、収納からペットボトルの水を取り出し、喉を潤す。


 チート隠しのカモフラージュ。

 パーティで潜り続けるなら、いずれ収納のことも栞には話す必要が出る。だが今じゃない。まずは互いの価値を証明する。


 栞が扉を見上げる。


「この先、何が出るの?」


 俺は即答した。


「アーマードミノタウロス。推奨レベル15。全身を黒鋼の鎧で覆った物理耐性の塊です。レベル9の俺じゃ、本来は傷一つつけられない」

「知ってる。だからこそ、限界ギリギリの支援を入れる価値がある」


 俺は短く頷く。


「作戦は単純。俺が踏み込んだ瞬間、遠慮せず限界出力を叩き込んでください」

「了解。負荷は強烈よ。振り落とされないでね」


 空になったボトルを収納へ戻し、呼吸を整える。

 俺は両手で扉を押し開けた。


 広大な石造りの空間。

 その奥に待ち構えていたのは、巨大な牛頭の魔物。アーマードミノタウロス。

 だが単体じゃない。


 同じ巨体が、横一列に5体。

 威圧感が5倍じゃない。空気が薄くなった錯覚がする。


 コメント欄が悲鳴になる。


 『うわああ! アーマードミノタウロス5体!?』

 『推奨レベル15だぞ! 物理通らないやつじゃん!』

 『地雷ヒーラー連れてるとか終わったな』


 俺はナイフを逆手に構え、短く息を吐く。

 そして目を閉じた。


 睡魔が脳髄を殴り、意識が深い底へ沈む。


 真っ黒な空間。

 いつものレトロなコマンド画面。

 俺はステータス画面を開いた。


 ゆうま。

 その名前の横に、しおり。白いローブのドット絵。

 懐かしい横並びのパーティ画面だ。


 俺は迷わず、たたかうを選択し、ターゲットを5体の群れに指定する。


 ポン。

 軽い電子音。直後、白枠テキストが出た。


 『ゆうま の こうげき!』

 『しかし アーマードミノタウロス には きかなかった!』


 現実では、5体が地響きを鳴らして突進してくる。

 巨大な戦斧が振り上がり、無防備に立つ俺を粉砕しようと落ちてくる。

 その瞬間、栞の声が背後から刺さった。


「全開で行くわよ。死なないでね」


 詠唱完了。

 石畳に極大の魔法陣が展開され、魔力の波動が嵐のように吹き荒れる。強風と熱波が室内を揺らし、宙に浮くドローンが体勢を崩した。


 真っ黒な空間に、無機質なテキストが連なる。


 『しおり は じゅもん を となえた!』

 『ゆうま の すてーたす が ばくはつてきに あがった!』

 『れんぞくこうげき が はつどう!』


 跳ね上がった数値。

 その暴力的な増加を、睡眠スキルが一瞬で最適解へ変換する。


 俺が1歩踏み込む。

 ただそれだけで、足元の石畳が爆発したように粉砕された。


 頭上から落ちてくる5つの戦斧。

 破壊音が轟く中、俺の身体はブレるような超高速で、その隙間をすり抜ける。


 『え!?』

 『消えた!?』

 『速すぎ! カメラ追いついてない!』


 ドローンのレンズが捉えきれない速度。

 暴発寸前の筋力が乗ったゴブリンナイフが黒鋼へ激突する。


 硬質な破砕音。火花。

 分厚い装甲がガラスみたいに砕け、1体目の首が空高く刎ね飛ばされた。


 壁を蹴って反転。

 弾丸のような速度で2体目の懐へ潜り込み、胸当てごと心臓を抉り抜く。


 3体目。膝を砕き、崩れた頭部へ刃を叩き込み、即座に離脱。

 4体目。戦斧の柄を蹴り折って隙を作り、鎧の隙間から喉笛を裂く。

 最後の1体。振り向きざまの巨腕を紙一重で外し、眉間の装甲ごと刃を深々と叩き込んだ。


 数秒。

 5体が、順番に崩れ落ちる。


 『は?』

 『アーマードミノタウロスが鎧ごと斬られてる!?』

 『今のバフ何!? ニキ自滅してないぞ!』

 『たった数秒で5体瞬殺とかバグだろ!』


 真っ黒な空間でファンファーレ。

 電子音が連なった。


 『アーマードミノタウロスたち を たおした!』

 『ゆうま の レベル が 12 に あがった!』

 『しおり の レベル が 14 に あがった!』

 『レベルアップボーナス! HP と SP が ぜんかいふく した!』


 パチリ。

 目を開けると、5体の巨体が光の粒子になって霧散していくところだった。


 石畳の上に、巨大な魔石が5つ。

 黒光りする重厚な黒鋼の戦斧が1本、重い音を立てて転がっている。レアドロップ。


 俺は両手を開き、脚の感触を確かめた。

 骨折なし。筋断裂なし。関節の崩壊もない。


 あの規格外のバフを受け止め、睡眠スキルが自壊せず、全部を攻撃に変換し切った。


「……信じられない」


 背後から、震える声。

 振り返ると、杖を下ろした栞が頬を紅潮させて立っていた。歓喜で呼吸が浅い。

 彼女は俺に傷がないのを確認すると、抑えきれない勢いで歩み寄る。


「本当に、私の全力を受け止めて壊れなかった。あんな出力、普通は自滅するのに。どうやって制御したのよ」


 俺は淡々と答えた。


「……俺もあんまりわかってないんですが、戦ってる間は焦りとか恐怖とかが入り込む場所がないんです。制御してるというより、そういう仕組みなんだと思います」


 栞は強い光を宿した瞳で俺を見上げ、不敵に言い放つ。


「まだまだよ。私のバフはこんなもんじゃない。もっと強くなってもらわなくちゃ」


 現状の結果すら通過点。

 それが彼女の顔に書いてあった。


 俺は足元の魔石と黒鋼の戦斧を、リュックに入れるふりをして収納へ仕舞い込みながら頷く。


「……まあ、見えてきた気がします。Lv100も」


 冷たい石造りのボス部屋。

 効率を求める社畜と、全力を出せる器を求める狂気のヒーラー。


 互いの欠点を補い合う異端のバディは、さらに深い階層の闇を見据えていた。

異端バディ、始動。ここからが本番です。


ここまで読んでくださった方へ。

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