1/28 スーパーエリート
年収二億円くらいの、超絶頭の回転が早いスーパーエリートサラリーマンがいるとする。
もうそのレベルになるとサラリーマンというかもっと何か別の存在として呼称されるのかもしれないが、社会が怖くて引きこもっている私にはよく分かりかねる。
とにかく、そのサラリーマンはとんでもなく頭の回転が早い。
平均的な人間が生涯で稼ぐ金の60%強を1年で稼ぐ男だ。1を聞いて10を理解するどころか、1を聞いて全自動靴下仕分け機を発明するくらい脳の性能が高い。
そんな男が、ある日電車に乗ろうと改札を通った。
時間的な余裕はある。
時刻表などは見ていないが、その場に来ている電車に乗れば家に帰れるだろうことは知っていた。
電光掲示板が二つの予定を掲示している。
一つは17:38。一つは17:40。
38分の方は自宅まで一度乗り換えをしなくてはならない線、40分の方は自宅まで直通の電車だった。
現在の時刻は把握していないが、電光掲示板に出ている電車予定的におそらく現在時刻は17:38前、17:40に乗れば問題ない、故にのんびりとエスカレーターを利用してホームに降りたところで直通電車の中でぬくぬくする事は容易。
ここまでの思考プロセスを改札を通って電光掲示板を眺め、0.1秒以内に終わらせ、行動の確信を持つことができるのが、年収二億のこの男である。
男は行動に絶対の確信を持っている。
だがしかし、抜け目のない男だ。
エスカレーターを降りている際、右ホームに電車が来ていた。
男のあまりに早い脳内CPUは、それが17:38着の電車であると確信する。
しかしここで、電車の塗装がよく見たことのあるものであることに男は気づく。
最寄り駅に来るタイプの電車の塗装。
はたと腕時計を確認する。
見れば、時刻は17:40。
17:38の電車は遅延しているのかまだ来ていないだけだったのだ。
急ぎエスカレーターを降り、男は自宅まで直通の電車に乗ることに成功する。
どんなに優秀でも失敗はする。だが突発的なアクシデントに即座に対応できてこそエリートである。
この話にただ一つ問題があるとするのなら、私は年収2億のエリートサラリーマンではないということである。
とはいえ同じ人間だ。
思考プロセスは同じだった。
同じように時刻を概算し、同じようにエスカレーターに乗り、来ていた電車を見、それが17:38の電車だと確信した。
ただ、私は腕時計を持っていなかった。
エスカレーターの中腹で発車していった電車を眺め、ホームの時計で現在時刻を知る。
ややあって到着メロディとアナウンスがなった。
「…間もなく到着いたします…本日は電車遅れまして、大変申し訳ありません。」
追記
エリートサラリーマンなら、そもそも現在時刻を概算するまでもなく知ってるし、乗るべき電車を把握しているというのは、そう。




