1/1 正月ピックアップガチャ
震えていた。
自己を正当化する理由など百ほども思いつく。
だが、腹の底から臓腑を焼くこの自己嫌悪の波が、それら全てよりも雄弁に不当を語っていた。
思うに、正月ピックアップガチャとは現代における悪魔契約の儀である。
配布が多かろうが、報酬が魅力的だろうが、結局運営という悪魔は我々の財布の中身という代償を干からびるまでに啜り取り、空の銀行口座という砂漠に転がる我々プレイヤーに慈悲の一雫と称してピックアップキャラという劇薬を投与する。
あれは恐ろしい。
欲しかったキャラを引き当てた瞬間の高揚感は凄まじい。
それからの数時間、いや、下手をすれば丸一日、そのキャラで遊び続ける。課金したことなど、脳内から完全に消え去る。幸福感だけが全身を満たす。
ここで覚えておいて欲しいのは、最初に啜られた分のダメージは回復していないという点である。
ボロボロの肉体にアドレナリン注射をして無理やり動かしている状態、HPは1であるのにスタミナゲージを無限にされて肉がちぎれながら元気に動き回っている状態なのである。
とにかく、キャラを手に入れたその瞬間、全ての脳細胞が、これまで、文字通り支払った代償のことを忘れる。
忘れられる。
メールで引き落とし金の連絡が入る迄は。
…¥48,000である。
肝が冷えるとはあの感覚のことを言う。
¥48,000である。
¥48,000。
¥48,000。
¥48,000…?
ちなみに言えば、更新された10連パックと月間パス、デイリーパスを別のカードで購入している。
更に言えば、この間購入したPC代金も数日後に引き落とされる予定である。
脳の芯から吹き出した焦燥感が首伝いに丹田に流れる。
実家にいる父母、そして毎度会うたび目が飛び出るほどのお小遣いをくれる祖母のことを思う。
いや、年始なので父母は隣の部屋に、祖母は歩いて20分くらいの場所にいるのだが、それはそれとして脳裏に彼らの顔がよぎる。
既に肉は千切れ飛んでいたのだ。
しかし、私は遊び続けた。
新キャラというアドレナリンがあったから。スタミナゲージがたくさんあったから。
忘れられていたのだ。
目を逸らせていたのだ。
「ブラックリスト」という声が耳元で聞こえた気がする。
頭を必死に振るい、無心で口座の残高確認欄をリロードする。
なんか知らん間に残高が1000万くらい増えてないか。
この間沖縄に行った時、私の麗しい見た目がカメハメハ大王の末裔とかに見そめられて、1億円くらい入金されていないか?
年末に友人とふざけて買ったジャンボ宝くじが10億くらい当てていないか?
ああいや、あれはWEB登録の際、私だけがSMS認証を弾かれ、結局買えたふりをしただけだったか。
私の健闘虚しく、銀行残高は変わらぬ値を表示し続けている。
嗚呼、現実は非常。
財布を掘り返す。
出てくる無数のかつや、松野屋のクーポン。
総額で二千円くらいお得になっている気がするが、普段であればニコニコで店員に提示するそれも、今は全くもって無意味だった。
震えていた。
今にも爆裂するであろう私の銀行口座に。
新年早々金を使い果たした私の愚かさに。
そして、私と同じような境遇の人間から金を巻き上げているであろう、運営の無慈悲さに。




