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2/25 一念発起

大掃除をしている。


深夜2時に。


大掃除をしている。


空は黒々として、星を隠しつつある雲の行方が6時からの雨の予行演習をしている。


徐々に温度を失っていく室内にしろ、ペットボトルのラベルを剥がし続けてベタつき出した指先にしろ、早々の対処は容易ではあるものの、色々捨てるためにこの後外に出るしペットボトルはまだあるしで、即座の対応は実質的に不可能だった。


数百本のペットボトルが詰め込まれた45Lゴミ袋を抱え、リビングで「Apple pencil 2m」と表示しているiPadを見た。



始まりは突然のことだった。


昨夜11時。


特にこの後の予定もなく、やりたいこともなかった私は、さっさと寝てしまおうとコンタクトを外し枕元に放置してあったメガネを取ろうとしていた。


youtubeを自動再生しつつ、自分が認識できないレベルでのノンストレス入眠を試みるためである。


ベッドに入り、右側の定位置を弄る。


空振り。


あるはずのプラスチックの感触はそこになく、私の掌はベッドのシーツを叩くに至った。



空振り。


空振り。


空振り。


一度入って定位置についてしまった頭を動かしたく無いという類稀なる強固な意思が無意味な数度の確認を施行したが、結果的に私の手がメガネを掴み取ることはなかった。


世界を恨めしく思いつつ、天井を見上げる。


ボヤけた視界は何ものも認識せず、モニターに移り行く光の色だけがそこにはあった。


ため息をついて顔を動かし、そしてメガネが定位置に完全に存在しないことを認識したのち、完全に体を起こした。


探さねばなるまい。


完璧な睡眠のため。


眼鏡を。


多くの場合、定位置にいない眼鏡はベッド右側面或いは上部、棚との隙間に落ちている。


右側を覗き込む。


床に散らばるペットボトル、イヤホン、iPad。ボヤけた視界でも、手で弄ってもメガネはそこに無い。


イヤホンとiPadをベッドの上に救出し、上部の隙間を弄る。


手先にプラスチックの馴染み深い感触があった。


完全なる確信の後、それを取り上げる。


モニターの光に照らされ、指先に残っていたのは細く曲がったプラスチック片。


望んだものではなかった。が、確かに私はそれを探し続けていたのだ。


眼鏡の右ツルカバー。


1/19に失って以来剥き出しになっていた眼鏡のツルのカバー。


歓喜の瞬間。


興奮冷めやらぬまま再度隙間に手を突っ込んでメガネを取り出し、剥き出しの骨にカバーを被せる。


1ヶ月越しの再会である。


それは長く空いた年月など関係ないと言うように完全にはまり込み、元から何もなかったかのような完成度を見せた。


眼鏡を装着する。


常に右耳に冷たい感触を与えていたそれは、今や何ら痛痒を私に与えようとしない。


完璧だった。


ほっと一息つき、YouTube鑑賞を始める。



……


………。


こう探し物が見つかると、今度は新たな思いが湧き出てくる。


Apple Pencil 。


2/20に雲隠れし、以来私のタイムマシン存在証明を補強し続けているそれ。


やはり見つけるべきではないだろうか。


予備というか、4000円くらいのiPad用ペンはあるのだが、所々反応しないし、ペン先はすぐ取れるしで純正品の使い心地を知ってしまった私からしてApple Pencil の無い生活というのは右ツルカバーのない眼鏡よりも大きなストレスを私に与え続けていた。


眼鏡を完成させた興奮で眠気はもう随分と衰退している。


一念発起、ベッドから立ち上がり、消していた電気を付けた。



…。



それから約3時間の経過である。


ブラウザで「Apple Pencil ない」とアホみたいな検索をした挙句、Bluetooth 探しアプリなるものをダウンロードし、5日前に無くした時点でBluetooth接続はとっくに切れてて絶望している最中に衝撃を与えればApple Pencilは起動するという記事を発見し、家中を暴れ回り何とかBluetooth を接続させ、ウロウロと部屋中をiPad を抱えて歩き回った3時間である。


この3時間で分かったことは、


・Apple Pencil は間違いなくベッド周辺にあること。


・それによって私のタイムマシン存在証明が完全に破綻したこと。


・でも、もしかしたら直接未来にあるApple Pencil に接続したかもしれないこと。


・それはそれとして部屋が汚ねぇこと。


である。


Apple Pencil は間違いなくベッド周辺にある。


問題を上げるのなら、汚部屋といっても過言ではない私の部屋は、ベッド周辺に近づくにつれそのレベルをあげていくことである。


私のベッド周辺は捨て置いたペットボトル、洋服、本で埋め尽くされている。


足の踏み場は四方7cmほどのものが点在しているのみであり、通常の歩行は極めて困難、その中で鉛筆より少し大きい程度のApple Pencilを見つけ出すのは不可能と言えた。


そこで、本日2度目、いや、日付が変わったので本日1度目の一念発起である。


大掃除をしよう。



…。



帰って冒頭である。


部屋中に散乱していたペットボトルを一つ残らず回収、洗浄し、キャップとラベルに分類する。


私の部屋にペットボトルが満ちていたのはこのめんどくささが由来していたのだが、心を入れ替えた私にとってそれはさしたる苦労ではなかった。


未だにApple Pencilは見つかっていない。


だがしかし、幾つもの怠惰と長年の研究を捨て去った私にとって、もはやそれを見つけることなど児戯に等しいと確信していた。

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