2/9 レフトレッグクラッシャー
空が転回していた。
黒々とした路面は遥かに遠く、木々は視界上部で地に逆らっている。
足先は吸い込まれそうなほど青々とした空虚に向かって伸び、伸身は全面を宙空に晒していた。
絶対法則が意味を失う。
全ての生命多様性の根幹を、あまねく物理構造の大前提を粛々と賭してきたそれが、牙を剥く。
後頭部に向かって働く重力を感じながら、巡る呪いの指先が私の首元にかかった事を認識していた。
…。
始まりは3年前だった。
父の兄、私の伯父に当たる彼が、仕事中に左の踵を粉砕骨折した。
その際踵の修復に失敗した伯父は、神経を2年近く露出させたままにした挙句、昨年再手術に至る迄に多くの波乱を巻き起こしたのだが、それは今置いておこう。
伯父が踵を粉砕した1年後、私の弟が部活中に左足を逆にへし折った。
膝裏の筋が伸びに伸びたらしいが、今元気に走り回っているのを見ると、成長期の脳筋とは、フィジカルとは何者にも勝るのだと思った。
さらにその半年後、再従姉妹が左足首をへし折った。
業務中のことだったらしいが、大叔父の家系が医療従事者が多いので昨日会った時は完全に回復していたようだった。
そしてさらにその1年後、私の母が左足小指にヒビを入れた。
夕飯の準備中のこと、食器を小指に落としたようで、数日放置した挙句腫れに腫れ、レントゲンを撮った結果ヒビが入っていたとの事だった。
せいぜい半年前の事のようだが、今はもう治っているようだ。
我家系は、最近左足に骨折以上のダメージが入る呪いがかかっているようだった。
初めの伯父が粉砕骨折の拍子に祠か何かをぶっ壊したんじゃなかろうかと私は踏んでいるのだが、真相は定かではない。
そして今、その呪いは私へと巡ってきたようだった。
浮遊感。
ひっくり返る視界。
連日の寒波により、地面は硬く凍りついていた。
気づいた時には、視界は空を向いていた。
とはいえ、そこまで私は焦っていない。
連続で見てわかる通り、その全てが骨折によって構成されてはいるものの、その負傷度合い及び範囲は人を追うごとに小さくなっている。
最後の母が小指に亀裂骨折である。
もう私に残された負傷など、捻挫程度のものだろう。
どこか穏やかな気持ちで空を見る。
全身に浴びる青。
視界の隅、上に向く左足。
ん?
左足?
滑った拍子に高く掲げられた左足は、他一切の干渉なく視界端に鎮座している。
これ怪我しようがなくない?
本体がどうなろうと、左足だけは絶対的に無事なのでは?
ひょっとしてこれ、別枠?
呪い関係なく不注意?
それを悟った後、後頭部の衝撃が全てを幕切った。
追記
後頭部をしたたかにぶち当てた割には無傷でした。
あと、今思い出したんですけど5年くらい前に祖母が左足に追突されて長らく入院していたのがこの呪いの始まりかもしれません




