1/29 薄暗いオレンジ色
薄い暖色が暗闇に緩く落ちていた。
天井は高く、屋根に沿って備え付けられたそれは、ロフト下の電飾の光では全てを見通すことができない。
モダン調にリフォームされてはいたが、周囲が一面田んぼであった時代からある家だ、断熱設備などはないに等しく、フローリングの床は見えない寒気を薄く纏っていた。
その部屋が、元は何の為に作られた部屋なのかは分からない。
だが、広く寒く暗い四角柱の空間は、当時の私の子供部屋であり、そして心に巣食う全ての恐怖が隠れ潜む世界であった。
その日は、偶然家に誰も居なかった。
祖父は数日前から写真家仲間と旅行、祖母は社交ダンスのレッスン、母と父は帰ってくるのが遅く、弟はまだ学童保育にいるはずだった。
金管バンド部が16時ごろに終わり、家に着いたのは太陽の残火がわずかに空を赤く照らしているのみ、藍色の夜が世界のほとんどを占めている時間。季節は冬で、当時は今ほど寒さを感じていなかったが、それでもその日は家中に満ちる冷気がいつもより強いことを察していた。
玄関正面を回り、螺旋状になっている階段を登る。
木造のそれは、当時の体躯であってもギシギシと音を立て、暗闇に潜む何かにこちらの位置を知らせる。
上は見ない。
2階の廊下は光を通さないからだ。
階段を照らす球状のライトのオレンジ色のみを頼りに下を向きながら階段を登る。
子供部屋は向かって右にあった。
俯いたまま廊下に出、そのまま直進して廊下の電気をつける。同時に階段の電気を消す。
一瞬暗闇が満ちたと思ったら、すぐに光が帰ってきた。
左は見ない。
そこには洗面台があって、鏡が置かれているからだ。
シャキーン!で顔を洗う男の鏡に映った像が勝手に顔を上げる映像を見てから、鏡のことは認識しないようにしている。
駆け足で部屋に入り、扉を閉めて電気をつける。
ランドセルとナップサックを肩から外し、床に落とす。
ベッド脇に置いてあったエアコンの電源を押し、ランドセルから今日借りてきたズッコケ三人組を取り出した。
ロフト側とベッド側で仕切りになっている壁にもたれかかり、本を開く。
勉強机で読まないのは、そこには仕切りがなく、広い暗闇に晒されかねないからである。
本は好きだ。
体験しなくとも、目で見なくともその世界にいることが出来る。
感じたこともないような感情が、感覚が、心を満たしてくれる。
1人の寂しさを、恐ろしさを、たくさんの仲間が慰めてくれる。
本を読み進める。
彼ら三人はいつも奇妙な出来事に巻き込まれ、それをどうにか打破している。
最高に痛快な物語だ。
最高に面白い。
これなら誰かが帰ってくるまでの時間を容易に潰せるだろう!
しかし唐突に、ページを捲る手は止まる。
何やら妙な音がする。
何かが連続ではじける音。
何かが途切れ途切れになる音。
聞き覚えのない音ではなかった。
だが、出来る限り聞きたくない音でもあった。
これは倉庫の蛍光灯が点滅する音だ。
倉庫はロフトの階段下、開きにくい扉を開け、一段下がったところにあった。
そこには母が幼い頃に使っていたものであったり、外の倉庫に入れるには繊細な家具などが保管されていた。
仕切りからそっと顔を出す。
ああ、やはりそうだ。
それは暗闇の中で白色を点滅させていた。
開きにくいはずの倉庫の扉は僅かに開いており、蛍光灯の光が仕切りの向こうの空間を何度か照らしている。
闇が一瞬にして全身を染め上げるような感覚があった。
胸の下あたりがざわつく。
本からはもう目を離してしまった。
映像と聴覚による情報量は、本のそれを遥かに凌駕する。
頼れる仲間はもう居なかった。
私はもう、現実にいた。
うす暗いオレンジ色が満ちるこの世界に。
動悸が激しくなる。
暗闇に狼狽する。
蛍光灯の点滅が、私に何かを囁いた気がした。
…。
あれから十何年か経って、今私は一人暮らしをしている。
もう洗面台の鏡は怖くないし、1人の寂しさも感じない。
しかし、いつも家に帰る時、夜眠る時、暗闇が空間の全てを占めるその瞬間だけは、当時の全てが恐ろしかった私が顔を覗かせるのだ。
…。
…という話をね、今作ったんですけども。
それがね、最近4日連続くらいで部屋の電気つけっぱなしで寝てることに関しての言い訳なんですけども、いや、しょうがない。本当にしょうがない。
最近課題やらテストやらイベントやらR.E.P.OやらSplatoonやらをやりまくって気づけば朝4時で、次の日はちゃんと予定あるし、まぁ2、3時間くらい仮眠は取るかってことで、でも絶対起きれないから目覚ましつけて、部屋の電気もつけっぱなしにすれば眠りも浅いだろうし、あ、歯磨きしてない、でも、このまま目を瞑ったら絶対気持ちいい…
で、気づけば予定時刻の5分前とかいうことで。
何もかんも1月末に予定を詰め込みすぎる社会が悪い。
私は悪くないとここに明言する。




