「怠けたいだけなのに」追放された無能領主が前世のゲーム知識で領地を完全オート化したら、大陸一の名君と呼ばれて休めなくなった件
## 第1章 追放と理想郷
「アルドよ。魔法が使えぬ3男坊に、侯爵家の居場所はない。東の辺境、バートランド領の領主に任命する」
父がそう告げたとき、広間の空気が凍った。使用人たちは目を伏せ、兄たちは薄ら笑いを浮かべていた。
俺は下を向いて、唇を噛んだ。
——震えるのを堪えていた。嬉しくて。
(来たっ!! 夜会も剣術訓練も朝の6時起きも全部終わりだ! 自分だけの領地! 引きこもり放題!!)
心の中で拳を突き上げながら、できるだけ悔しそうに「はい、父上」と答えた。俺の人生で5本の指に入る名演技だ。
俺——アルドには前世の記憶がある。現代日本で部屋に籠もり、ひたすら都市開発シミュレーションをやり込んでいた。『完全自動化RTAランキング世界3位』。たった一つの自慢できる実績だ。誰もわかってくれないが。
プレイ方針はいつも同じ。手動操作を減らし、画面を放置していても資源が回り続ける仕組みを作ること。要するに、ゲームの中ですら最低限の働きで済ませたかった。
辺境の領地。誰も来ない土地。俺の理想郷じゃないか。
馬車に揺られること8日。バートランド領の入り口で、俺は降り立った。
秋口の風が冷たい。道の脇に、色あせた木の標識が立っていた。『バートランド領——人口241名』。ペンキが半分剥がれている。
「……よし」
俺は深呼吸した。ここで、究極の『何もしなくていい自動化領地』を作る。一生寝て暮らす。それだけのために来たのだ。
その決意は、領主の館の窓を開けた瞬間に吹き飛んだ。
「なんっだこのクソゲーは!!!」
思わず叫んだ。
窓の外に広がる光景は、カジュアルゲーマーなら5分でアンインストールするレベルだ。
小麦畑から製粉所まで、なぜか山ひとつ越えている。鍛冶屋の隣に木材がない。職人が毎回、森まで歩いて丸太を担いで戻ってくる。水汲み場は村のはずれにしかなく、女たちが桶を抱えて毎日往復2時間。
動線が死んでいる。配置が狂っている。全部。何もかも。
「……これ、マジで誰がデザインしたんだ」
それでも攻略したい、とゲーマーの血が騒いだ。
◇
「領主様。何かご用でしょうか……」
翌朝、老村長のベルクがやってきた。目の下に隈がある。頬がこけている。ここに来るまでの坂道だけで息が切れているのが分かった。
「村長、1つ聞く。この村の畑と製粉所の間の山道、歩いて何分だ」
「片道で1時間ほどかと」
「小麦を一日に何往復運ぶ」
「4、5回は」
「じゃあ運搬だけで毎日5時間。人手は」
「3人がかりです」
「3人×5時間。一日15時間を、ただの移動に使ってるわけだ」
村長が目を丸くした。今まで、そんな計算をした人間がいなかったのだろう。
俺はテーブルに村の地図を広げた。徹夜で測量して書いたやつだ。インクの匂いがまだ指先にこびりついている。
「ここ、製粉所を畑の真横に移す。水路を川から引いて水車を付ける。手回しの石臼は捨てろ」
「い、移すと言いましても、製粉所は先々代の領主様が建てた場所で——」
「先々代が間違えたんだ。俺が直す」
ベルクが絶句した。無理もない。着任2日目の若造が、村が積み上げてきたものを壊そうとしているのだ。
「それから」俺は続けた。「裏山にゴブリンの巣があるって聞いたけど」
「は、はい。以前から被害が出ており、近々討伐隊に依頼しようと……」
「あいつら、力だけは強いだろ。芋を対価に雇え。森から切り株まで丸太を運ぶだけ、の単純作業をやらせる。人間は加工に集中した方が効率的だ」
「ゴブリンを、雇う……?」
「それと、ダンジョンにスライムがいるらしいな。30匹ほど捕まえてこい」
「……何にお使いで?」
「ベルトコンベアにする」
村長の顔が、困惑を通り越して虚無になった。
構わない。前世でも誰にも理解されたことはなかった。とにかく効率よく回す。それだけだ。
## 第2章 スライム・ベルトコンベア
1ヶ月後。
村は騒然としていた。いや、騒然とする暇もないほど忙しかった。
製粉所は畑の真横に移築された。川から引いた水路の水車が、朝も夜も構わずゴリゴリと小麦を挽く。もう誰も石臼を回さなくていい。
「次。この傾斜を見ろ」
俺は裏山の斜面に並べられた丸太のレールの前で、書記官のシータに指示を出した。16歳の少女で、村で唯一読み書きができるということで俺が雇った。
「スライムの粘液を塗った丸太のレールに石材を載せると、摩擦がほぼゼロになる。傾斜4度で、時速にして——」
「あの」シータがペンの先を噛みながら遮った。「それ、何の話ですか」
「効率化の話だ」
「いえ、言葉は分かるんですけど、意味が分からないんです」
意味が分からなくても動く。それがオート化の本質だ。
スライム・ベルトコンベアが完成した日のことは、たぶん村人たちも忘れないだろう。裏山の採石場に石を置くと、ぬるぬると丸太レールの上を滑り、5分後には麓の加工場に到着する。人の手は一切触れない。
「……なんか、怖いんですけど」
シータが呟いた。ゴブリンがもぐもぐと芋を食いながら丸太を運んでいる。水車が回っている。スライムの粘液で石が流れていく。人が働いていないのに、全てが動いている。
「怖くない。美しいんだ」
俺は満足げに頷いた。これだ。この、放置しても回る気持ちよさ。3482時間のプレイ時間が、ようやくリアルで花開いている。
「あとは水道だな。村のはずれにしかない水汲み場を——」
「岩場を割って水路を引くんですね」
「お。分かってきたじゃないか」
「分かってきたというか、アルド様のパターンが読めてきただけです」
シータはため息をつきながら、分厚くなりはじめた記録帳をめくった。
◇
3ヶ月目。水が各家庭に届くようになった。
女たちが桶を担いで歩く姿は消えた。空いた時間で畑を手入れするようになり、収穫量が上がった。収穫量が上がったから加工場が忙しくなり、加工場が忙しくなったからゴブリンの雇用を増やし——
連鎖だ。1つの効率化が次の効率化を呼ぶ。シミュレーションゲームと同じだ。
「領主様」ベルク村長が、報告書を持ってきた。「先月の収穫、前年比で4倍です」
「ふーん。じゃあ来月は余剰分を隣町に売れ。商路は?」
「北の街道沿いに——」
「遠いな。スライムの水路を延伸して、荷物を水運で流せ」
「……」
ベルクの目が遠くなった。もう驚かなくなったのではなく、驚く気力がなくなっただけかもしれない。
## 第3章 名君の午睡
半年後。
「……領主様。報告書を、お持ちしました」
ベルクが、震える手で分厚い羊皮紙を差し出した。
俺は昼の12時だというのに、特注の低反発マットレス——干し草を7層に編み、スライムジェルで衝撃吸収材を作った傑作——の上で寝転がっていた。
目だけ動かして数字を読む。
「金貨3万枚か」
「は……半年で、税収が100倍なんです!」
ベルクの声が裏返った。
「しかも、村人の実働時間が一日3時間未満です。残りは昼寝をしたり、談笑したり……子供たちが学校に通い始めました。学校なんて、この村にはなかったのに」
俺は天井を見上げた。特に感慨はない。
全工程を分解した。移動時間を削った。重労働を水車とスライムとゴブリンに任せた。人間は最終チェックだけやればいい。3482時間のゲームプレイで培ったノウハウを、そのまま適用しただけだ。
「うむ。完璧なオート化だ。来月のことはシータに聞くように。スプリンクラーの試作と自動給餌器のテスト計画が机の上にある」
「はっ! 民を思い、寝る間も惜しんで働かれる名君、アルド様万歳!」
ベルクが涙ぐみながら深々と頭を下げた。
……寝る間も惜しんで? 俺はこの半年、毎日十2時間は寝ているんだが。
シータが部屋の隅で筆を止め、ぼそっと言った。
「村長さん、たぶん知ってますよ。領主様が毎日昼まで寝てること」
「知ってんのかよ」
「知ったうえで、名君って呼んでるんです」
それはそれで困る。
◇
さらに半年後。
「なんだこの大都市はあっ!?」
視察に来た父——侯爵が、馬車の窓から身を乗り出して叫んだ。
見渡すかぎりの段々畑。自動で回る水車が12基。整然と区画された工房街。街路は石畳で舗装され、下水道まで整備されている。
そして、真昼間から木陰でのんびり昼寝をしている領民たち。
「馬鹿な……魔法も使えない三男坊が……いったいどうやって……」
侯爵の顔から血の気が引いていく。俺は『自動魔力車椅子(スライム動力式)』にふんぞり返り、パジャマ姿のまま門前で出迎えた。
「あ、父上。お久しぶりです」
「アルド! お前、いったい何を——もう一度本邸に戻って——」
「お断りします」
父が絶句した。
シータが後ろからすっと歩み出て、書類を差し出す。
「侯爵閣下。バートランド領の税収は、侯爵家本邸領の6倍です。領民の平均労働時間は大陸最短。識字率は98%。出生率は右肩上がり。犯罪発生率はゼロ」
淡々と読み上げる。俺が教え込んだわけでもないのに、いつの間にかこういう仕事を覚えていた。
父の目が点になった。
俺は欠伸をかみ殺しながら言った。
「本邸には、朝食を自動でベッドまで運ぶピタゴラスイッチがないので。帰る理由がありません」
風が吹いた。水車が回っている。スライムがぬるぬると丸太を運んでいる。ゴブリンが芋を頬張りながら木材を積んでいる。俺が何もしなくても、この領地は動き続ける。
最強の効率化は——怠惰から生まれる。
※本作はAIを創作の補助に利用しております




