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2/6 侵略


もし宇宙人が地球侵略のため、頂点捕食者たる人間の研究をするべく私の前に立ったとする。


「ワタシ、宇宙人。オ前、私ニ欲シイモノ言ウ。」


侵略は武力のみで行う物では無い。


生命、とその関係構造そのものが財であるとした時、宇宙文明に突入している彼ら宇宙人の武力はそれらを乱しかねない。


よって、一先ずは懐柔にて侵略するのが最近のトレンドである。


そうした状況に陥った時、私は迷わずこう言うだろう。


「あ、えっと、とりあえずどんな状況でも落とした物を私の手の中に収める能力を下さい。」





それは、東京に向かう丸の内線に揺られていた時のこと。


時刻は昼ごろ。


平日も平日ではあったが、週末が控えている関係上その電車内は息をする間もないほどに人でごった返していた。


一応マナーとして背負っていたリュックを足元に下ろし、人が出入りする波の押し引きに乗りつつ肩紐を引っ張り、ずっていた紐が踏まれ、それでもなんとか移動してを繰り返していた。


そんな折、横のポケットに突き刺していた綾鷹濃い緑茶がするりと自らの居場所を逃れ、床へと奇跡の逃亡を果たしたのである。


横倒しのペットボトル。


中身は8割2分。


電車にゆりゆられ、私の足の周りを元気に転げ回るそれ。


必死だった。


私の足の可動域外に出て行こうとするペットボトルを何とか抑えるその足捌きは、見る人が見ればサッカー日本代表として、ぜひ今度のW杯にというほどのものであった。


中学のサッカーの授業。


元気ではあるが下手な故に、サッカーボールの周りをぐるぐる走り回っていたくせに試合を通して一度もサッカーボールに触れなかった私をしてついじその悲願を達成したというのは置いておいて、状況は緊迫である。


足元に伸びる手は、周囲の物質的、あるいは精神的な障壁によって太もも中腹ほどで縮こまる。


足の裏を転がり、今私の両の足に挟み込まれているそれ。


今は良い。


今は良いが、次の乗降車はどう対処する?


それを突破したとして、東京で降りるときは?


流石に両足でペットボトルを挟んだままジャンプして出るのは私をして難しいと言わざるを得ない。


ペットボトルは今私の足の間にある。


それは何もかも不確かな現代の在り方に一石を投じるように存在感を主張し、主が誰であるか声高に叫んでいる。


しかし、しかしだ。


その主の立場は今かつてないほどに揺らいでいた。


確かな堅牢。


しかし、その土台は箸一本に支えられていると同義だった。


私と綾鷹は今や、相互制御における実存的膠着状態にある。


私の内在的意識、ペットボトルの物質性、そして周囲の身体的空間は分離不可能な統一的現象として存在し、三重の融合は皮膚感覚と物質性の区別の消失を表している。


別に、この綾鷹濃い緑茶にそれほどの執着があるわけではない。


この前書いたように家には未だ数十キロの綾鷹濃い緑茶が鎮座している。


例え8割強残っていたとしても、それを失うことにそれほどの忌避感はない。


ない。


ない、が。


それはつまりポイ捨てと同義では?


モラルが大きく幅を利かせ、足の間を強く締め付ける。


へ、へへ。


う、宇宙人さん。


人類はこんなにも愚かで残念な生き物です。


もし生物とそれに関連する全てをまとめて手中にしたいと望むのでしたら、ど、どうか、どうか床に落ちたペットボトルを私の手の中に収めてください。

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