1/27 塔
それは堆く聳えていた。
周囲に散乱する緑色のラッピングが施されたそれら円筒は、見る視点を変えれば山脈の如きである。
数多くの山々の先、自然形成されたそれらを嘲笑うかのように立ちはだかる超巨の柱。
トラス構造のそれは、それが内包する超重量を易々と支える。
神の足先に手を伸ばさんとする人類の叡智の結晶であった。
突如として日が灯る。
暖色のそれは、瞬時にあたり一面を照らし出し、地に臥せっていた闇の気を霧散させた。
雲を突くようなモノリスの頂点がゆっくりと開かれる。
顕になったのは、周囲の山々と全く同じ形の円筒。
唯一の違いは頂部のねじ山に刻まれた規則だった。
螺旋は幾何の意志を持って円を描き、封をほどくためだけに存在する機構が、神殿の意匠のように整然と並んでいる。
その機構の上部には、地に転がるそれらとは違い、「Coke on スタンプを必ずゲット!」と赤丸と共に描かれていた。
何の話をしているのかというと、今玄関を占拠している綾鷹濃い緑茶の箱のことである。
箱から取り出したペットボトルを、玄関からそのままリビングのベッドに投げる。
何百回と繰り返した動作は完璧な起動を辿ってペットボトルを所定の位置に転がした。
それを見届けた私は、転がるペットボトルの山脈をえっちらおっちら抜け、ベッドの上に飛び込むように舞い戻った。
蓋を開ける。
前まではコップに注いで飲んでいたが、結局飲み終わったペットボトルは洗うし、使ったコップも洗うしで二度手間になることに気づいてからは直で口をつけて飲んでいる。
うまい。
最強は伊藤園の濃い茶プレミアムストロングだが、コスパ的に考えるなら綾鷹濃いお茶もかなり頑張っていると思う。
1/4ほど飲み切ったタイミングで、ベッド横のドラム缶の上に放置している堅あげポテトBIGの包装をこじ開ける。
前まではコーラやジンジャーエールと共に食していたが、糖尿病の気配をうっすら感じ取ってからは以来濃いお茶でスナック菓子を嗜むようになった。
薄塩を味わいつつ、玄関に聳え立つ綾鷹濃いお茶525ml*24の段ボール箱群を見る。
…消費が追いついていない。
月一でAmazonの定期お得便を利用しているのだが、一箱飲み切るか飲み切らないかくらいのタイミングで箱が届くので、毎度少しずつ負債が溜まっていっている。
残り2本のタイミングで箱が届き、タイミングピッタリと喜んでいたら次は残り5本で届き、次は8、次は12と徐々に溜まっていった濃いお茶ペナルティは、今や三箱目に突入している。
賞味期限のことも考え、毎度新しい箱を古い箱の下に入れる作業も堂に入ってきた。
一箱12キロ半あると考えると、計37キロ、今日ちょうど負債が72本目に突入したことを考えると、次回からはちょうど50キロになる予定である。
最早自分の体重とほぼ変わらないそれを持ち上げる来月の自分の姿に、軽く戦慄を覚える。
一度定期便を停止するべきか。
しかし、定期便があるという安心感から今までバカスカあちらこちらに持っていき、あらゆる人にばら撒いてきたのだ。
いざその後ろ盾がなくなった時、私はいつもと同じように綾鷹濃いお茶を味わうことができるのか。
飲みきろう。と思う。
少なくとも負債を溜め込むのはもうやめだ。
徐々に月毎の借金、いや借茶を返済し、いずれこの塔を崩すのだ。
かつて人間の傲慢さゆえに神々のもとに辿り着かんと建設されていたバベルの塔は、それら神の怒りによって崩された。
それと同等の所業を、今人類は再び神の立場から行おうとしているのだ。
人間とはいつまでも傲慢で愚かである。




