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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「怠けたいだけなのに」追放された無能領主が前世のゲーム知識で領地を完全オート化したら、大陸一の名君と呼ばれて休めなくなった件

作者: 黒瀬ユウ
掲載日:2026/02/28

## 第1章 追放と理想郷


「アルドよ。魔法が使えぬ3男坊に、侯爵家の居場所はない。東の辺境、バートランド領の領主に任命する」


父がそう告げたとき、広間の空気が凍った。使用人たちは目を伏せ、兄たちは薄ら笑いを浮かべていた。

 俺は下を向いて、唇を噛んだ。


——震えるのを堪えていた。嬉しくて。


(来たっ!! 夜会も剣術訓練も朝の6時起きも全部終わりだ! 自分だけの領地! 引きこもり放題!!)


心の中で拳を突き上げながら、できるだけ悔しそうに「はい、父上」と答えた。俺の人生で5本の指に入る名演技だ。


俺——アルドには前世の記憶がある。現代日本で部屋に籠もり、ひたすら都市開発シミュレーションをやり込んでいた。『完全自動化RTAランキング世界3位』。たった一つの自慢できる実績だ。誰もわかってくれないが。

プレイ方針はいつも同じ。手動操作を減らし、画面を放置していても資源が回り続ける仕組みを作ること。要するに、ゲームの中ですら最低限の働きで済ませたかった。


辺境の領地。誰も来ない土地。俺の理想郷じゃないか。


馬車に揺られること8日。バートランド領の入り口で、俺は降り立った。

秋口の風が冷たい。道の脇に、色あせた木の標識が立っていた。『バートランド領——人口241名』。ペンキが半分剥がれている。


「……よし」


俺は深呼吸した。ここで、究極の『何もしなくていい自動化領地』を作る。一生寝て暮らす。それだけのために来たのだ。


その決意は、領主の館の窓を開けた瞬間に吹き飛んだ。


「なんっだこのクソゲーは!!!」


思わず叫んだ。


窓の外に広がる光景は、カジュアルゲーマーなら5分でアンインストールするレベルだ。

小麦畑から製粉所まで、なぜか山ひとつ越えている。鍛冶屋の隣に木材がない。職人が毎回、森まで歩いて丸太を担いで戻ってくる。水汲み場は村のはずれにしかなく、女たちが桶を抱えて毎日往復2時間。


動線が死んでいる。配置が狂っている。全部。何もかも。


「……これ、マジで誰がデザインしたんだ」


それでも攻略したい、とゲーマーの血が騒いだ。



「領主様。何かご用でしょうか……」


翌朝、老村長のベルクがやってきた。目の下に隈がある。頬がこけている。ここに来るまでの坂道だけで息が切れているのが分かった。


「村長、1つ聞く。この村の畑と製粉所の間の山道、歩いて何分だ」

「片道で1時間ほどかと」

「小麦を一日に何往復運ぶ」

「4、5回は」

「じゃあ運搬だけで毎日5時間。人手は」

「3人がかりです」

「3人×5時間。一日15時間を、ただの移動に使ってるわけだ」


村長が目を丸くした。今まで、そんな計算をした人間がいなかったのだろう。

俺はテーブルに村の地図を広げた。徹夜で測量して書いたやつだ。インクの匂いがまだ指先にこびりついている。


「ここ、製粉所を畑の真横に移す。水路を川から引いて水車を付ける。手回しの石臼は捨てろ」

「い、移すと言いましても、製粉所は先々代の領主様が建てた場所で——」

「先々代が間違えたんだ。俺が直す」


ベルクが絶句した。無理もない。着任2日目の若造が、村が積み上げてきたものを壊そうとしているのだ。


「それから」俺は続けた。「裏山にゴブリンの巣があるって聞いたけど」

「は、はい。以前から被害が出ており、近々討伐隊に依頼しようと……」

「あいつら、力だけは強いだろ。芋を対価に雇え。森から切り株まで丸太を運ぶだけ、の単純作業をやらせる。人間は加工に集中した方が効率的だ」

「ゴブリンを、雇う……?」

「それと、ダンジョンにスライムがいるらしいな。30匹ほど捕まえてこい」

「……何にお使いで?」

「ベルトコンベアにする」


村長の顔が、困惑を通り越して虚無になった。

構わない。前世でも誰にも理解されたことはなかった。とにかく効率よく回す。それだけだ。


## 第2章 スライム・ベルトコンベア


1ヶ月後。


村は騒然としていた。いや、騒然とする暇もないほど忙しかった。


製粉所は畑の真横に移築された。川から引いた水路の水車が、朝も夜も構わずゴリゴリと小麦を挽く。もう誰も石臼を回さなくていい。


「次。この傾斜を見ろ」


俺は裏山の斜面に並べられた丸太のレールの前で、書記官のシータに指示を出した。16歳の少女で、村で唯一読み書きができるということで俺が雇った。


「スライムの粘液を塗った丸太のレールに石材を載せると、摩擦がほぼゼロになる。傾斜4度で、時速にして——」

「あの」シータがペンの先を噛みながら遮った。「それ、何の話ですか」

「効率化の話だ」

「いえ、言葉は分かるんですけど、意味が分からないんです」


意味が分からなくても動く。それがオート化の本質だ。


スライム・ベルトコンベアが完成した日のことは、たぶん村人たちも忘れないだろう。裏山の採石場に石を置くと、ぬるぬると丸太レールの上を滑り、5分後には麓の加工場に到着する。人の手は一切触れない。


「……なんか、怖いんですけど」


シータが呟いた。ゴブリンがもぐもぐと芋を食いながら丸太を運んでいる。水車が回っている。スライムの粘液で石が流れていく。人が働いていないのに、全てが動いている。


「怖くない。美しいんだ」


俺は満足げに頷いた。これだ。この、放置しても回る気持ちよさ。3482時間のプレイ時間が、ようやくリアルで花開いている。


「あとは水道だな。村のはずれにしかない水汲み場を——」

「岩場を割って水路を引くんですね」

「お。分かってきたじゃないか」

「分かってきたというか、アルド様のパターンが読めてきただけです」


シータはため息をつきながら、分厚くなりはじめた記録帳をめくった。



3ヶ月目。水が各家庭に届くようになった。

 女たちが桶を担いで歩く姿は消えた。空いた時間で畑を手入れするようになり、収穫量が上がった。収穫量が上がったから加工場が忙しくなり、加工場が忙しくなったからゴブリンの雇用を増やし——


連鎖だ。1つの効率化が次の効率化を呼ぶ。シミュレーションゲームと同じだ。


「領主様」ベルク村長が、報告書を持ってきた。「先月の収穫、前年比で4倍です」

「ふーん。じゃあ来月は余剰分を隣町に売れ。商路は?」

「北の街道沿いに——」

「遠いな。スライムの水路を延伸して、荷物を水運で流せ」

「……」


ベルクの目が遠くなった。もう驚かなくなったのではなく、驚く気力がなくなっただけかもしれない。


## 第3章 名君の午睡


半年後。


「……領主様。報告書を、お持ちしました」


ベルクが、震える手で分厚い羊皮紙を差し出した。

 俺は昼の12時だというのに、特注の低反発マットレス——干し草を7層に編み、スライムジェルで衝撃吸収材を作った傑作——の上で寝転がっていた。


目だけ動かして数字を読む。


「金貨3万枚か」

「は……半年で、税収が100倍なんです!」


ベルクの声が裏返った。


「しかも、村人の実働時間が一日3時間未満です。残りは昼寝をしたり、談笑したり……子供たちが学校に通い始めました。学校なんて、この村にはなかったのに」


俺は天井を見上げた。特に感慨はない。

全工程を分解した。移動時間を削った。重労働を水車とスライムとゴブリンに任せた。人間は最終チェックだけやればいい。3482時間のゲームプレイで培ったノウハウを、そのまま適用しただけだ。


「うむ。完璧なオート化だ。来月のことはシータに聞くように。スプリンクラーの試作と自動給餌器のテスト計画が机の上にある」

「はっ! 民を思い、寝る間も惜しんで働かれる名君、アルド様万歳!」


ベルクが涙ぐみながら深々と頭を下げた。


……寝る間も惜しんで? 俺はこの半年、毎日十2時間は寝ているんだが。


シータが部屋の隅で筆を止め、ぼそっと言った。

「村長さん、たぶん知ってますよ。領主様が毎日昼まで寝てること」

「知ってんのかよ」

「知ったうえで、名君って呼んでるんです」


それはそれで困る。



さらに半年後。


「なんだこの大都市はあっ!?」


視察に来た父——侯爵が、馬車の窓から身を乗り出して叫んだ。

見渡すかぎりの段々畑。自動で回る水車が12基。整然と区画された工房街。街路は石畳で舗装され、下水道まで整備されている。


そして、真昼間から木陰でのんびり昼寝をしている領民たち。


「馬鹿な……魔法も使えない三男坊が……いったいどうやって……」


侯爵の顔から血の気が引いていく。俺は『自動魔力車椅子(スライム動力式)』にふんぞり返り、パジャマ姿のまま門前で出迎えた。


「あ、父上。お久しぶりです」

「アルド! お前、いったい何を——もう一度本邸に戻って——」


「お断りします」


父が絶句した。

シータが後ろからすっと歩み出て、書類を差し出す。


「侯爵閣下。バートランド領の税収は、侯爵家本邸領の6倍です。領民の平均労働時間は大陸最短。識字率は98%。出生率は右肩上がり。犯罪発生率はゼロ」


淡々と読み上げる。俺が教え込んだわけでもないのに、いつの間にかこういう仕事を覚えていた。


父の目が点になった。

俺は欠伸をかみ殺しながら言った。


「本邸には、朝食を自動でベッドまで運ぶピタゴラスイッチがないので。帰る理由がありません」


風が吹いた。水車が回っている。スライムがぬるぬると丸太を運んでいる。ゴブリンが芋を頬張りながら木材を積んでいる。俺が何もしなくても、この領地は動き続ける。


最強の効率化は——怠惰から生まれる。


※本作はAIを創作の補助に利用しております

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