1/8 遭難STRANGER
今やスマホ一つで世界中の人間と繋がる事ができる時代である。
SNSを開けば、地球の反対側にいる誰かの日常が流れ込み、翻訳機能を使えば言葉の壁さえ越えられる。
オンラインゲームでは顔も名前も知らない相手と協力し、配信や通話アプリでは、距離を感じさせない会話が成立する。
ニュースは瞬時に共有され、喜びも怒りも同時に拡散していく。
画面の中には常に人の気配があり、繋がろうと思えば、いつでも誰かがいる。
しかし、そんな世界で私は1人孤独に廊下に佇んでいた。
蛍光灯がカラフルな廊下を照らし、天井に設置されたスピーカーからは大阪LOVERが流れている。
カラオケボックス。
トイレに立ったのは数分前である。
飲みすぎたジンジャーエールの代償に、友人がミスチルを歌う横をいそいそと出てきたのだ。
部屋を出て辺りを見回す。
トイレの案内はなく、満タンになった膀胱が便器を急かす。
右に曲がって目の前にあったトイレで用を足し、満足げに個室から出た時である。
目の前に並ぶ、511、512、513、514の扉。
見た目からして見分けはつかない。
そも、見分けがついたところで出てきた扉の姿が思い出せないので意味がない。
何となく、通路を曲がった辺りであったことは朧げに残っている。
やや右方向に折れている通路の角。
513号室をそっと開けた。
…いない。
個室の中は完全なる無人で、カラオケDAMのテレビが何かをボソボソと呟いていた。
そっと扉を閉じる。
これで三択である。
511号室は角から離れすぎている。
おそらくは512号室又は514号室であると思われた。
一般客のフリをして512号室の前を通り過ぎる。
なんか扉の奥でカラオケが歌詞を流している。
おそらく中に誰かがいる。
だが、私の記憶にあるボックス内のレイアウトでは、扉から見える位置にテレビはなかった。
出てきた部屋ではない。
知らない人がいるボックスに間違えて入ることほど罪深いことはない。
捜索は難航した。
スマホは部屋の中に置いてきた。
壁一つ、扉一つ挟んだ向こうに繋がりがあるのに、その時私は廊下の中で完全な孤独に陥っていた。
AIがメールのチェックをしてリマインダーまで行ってくれる時代である。
ありとあらゆるガジェットの中で拡張された肉体機能は、ある種の全能感すら私に覚えさせていた。
しかし、今の私は完全なる身一つである。
肉体一つの人間の何と無力なことか。
便利に囲まれる現代において、かくも孤独を味わう事があろうかと2番に入った大阪LOVERを聴きながら思ったのだった。
追記
511号室を除いたところ無人で、514号室にカップルが入ったので、一念発起して512号室に突入したところ、そこが元の部屋でした。
あるはずのない場所にあったテレビは、部屋を広く見せるための鏡に反射してたらしい。
友人には笑われました。




