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1/3 理想の果て

全くもって散々な話である。


私がどれほど彼を愛していようと、彼は曖昧さと儚さの中で気づけば側を離れており、代わりに鎮座するは暴虐無人な傷みだけなのだ。


愛し愛されの話で言うと、高校時代、特に仲の良かった数人の友人がいたのだが、私が大学の後期受験をなんとか捏ね繰り返しているうちにそれぞれが気付かぬうちに絶縁やら厄ネタになっており、大学になんとか進学して程よく色々おさまった雰囲気を察してそこらあたりの情報をよく知る別の友人に聞いたところ、誰々と誰々が誰々の彼女を寝取り寝取られ、P活やら浮気やら二股やらなんやらかんやらドッロドロの恋愛云々の話を聞かされ、薄氷の下にあった高校生の恋愛観の粘つきと、じゃあ逆にサッラサラの高校生活を送った私はなんだったのか、という自問を数日に渡って考えることになったということがあったのだが、それはまたおいておこう。


なんの話かと問われると、睡眠に関しての話である。


先日話した様に、私の望むべく正月というのは、寝正月である。


朝遅くに起き、雑煮を食べ、テレビの前で転がり、おせちを食べ、寝転がった時スマホの向きをどうするべきか悩み、雑煮を食べ、逃走中を見るのが私の正月の理想系である。


またさらに細かく指定するのなら、朝飯以外の大体全てのセクションに昼寝が挟まっているのがマストである。


で、私はこの理想系を通すため実は昨夜手を打っていたのである。


昨夜両親は明日夜、つまり3日の夜にお家焼肉をするため、肉を昼に買いに行こうと話していた。


勤勉な両親である。

一度外出するのに用事が一つだけとは、問屋がおろさないのだ。


映画という話が出た。


上げられる3点の案。


「国宝」「竜とそばかすの姫」「アバター」


それなりに魅力的な提案ではあった。


しかし、問題は上映時間である。


朝起きる時間は軒並み7時、場合によっては6時であった。


イカれていると思った。


コレが1日で済んでいる話ならば、正月だし。という何事も寛容な心持ちで早起きができただろう。


しかし、実は6時起きは今日で6日目なのだった。


実家に帰省するのは数ヶ月ぶりである。


先日も両親は子に甘いと書いたが、その甘さがここに来てある種厳しさへと転じていた。


彼らは私を歓迎しすぎた。


クリスマス過ぎから組まれる念蜜なスケジュール。

朝から晩まで繰り広げられるアクティビティ。


先月の目標が日の歩数20歩以内の私からして、それはハードスケジュールに他ならなかった。


せめて実家に帰省した内の1日くらい。

一度くらいは寝正月を体験したい。


その思いから放たれた言葉であった。


「…1日くらい…何もしない日があっても…良いかもね…。」


ハッとした様子であった。


甘い両親である。

二つ返事だった。


こうも簡単にスケジュールが変わるのならさっさと言っておけば良かったと思った。


因みに、先日ようやくSwitch2が当選した弟はその提案に諸手を挙げて賛成した。


そして迎えた1月3日である。


今日は朝、9時に目を覚ました。


雑煮を食べ、テレビの前に寝転がる。


ゆったりとした時間である。


弟のホグワーツレガシー奪い取り、プロテゴを外してはモンハンと操作が違うと言い訳をし、おせちを食べて布団に入り、3時に起きて硬揚げポテトを食らってまた布団に入る生活である。


正直言って最高の時間だった。


しかし、災厄は突如として身に降りかかるものである。


時間は夕食時。


夕飯の支度が終わった母親の声に釣られて布団から起き出した私である。


食卓にはかねてより計画されていたお家焼肉のための肉が並んでいた。


最高の色味を放つそれは、食に無頓着な私からしても歓喜の声を発さずにいられないものだった。


しかし、肉を食し始めて5分が経った頃、それは起こった。


…重たい。


まだ大きめの肉を半分ほどまで食べただけだった。


しかし、それから捻出される尋常でない脂と濃い匂いが、私の胃をムカムカと蝕んでいた。


考えてみれば当たり前である。


一日中ベッドで休眠していた私の内臓は、今日初めてまともに活動を始めたのだ。


文字通り初働である。


鉄は高熱の状態から一気に氷水に浸すことで強さを増すという話を聞いたことがあるが、私の胃は鉄でできていない。


起きかけの胃に解き放たれるには、近江牛の脂は強烈すぎた。


食べ放題焼肉、開始70分地点の如き胃の重さである。


なんとか出された肉は食べ切れたが、その後焼かれていくタンやカルビを口にすることはできなかった。


ブラックホールの様な弟の口に吸い込まれていくそれらを私は恨めしげに眺めるしかできなかった。


まぁ少量しか食べ切れなかったとはいえ、肉は肉である。


徐々に上がっていく血糖値の微睡の中、テレビの前のソファに座り込み、うたた寝をしようとした時である。


…頭が痛い。


頭蓋を締め上げる様な痛みがじわじわと迫り上がってくる。


最初は無視できる程度のものだったが、次第にそれは安眠を容易に妨害できるほどのものにまで成長していた。


単純な話である。


寝過ぎた。


今なお、頭痛は私の身を蝕んでいる。


証拠に、今日の日記を書き切るのにいつもの倍ほどの時間がかかっている。


寝正月は私の理想とするところであったが、それを得た先にあったのは頭痛と胃のムカつきである。


理想は代償を伴う。


このたった1日の不摂生は、サラサラであった私の血を、高校時代の彼らの恋愛模様の様なドロドロに置き換えてしまったのだろうか。


頭痛に苛まれながら、ベッドの中でそう思うのであった。



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