9/28 最近夜寒すぎて半袖で行くのに結構勇気いると思う
「温度が下がっただけで知らない土地みたい。」
鯵は窓の外を眺めて呟いた。
切れ目に通った青筋が影に隠れる。
側の赤いブランケットを首元に詰め、私は笑った。
「今日はそんな寒くないだろ?24℃だそうだよ。」
「寒いわ……寒い………。」
ブランケットに埋もれ、掛け布団に包まれた鯵はそれでも口をぱくつかせ、弱い息を吐いた。
「……もう今日は寝なさい。寝れば、きっとこの寒気も治る。」
布団がわずかに震えた。
私が頭を撫で出てやると鯵は呼吸を密やかに、そしてむき出しの目を濁らせた。
その眠りを妨げぬよう、私は一度だけため息を吐き、扉を出た。
部屋には、腐ったような臭いが残っていた。
……
蛇口から噴き出た水が、両の手を流している。
乾き切った汚れが水気を吸収して顕在化する。
流れる。
ハンケチで水気を取り、鮎に渡した。
静々とポケットに仕舞い込もうとした鮎の頬を叩き、私は苛立ちを隠せずに言った。
「食え。食いなさい。」
鮎は張られた頬を呆然と抑えたまま固まっていた。
「食えと言っているんだ!!」
鮎は一度肩をびくつかせると、私から受け取ったハンケチを口に含んだ。
震えていた鰭を引っ張り上げる。
声にならない呻き声をあげた鮎を、もう一度地面に引き倒した。
背を強打した鮎は、喉に詰まったハンカチを咳と共に吐き出した。
吐き出したそれを再び口に入れようとする鮎から目を逸らし、私は廊下に出た。
藤の様な匂いがした。
……
「旦那様。」
鯉が私の頬を撫でる。
枕元のランプがわずかに揺れ、寝室に映し出された影が二重にぶれた。
「寒い……寒いんだ。どうか私を温めておくれ。」
震える指を、鯉の両手が包み込む。
シーツの皺が深くなる。
「許してくれ……どうか私を許して欲しい……」
鯉のほおは、酷く冷たく、柔らかかった。
「いいのです。旦那様……願わくば、貴方の眠りが永劫の安らぎになる事を……。」
潮の香りがした。




