↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
271/310

9/28 最近夜寒すぎて半袖で行くのに結構勇気いると思う

「温度が下がっただけで知らない土地みたい。」


鯵は窓の外を眺めて呟いた。

切れ目に通った青筋が影に隠れる。


側の赤いブランケットを首元に詰め、私は笑った。


「今日はそんな寒くないだろ?24℃だそうだよ。」


「寒いわ……寒い………。」


ブランケットに埋もれ、掛け布団に包まれた鯵はそれでも口をぱくつかせ、弱い息を吐いた。


「……もう今日は寝なさい。寝れば、きっとこの寒気も治る。」


布団がわずかに震えた。


私が頭を撫で出てやると鯵は呼吸を密やかに、そしてむき出しの目を濁らせた。


その眠りを妨げぬよう、私は一度だけため息を吐き、扉を出た。


部屋には、腐ったような臭いが残っていた。


……


蛇口から噴き出た水が、両の手を流している。


乾き切った汚れが水気を吸収して顕在化する。


流れる。


ハンケチで水気を取り、鮎に渡した。


静々とポケットに仕舞い込もうとした鮎の頬を叩き、私は苛立ちを隠せずに言った。


「食え。食いなさい。」


鮎は張られた頬を呆然と抑えたまま固まっていた。


「食えと言っているんだ!!」


鮎は一度肩をびくつかせると、私から受け取ったハンケチを口に含んだ。


震えていた鰭を引っ張り上げる。


声にならない呻き声をあげた鮎を、もう一度地面に引き倒した。


背を強打した鮎は、喉に詰まったハンカチを咳と共に吐き出した。


吐き出したそれを再び口に入れようとする鮎から目を逸らし、私は廊下に出た。


藤の様な匂いがした。


……


「旦那様。」


鯉が私の頬を撫でる。


枕元のランプがわずかに揺れ、寝室に映し出された影が二重にぶれた。


「寒い……寒いんだ。どうか私を温めておくれ。」


震える指を、鯉の両手が包み込む。


シーツの皺が深くなる。


「許してくれ……どうか私を許して欲しい……」


鯉のほおは、酷く冷たく、柔らかかった。


「いいのです。旦那様……願わくば、貴方の眠りが永劫の安らぎになる事を……。」


潮の香りがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。