1/10 納得の悪魔
こだま811号だった。
断じてこだま813号でなくて、かつ22:10着でも無かった。
私は昔から状況把握から納得までの構築が他人よりかなり良い加減だった。
適当な仮説を曖昧な記憶で証明して満足するため、それが例え間違っているとしても、問題になるまで気づく事ができなかった。
例えば空が青い理由は、上空の空気がなんかこううまい具合に海の水の色を反射しているからだと思っていたし、高校の時の担任が〇〇楽園まですぐと言っていて、まあ歳だしそりゃ近かろうと思っていたら〇〇学園だったこともあった。
とかく、勘違いから自分を無理やり納得させてしまうというか、初見時の認識をよっぽどのことがなければ覆せないのが私なのである。
そういうのは大抵、後々になって重大な問題として顔をのぞかせるのだが、今日においてもそれは起こった。
週末の成人式に際し、スーツを纏め、散髪をし、予約していた新幹線に乗りに私は来ていた。
時刻は21:15。予約した新幹線の出発時刻は21:45で、到着時刻を考えても余裕はあるように思えた。
電光掲示板を見れば、私の地元の一つ前の駅をに向かう22:55着の新幹線が表示されていた。
車両名はこだま813号。
私が乗る筈だった811号の表示は、ない。
常人ならばここで、「ああ、これは登ってくるプラットホームを間違えたのだな」と合点が行き、登ってきた階段を引き返すであろう。
時間には余裕がある。
14番のりばから降り、奥の18番のりばを登った後、適当な休憩室で新幹線を待つだろう。
しかし、そこは俊足の納得に定評ある私である。
自身の乗るべきでない新幹線を表示し続ける掲示板を見て、特になんの違和感も覚えず、頭の中で以下の仮説を構築した。
車両名違い
→型番近いし、多分駅に着いたら813から811になる。
出発時刻違い、行き先違い
→あれは表示駅の到着時間。そこから終点までの距離考えれば、到着時間にも矛盾しない。
→よって、今登ってきたプラットホームは、間違っていない。
イカれている。
少なくとも電光掲示板に表示されている新幹線の型番が変わるわけがないし、ここの表示は電車内の次駅表示ではない。
が、私は一度納得した認識を容易に覆せる人間ではない。
その納得の過程にどれだけ違和が含まれていようと、納得という蜜は疑問の気を軒並みこそぎ落としている。
事態に気づいたのは、それから27分後であった。
21:42。
出発時刻が近づいてもなかなか来ない新幹線に違和感を覚える。
頭の中で納得の悪魔が「停車時間が短い新幹線もあるし」と囁くが、ここに来て理性の天使が悪魔の頭を殴りつける。「もしかして、予約した新幹線が来るのはここではないのでは?」
ダッシュで14番のりばを駆け降りた。
新幹線時刻表を見ると、その一番上に表示されていたのは、「18 こだま811 21:45」!
過去類を見ない速度が出ていたと、思う。
年末に買って実家に放置してきた洋服の福袋を詰め込むためスーツケースにはほとんど何も入っていないことも助けになっていた。
スーツケースを小脇に抱え、エスカレーターを二段飛ばしで駆け上がる。
そこには、登りあがったプラットホーム18。
左手にはこだま811が停車していた。
切れる息もそのままに、空いた扉に飛び込む。
幸か不幸か、そこは元々予約していた席がある12号車だった。
この真冬に汗をダラダラかきながら指定席に向かう。
この時間の新幹線が終電だったこともあり、その姿を見るものはわずか数名しかいなかったことも、今思えば幸運だった。
こだま811号、12号車6番C席で、熱による汗と冷や汗が入り混じってぐしょぐしょの額を拭いながら、日記を書いている22:54である。




