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勇者の死を正しく書いたら、国に消されかけた件 ―剣も魔法も使えない記録官の、静かな反逆  作者: 白坂ミナト


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第18話 勇者は、戻らなかった

 勇者の記録は、すでに完成している。


 王国が認め、宗教が承認し、人々が信じている物語。

 そこに、疑問の余地はない。


 ――公には。


 だが、私の手元には、

 誰にも読まれなかった断片が残っていた。


 提出されなかった草稿。

 破棄される前に写し取った行動記録。

 そして、勇者自身の言葉。


 私は、王都の外れにある小さな書庫で、それらを読み返していた。


「勝てば、世界は救われる」


そう言われるのが、一番怖い。


 勇者の文字は、整っていない。

 急いで書かれたものだ。


救われたと思った瞬間に、

人は考えることをやめる。


 私は、紙の上のその言葉を、指でなぞった。


 彼は、最初から分かっていたのだ。


 自分が勝っても、

 世界は変わらない。


 むしろ、

 固定される。


魔王と話した。


彼は、世界の終わりを知っている。

それを止めようとはしていない。


ただ、選ぼうとしている。


 私は、目を閉じた。


 魔王が言っていた言葉と、重なる。


 「正しい終わり方を、選びたい」


 勇者は、その意味を理解していた。

 理解したうえで、剣を振った。


もし、これを公にすれば、

皆は立ち止まるだろう。


それは、救いかもしれない。

でも、今じゃない。


 今じゃない。


 その判断を、

 彼は一人で背負った。


 私は、椅子に深く腰掛けた。


 勇者は、戻らなかった。


 逃げなかったわけではない。

 諦めたわけでもない。


 戻らないことを、選んだのだ。


 真実を語らず、

 英雄譚の中で死ぬことで。


 王国は、彼を利用した。

 宗教は、彼を象徴にした。

 民衆は、彼に希望を重ねた。


 だが、

 彼自身が選んだ道でもあった。


 私は、その事実を、

 ようやく受け入れられた。


 勇者と、私。


 立場は違う。

 力も違う。


 だが、同じ場所に立っている。


 語れば壊れる世界を前に、

 沈黙を選ぶかどうか。


 勇者は、沈黙を選んだ。


 私は――。


 私は、勇者の記録を閉じた。


 これを読めば、

 勇者を責めることも、

 王国を一方的に悪とすることもできない。


 それが、

 一番苦しい結論だった。


 正義の話ではない。

 善悪の問題でもない。


 選択の問題だ。


 私は、静かに立ち上がった。


 勇者は、戻らなかった。


 そして、私も――

 もう戻れない。


 同じ選択はしない。

 だが、同じ場所に立つ。


 語らない勇者。

 書き続ける記録官。


 役割が、違うだけだ。


 書庫を出ると、夕暮れだった。


 王都の空は、赤く染まっている。


 この光景を、

 勇者はもう見ていない。


 だが、彼が残した沈黙が、

 今もこの世界を支えている。


 私は、胸の奥で小さく呟いた。


「……あなたは、間違っていなかった」


 声に出す必要はない。


 彼は、答えない。

 最初から。


 私は、歩き出した。


 次にやることは、もう決まっている。


 世界を変えない。

 英雄譚を壊さない。


 それでも――

 記録は、終わらせない。


 勇者は、戻らなかった。


 だからこそ、

 私は、進む。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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