続・女子社員の配偶者は、ターゲット。
女子社員の配偶者は、ターゲット。
https://ncode.syosetu.com/n2878lq/
の、続編になっております。
オレの名は、伊藤光宙。
入社して少ししてから、なぜか同性である男性に付き纏われた。
付き纏われたのが、女性ならまだわかる。なんで、男なんだよ……!!
企画プレゼン案は盗むし、鬼のようにLINNEメッセしてくるしで、気持ち悪かった。
同僚である肝伊が、何故そんなことをしたのかは、異動の辞令が出ても、頑なに口を割らなかった。
が、異動でいろんな支社を巡っているうちに、オレの勤める東京に戻ってきてしまい、念のため慌てて在宅勤務申請をした。
異動前の付き纏いが収束し、その後2回は引っ越しをしてるのに、同じ会社ということもあり、住所はすぐバレる。
情報セキュリティ教育なんて、守る気がないやつがいると、途端にただの情報玉手箱になる。
それで昼休みの時間に、うちに訪ねてきた事もあった。インターホンで顔が写った事もあり、応対はしなかったが、普通に気持ち悪い。
「何で、会社に言っても、何も動いてくれないんだか……」
休みの日の午前中。朝食後のまったりコーヒータイムだが、ついつい愚痴がこぼれる。
「そりゃ、光宙が男だからでしょ」
妻の的を射た上に冷たい返事。ホカホカのコーヒーのような温かい言葉をください。マグカップの湯気を、見習ってほしい。
「っても、気持ち悪すぎじゃね?」
「キモいけど、身近で経験してない上の世代の人なんて、本当に他人事でしかないわよ?」
「くっそ……どうにか、どうにか出来ないのか……!」
アレやコレは、犯罪だからダメ。
ソレやアッチは、犯罪に近いから、やっぱダメ。解決策が見えない……!
「ねぇ、何でひとりでどうにか出来るって思ってんの?」
妻からの冷めた目線と言葉が降ってくる。あ、なんか、これ、ガチギレの時の顔じゃんか……。
「いや、ひとりじゃなく、ちゃんと上に相談だって……」
「得られる結果が現状維持なら、何も変わってないじゃない」
「そ、そうは言っても、ちゃんと社内に情報流してくれる人もいるわけで、こうやって対策は取れたわけだし」
妻の視線が絶対零度な温度に感じる。生温かい目線の時より格段に怖い。
「情報流されても、無駄に不安を煽るだけよね、解決策ない状態だと」
その通りでございます。
「しかも、ミツは愚痴をこぼしているわけでもないんだよね、情報くれる人に」
「うん、今日は肝伊がなになにしてたよ、って探っていた内容を教えてくれる事に、ありがとうって言うくらい」
「そのなになにをしている、って教えてはくれる。多分ミツの事を探っている関連だろうけど、それを止めてくれるような行動を、してくれるわけでもないよね」
「まぁ、危ないやつだから関わらない方がいいし」
「そうね、危ないから関わりたくないのはわかるわ。でも、それ中途半端に不安を煽る状態でしかないって、向こうは気づいていないわよね」
妻の言葉に、なんとなくピースがハマる感覚を得た。
今の所、家に来て恐怖を与えられた被害はあったものの、それ以外は起きていない。
しかし、対策をするには情報が欲しいなどなど、いろんな思いがあったけれど、現状維持でしかないこの状況に、途轍もないストレスが掛かっていたことに気づいた。
「実際、タメになる動き方してくれているわけじゃない外野の行動って、邪魔でしかないモノだからね」
妻、厳しい。善意で動いてくれている人だってわかるから、同意も否定もできない状態だ。
〜〜♪
〜♪♪♪ 〜♪〜♪〜♪ ♪〜〜〜〜
オレと妻のスマホが同時に鳴る。オレはLINNEメッセージの音。妻は暴れん坊殿様の着信メロディ。
オレの方はっと……飲み仲間の宮原さんだ。
――前のストーカーの件、うちの奥さんがすごい情報仕入れてきました。
え、すごい情報ってなに?
「あ、もしもし、宮ちゃん? どうしたの〜?」
妻の方は、宮さんの奥さんのようだ。
『イトちゃん、お休みの日にごめんねー。旦那さんのストーカーのやつ、ヤバい情報ゲットしたよ! 急でごめんだけど、今日予定がないなら、一緒にランチしてお話ししたいな〜』
声がダダ漏れている。奥さん側も宮さんと同じ内容っぽい雰囲気。
妻がスマホを指差しながら、オレの方を見る。
聞こえてるでしょ、OK? NG? と言いたげな顔だ。オレはつい両手で大きく丸を描いて返事をしてしまった。
気になるし。そんでもって気になるし。
「オッケー、旦那はいる? いらない?」
オレ当事者。扱い雑にしないで……。
『イトちゃん旦那さんも気になっているでしょ〜? 来るなら気まずくないように、うちの旦那も同席させるよ〜』
あ、宮さんもきてくれるなら嬉しい。
「わかったわ、そっち行くわね」
『オッケー、ちょっとわかりにくい場所指定しちゃうけどいい?』
「住所あれば問題ないわ」
そうして電話を切ると、おでかけ決定なので妻は着替えて化粧をする。オレも着替える。
「バイクで行くから薄着じゃダメよ」
「えっ、こんなに寒いのにバイク?! 電車でよくない?」
今の季節は冬。冬のバイクは寒い。ついでに言うならオレはバイクの免許は持っていない。妻の運転するバイクの後ろに乗る事になる。
「あんたねー、ストーカーに狙われてるのに、オチオチ駅まで歩いて、電車に乗るつもり?」
そう言われて気づく。もし、ストーカーの肝伊がうちのそばにいたら、駅までの尾行は簡単だし、同じ箱物空間に居合わせる可能性もある事に。
そして、妻がクローゼットから、オレが見たこともない上着を取り出して渡してきた。
あと、ボディバッグもタグがついたままの新品だ。
「いつ買ったの、こんなの」
「一昨日届いたの。まだ会社に着て行ったことのない上着やバッグなら気づかれにくいわよ。好みが違うとかはこの際ナシね」
「いや、すげぇ好みのデザインだし……嬉しい」
え、妻がそこまで徹底しているって、オレ危機感足りてない?
そして渡してきたネックウォーマーとヘルメット。顎まで覆っていないジェットタイプのもので、メットについているシールドが、スポーツサングラスみたいなのギラギラした物になっている。あれ、前までサンバイザーっぽい薄い黒色だったような……。
「あ、あれ、こんなメットだったっけ……?」
「シールドのパーツをミラータイプに変えておいたのよ」
妻のヘルメットも同じようにスポーツサングラスっぽいやつ……ミラータイプっていうのか。それに変わっていた。
そして、それをその場で被って見せてくれた。
「あ、顔がわかんねぇ!」
妻のメットのシールドに映るのはオレの顔。あ、それでミラー(鏡)ってことか。
「バイク駐輪場がある、裏手のマンション出入り口使うからとは言え、顔は隠して出た方がいいでしょ」
徹底っぷりがすごい……。よくそこまで思いつくな……。バイクに乗るかもわかんない状態だったのに。
そして、宮原夫妻が待つ場所へ。
バイクにあるホルダーへスマホをセットして、ナビを映し出した。
しかし、ナビの示した方向とは真逆に走り出す。
「え」
「声出さないで」
バイクのエンジン音でかき消され、肉声は周りに届かなさそうだが、念のためだろう。
そして、妻は家からいちばん近いショッピングモールへバイクを走らせる。
立体駐車場へ入るとそのまま2階、3階へと走らせる。今度は2階、1階へと降りて、入ってきたところとは別の出口から出て、今度はナビの通りに走り出した。
もし、ストーカーが家の近所にいた場合を考えて、尾行してきたのなら撒くつもりのような行動だ。
そして40分ほどのドライブをする。
時折ナビの道から外れては戻る行動をしていた。
最終的にはナビに従うも、そこは住宅街のような細い路地。
言うなれば、穴場のお店見たいな雰囲気を予感させる感じで、普段のオレならワクワクしたかもしれないが、今日はそんな余裕が全くなかった。
お店、といっても看板が出ていないので、何屋かわからないところだ。
バイクから降りて門扉をくぐり、門の内側にある駐輪場へバイクを置いて、入り口の扉を開けると、小洒落た洋食屋のような内装が広がる。
地元民が知る隠れ家的レストラン、みたいなやつかな。うちの近所にもあったりするのだろうか。と目を奪われているが、妻はどんどん進んでいくので、オレも後を追う。
店員へ宮原の連れです、と伝えると奥の個室へ案内された。
「お疲れー」
「イトちゃんやっほー! ごめんね、きてもらって」
「ううん、ちょうどいいドライブにもなったし、うちの近所じゃ安心できないわ」
そう、社内偵察者の不確かな情報によると、肝伊は別宅として、うちの近所のアパートを借りているとかいないとか。
マジで怖い。
個室は大きめの掘り炬燵席。バイクで結構寒かったからすげぇ嬉しい。
飯が運ばれてくるまで、他愛もない世間話をしつつ、時間を潰す。
運ばれてきたのは、片手で食べられる盛り合わせ料理系と、小皿よりは大きめのお皿に載ったおしゃれパスタが2種類ほど。
コーンスープっぽいやつもあるし、ザ・洋食って雰囲気だ。
テキトーにつまみながら話をする感じだな。
「そんで、まず気になること。なんで宮ちゃんが情報ゲットできたの?」
妻の出す疑問、もっともだ。オレも気になる。
「イトちゃん旦那さんの会社は、うちの取引先だよ。あたしだって営業だから、そっちの会社に出入りしてるんだ。部長専任の会社ってわけじゃないからね。あたしの担当はイトちゃん旦那さんじゃなく、白辺さんだけど」
「あ、あの人か……」
白辺さん……コミュ力の鬼と呼ばれる、うちの会社最強のおば……お姉様。
「その白辺さんが、ストーカー男から色々聞き出してくれたんだよ。あたしも事前にオフレコで〜とか言いながら言いふらして、ストーカー情報集めてみたんだ〜」
「うわぁ、ありがとう。わざわざごめんね」
「ううん、全然。白辺さんに貸し幾つもあるからねぇ」
え、あの白辺さん相手に貸し作れるって、宮さん妻、強くね?
営業職だからこそのトーク力なんだろうか。
――うちの奥さん、怖いよね。
宮さんから送られてくる視線。オレは小さく頷いておいた。
「そんで、聞き出したストーキング理由!! それはイトちゃん旦那の名前のせいでしたっ!!」
結論ズバッと言われたけど、意味がわからない。
オレの名前は親がつけたものだから、どうしようもできんし、どういうことかと宮さんをみてみると、すっっっっっごい憐れみ800%くらいの目線が飛んできている。いや、マジでどういうこと。
「ミツヒロとかミツオキって読めそうだけど、ミツソラって読ませてる、気持ち変わった名前かもしれない程度じゃない? キラキラネームでも……あっっ」
え、ちょ、あって何?!
妻〜ズ、笑顔で指差しあって……
「「キラチュウ!!!」」
と、納得顔。
うん? キラチュウって、ポシェットモンスターの光ネズミさん……あーーーーー!!!
オレの名前の『光宙』、キラチュウって読ませたキラキラネームが一時期話題になってたーーーー!!!!
「肝伊は、付き合ってた彼女妊娠させちゃって、子供を認知しているらしいよ。その子の名前がキラチュウくんってわけ」
オレは ミ ツ ヒ ロ ーーーーーー!!!!!!
「んで、キラチュウくんが転生して、イトちゃん旦那に憑依したって思い込んでいるらしいよ」
「「キモっっ!!!」」
妻と声がハモる。
「んで、息子の作ったプレゼンデータを、父親が使うのも問題ないだろうって思って、盗ったらしいよ」
んなわけあるかーーー!!!
なるぅ系漫画や小説の読みすぎかーーーー!!!
今の今まで口を割らなかった肝伊の行動が、判明した。
「き、気持ち悪すぎる理由で、かつ信じられないんだけど……」
オレの顔からは、血の気が引いているのがわかるくらい、温度を感じていない。
「で、でも、執着する理由としては納得できるよ……。理解はできないけど。そんでもって、頭おかしすぎてキモいけど」
宮さ〜ん!! オレもわかるけど、キモすぎかつ、嫌すぎるぅうぅ!!!
「あれ、憑依転生とか言ってるってことは……キラチュウくんは……もう……?」
妻の言葉にオレも、あっ……となってしまう。
「生きてるよ」
「「へっっ??」」
いまのキラチュウ君(子供)は、抜け殻で、キラチュウ君の魂は俺の中にいるという設定らしい。
「ストーカーのやつ、表面の社交度はめっちゃ高いらしいから、飲みに行った人とすぐ仲良くなって、ペラペラ自分の事喋るらしいよ。別の支社にいた人にも、同じこと喋っていたって、白辺さん確認とってくれた」
個人情報の自衛ッッッ!! ザルすぎて不安。
「あ、あれ……、入社した頃からちょっとしてオレに執着していたってことは、その頃にはキラチュウくんは存在していたってことだ、よね……」
ってことは、キラチュウくんはそれなりに大きい子供ってことか。
「なんにせよ、考え方がぶっ飛びすぎておかしいわ。本物のキラチュウくんに執着するならわかるも、漢字が一緒で読み方が違う、自分と同じくらいの歳の男に執着って時点でね」
妻の顔が、生乾き雑巾を見るようなものになっていた。
「そんで、白辺さんが3人くらいに聞き取り調査して、まとめてくれたPeDFデータと白辺さん自身が聞き取り調査した内容のデータ」
そういって、宮さんの奥さんは、データ記録カードと紙の束を渡してくれた。
上に掛け合うには、強いか弱いかわからないものの、肝伊の異常性を訴えるには十分だ。
オレは、しっかりと宮さんの奥さんに頭を下げる。
「宮原さん本当にありがとう。白辺さんにもお礼伝えないと……」
「白辺さんにお礼するなら、イトちゃんお手製のパウンドケーキがオススメ」
「「へ?」」
サラッと放たれた言葉に、オレと妻は目を丸くする。
「なんか、たまーにイトちゃん旦那さんが、午後の小休憩の時に食べているパウンドケーキが、すっごい気になっているって。でも白辺さんは、イトちゃん旦那との接点がないのもあって、あまりグイグイ行って引かれてもって遠慮してお店を訊けてないのです」
白辺さんとは、仕事関連以外の話はほぼしない……。
雑に絡まず、絡みのない人へは適度な距離感を持つ人だしな。
「んで、あれは奥さんのお手製のパウンドケーキだよって教えたら、ますます気になるって言ってた」
お礼の品にできる物のリサーチまで……宮さんの奥さんマジですげぇ。
そして、せめてものお礼にと、ランチはオレが代金を出させてもらえた。
「ご馳走様〜! ごめんね、うちの旦那空気状態だったのに、こっちまで奢ってもらっちゃって」
「いえいえ、そんな事ないですよ。居てくれて助かりましたし」
そして、宮原夫妻と別れ家に帰ってきた。
「お手間をお掛けするのは心苦しいのですが、白辺さんへのパウンドケーキをお作り頂けますか」
平身低頭妻にお願いをするオレ。
妻はニッコリ笑って頷いてくれた。
「高くつくわよ」
「全くもって構いません……。あと、オレも食べたい」
お店で買うよりもアッサリしてるけどしっとりしてて、甘さが絶妙な妻のパウンドケーキ。
甘い物を食べたいけれど、甘すぎると胃もたれするから、本当にこの甘さがちょうど良かったりする。
そんなパウンドケーキを作ってくれて、白辺さん分はパウンドケーキの型丸まんま、オレのはカットされて3切れ。このくらいが甘い物堪能にちょうどイイ量。
それを持って月曜日に出社して、始業前に白辺さんへお渡し出来た。
「力になれたなら嬉しいし、気になっていたパウンドケーキも頂けてさらに嬉しい、ありがとう」
「いえ、こちらこそ。これから上長に資料渡して、どうにかしてもらうよう伝えに行きます。本当にありがとうございました」
「そんなら、わたしもついて行って、補足説明できる面があったら、言わせてもらうわ」
そうして上長に伝えると、流石に証言資料あり、本人から聞き取った人の言葉あり、証言資料の人らに確認を取っても内容通りの事だったので、異常さを理解してくれた。
本人に確認を取ったところ、やはりその内容を認めたし、ふわふわな情報でしかなかった、オレの住む近所に別宅を借りていたことも、確かなものとなった。
気持ち悪ぅ……。
――それから少し時は流れ……
今日の俺、いつも通り社員ダイニングで、カミさん特製弁当の蓋を開ける。
このパカリの瞬間が、いつもわくわくしてしまう。
本日は〜、か・い・せ・ん!!
と言っても、鮮度ピチピチな海鮮の集まりではなく、イカやタコ、小さなホタテ、それらの炊き込みご飯に、ゲソ揚げならぬゲソ焼き、などなど海の幸盛りだくさんなお弁当だ。
炊き込みご飯で味がついている分、他のおかずはあっさり味付けで、味のバランスばっちり。さすがカミさん。
「おー、そんじゃ旦那さんに平和が戻ったんだー?」
おや、この声は宮原。伊藤に向かって言っているであろうセリフと思われる。
「えぇ。今日も元気に出社していったわ」
伊藤さん、在宅勤務ではなくなったようだ。
「ストーカー野郎を子会社に移籍して、そこの海外事業所に飛ばしたらしいわ」
「やっぱ、行動がキモい状態でも、クビにはならないんだねー」
解雇って会社はめんどくさがるんだよね、どんなに従業員間で問題があっても、犯罪・損害が少ないと躊躇する。
不当解雇ってゴネられると、面倒臭さが待っているからってのもあるんだよな。きっと。
「ね。自社や他社に、金銭的な損害を与えたわけではないから、だって。けれど、社内でのコンプラ的なモノに引っかかるのもあって、やっと処分してくれたらしいの」
お、伊藤さんストーカーから解放されたのか! よかった。
何がどうなってそうなったのかは、伊藤・宮原間でわかっているだろうから、ここで再説明はなさそうだ。
いつか笑い話に出来た時、伊藤さんから教えてくれるだろう。
何にせよ、2人の声が明るくなっていてよかった。
2週間後の俺、飲み会で震え上がることを、今はまだ知らない。




