2/16 置き配
それは突然に鳴り響いた。
2音。
ミとド。
形容にしてピーンポーンとしか言えない、玄関のチャイムであった。
多くの場合それは来客によって鳴らされ、今回もその例に漏れなかった。
Amazonの配達である。
そう言えば一昨日コメダ豆菓子100袋入りを購入したことを思い出した。
あれは堪らなく美味しい。
昨今のマイクポップコーン濃厚バターしょうゆ味製造停止に先立って新たなスナックを探していた私の目の前に流星の如く現れた存在であった。
口寂しさを埋めるのに丁度いい味、サイズ、量。
小袋タイプなため数多くのゴミを量産する事になるのは玉に瑕だが、それを加味しても多くの効用を私にもたらしうる存在である。
それの配達に私は諸手をあげて感激する。
それが風呂に入っているタイミングでなければ。
時刻は午後3時。
昼過ぎに起き、適当にマクドナルドを食べた後何となく入った風呂だった。
Xにて今更カイドウの強さ論争をしているポストを無感動に眺めていたところであった。
2音の繰り返しは2回。
1度目で跳ね起き、2度目で風呂の扉を突き破った。
「はーい。」
「配達でーす。」
「はーい。」
床にお湯を撒き散らしながらエントランスのドアを開ける。
エントランスから私の部屋までは数えて約1分半。
エレベーターの運にも左右されるが、±1分の誤差程度しかない。
そこからの行動は速かった。
バスタオルを全身に巻き付けある程度水気を取る。
濡れるのも憚らず衣服を着用し、髪を全力で拭きまくる。
明らかに風呂に入っていたことがわかる見目ではあるが、公衆の面前で露出するよりかは遥かに倫理的であろう。
高い遵法意識の末成り立った即座の対処にて風呂場の前は洪水と化したが、それはもはやさしたる問題ではなかった。
座して待つ。
それが鳴るのを。
スマホを持って。
玄関前チャイム。
ミとド。
その2音を。
…。
……待つ。
………待つ。
…………待つ。
気づけば、髪は乾き切っていた。
持っていたスマホのスクロール回数は優に500回を超え、Xのスクリーンタイムは20分の経過を示していた。
Xにて配達員のポストが流れてきたタイミングで私の本来の役割を思い出した。
ハッと意識を現実にチューニングし、そっと玄関前を見た。
そこに置かれた30cm程度の紙袋。
それは待ち望んだコメダ豆菓子100袋入りであった。
拾い上げ、戻ってベッドに放る。
その足のまま風呂場のドアを開けた。
湯はとうに冷え切っている。
給湯器の電源をつけた。
鈴のような音がなった。
その時渦巻いていた感情を、私はまだ上手く表現できない。




