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2/12 残党


私の部屋にはキッチンが無い。


学生寮でかつ自炊しないこともあり、まぁ要らんやろの精神でそれがない方の部屋を借りたのが理由である。


洗い物などに関してだが、割り箸、紙コップの大量使用によって、昨今のSDGs事情からして後ろ指を刺されつつも事なきを得ている。


この部屋に住み始めて3年になるが、今の所キッチンが無いことで困ったことは無い。


ただ一つの例を除いては。


私の目の前には麺を食べ尽くしたカップヌードルが鎮座している。


入れたお湯の総量は300mlと少し。


麺に絡まって失われた分を加味しても270mlは残っている。


カップヌードルのスープは多くの企業努力の末作られた奇跡の液体である。


それは計算された麺、かやくと緻密に相性を計算され、食事手に最も高い幸福を与えるように設計されている。


そして今、鎮座するはそれら麺、かやくを全て失った残り汁である。


55年来の友を失ったそのスープは、今なお鼻腔に食欲をそそるような香りを提供している。


が、それはそれとしてそれは残り汁である。


正確には知らないが、カップヌードルの残り汁は飲まない方がいいらしい。


何か塩分がどうたらで、病気になりやすいとか何とか。


それは10年にわたってブタメンの汁をごくごく飲み干していた私からして衝撃の真実だったが、とにかく飲まない方がいいらしい。


先月の死ぬほど長引いたインフルエンザB型により、魔人にお願いする三つの願いのうち億万長者の願いが生涯健康に置き換わった私からして、健康は今最もホットな話題である。


目の前に鎮座する残り汁。


飲まない方がいいといえど、私の家にはそれを処理できるようなキッチンは存在しない。


そこが見えないスープの中には未だ55年の友情を大切にしている麺の切れ端や胡椒の残党が潜んでいるだろう。


洗面台に流すのは躊躇する。


八方手詰まりだ。


数多くのモラルを無視すれば見えてくる道もあろうが、社会性動物たる人間に生を受けた以上それを試す気にはならなかった。


やるしかあるまい。


やらねばなるまい。


一心、スープを飲み干す。


…。


……。


………死ぬほど美味しい。

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