おまけ
おまけです、これで完結になります。
「優奈は偉いわねっ!」
やめてよ。
「優奈、とても似合ってるじゃないか。やっぱり優奈は美人だなぁ!」
やめてってば…。
「優奈は何時も褒められていいわね。」
「…っ、」
お姉ちゃんの前で、私ばかりを褒めるのはもうやめてよ…!!
麗羅のノートを見て以来、優奈の心は晴れない。常に脳裏にあのノートで見た絵と言葉、写真がチラついてしまう。両親の褒め言葉が、空気を読まずに優奈を追い詰めるモノとしか思えなくなっている。麗羅の言葉と態度が、怖くて仕方なかった。
アニメやドラマでネタとして、「死ね」と書かれたノートを主人公に渡すシーンを見ると気分が暗くなってしまった。本来なら笑えるシーンの筈なのに笑えない…そんな自分に嫌気が差してしまう。
麗羅はA大学に合格したから、もうすぐ一人暮らしを始める。そうすれば距離を置く事が出来る。その間、麗羅の気分を害さないように過ごすしかない。前は麗羅の一人暮らしの邪魔をしようとしていたけれど、今は麗羅以上に一人暮らしをして欲しいと願っていた。
◇◆◇
「優奈、なんだか最近元気ないみたいだけど…どうしたの?」
学校の帰り道で、何時も途中まで一緒に帰る親友の亜里沙が心配そうに優奈を見た。
「えっ…そう、かしら?」
「うん、なんか暗い感じがするんだよね。」
亜里沙とは小学校からの付き合いで、優奈にとって一番信頼出来る存在だった。亜里沙になら相談しても良いかもしれない。そう思った優奈は話す事にした。
「実はね…この間ちょっとしたキッカケで、お姉ちゃんが私の事を恨んでいるって知っちゃったの…。」
「えっ、麗羅さんが優奈を?」
「うん…その、死んで欲しいって思われてるくらい恨まれててさ。それが、その…ショックで。」
驚いた顔をする亜里沙に伝えると、亜里沙は優奈の肩をポンッと軽く叩いた。
「それは、すごく怖かったね優奈。」
亜里沙の言葉に、優奈は少し胸の何かが軽くなったような気がした。亜里沙は優奈を安心させるように微笑んだ。
「優奈はさ、すっごく可愛くて美人でしょ! だから麗羅さんは逆恨みしてるんだよ。妬ましいんだろうね。優奈、凄くショックだと思うけど優奈は何も悪くないんだから仕方ないよ!」
「…亜里沙。」
「だって優奈は別に、麗羅さんに意地悪をした訳じゃないんでしょ!?」
亜里沙の言葉に、優奈は凍り付いたように動けなくなった。
「そりゃあ、意地悪をしたり酷い事を言ったなら自業自得、同情の余地なしだと思うけど。優奈がそんな最低な事をする筈ないんだから、ねっ!」
「…そ、そう、よね。」
明るく笑う亜里沙に、実は麗羅を傷付けてきたなんて言う事が出来ず、優奈はぎこちなく頷くしかなかった。
「…そうだ! 私、麗羅さんを説得するよ。麗羅さんは大人しくて良い人そうだし、ちゃんと話せば分かって貰えそうじゃない?」
「い、いや、大丈夫っ! あのね、お姉ちゃんや他の人に私が言った事は内緒にして欲しいの、お願い亜里沙!!」
「…そう?」
亜里沙の提案を必死で止める優奈に、亜里沙は不思議そうにしながらも頷いた。暫く歩くと、亜里沙と別れる道にたどり着いた。
「…なんか、力になれなくてごめんね。」
「そ、そんな事ないわ。」
申し訳なさそうに謝る亜里沙に、優奈はぎこちなく笑みを浮べながら首を振った。亜里沙が優奈を元気付けようとしてくれた事は分かっていた。けれど打ち明ける前よりも、気持ちが沈んでしまった。言わなければ良かったと思う優奈に、亜里沙は言った。
「私さ、誰かに死んで欲しいとまで恨まれた経験ないから、優奈の気持ち分かってあげられなくてごめんね! 元気出してね!!」
その言葉に、優奈は頭の中が一瞬ぐしゃりと潰れたような感覚になった。亜里沙の背が遠くなっていくのを、揺れる視界で見送るしか無かった…。
◇◆◇
「…ありがとう、本当にスッキリした!!」
亜里沙は自分の部屋にいる黒猫にお礼を言った。
「ううん、どういたしまして。亜里沙の力になれて良かったよ。」
黒猫の言葉に、亜里沙は笑顔を見せた。
亜里沙は優奈の親友の立場にいるが、ずっと優奈の事が大嫌いだった。中学生の頃、好きな人が出来て告白したのだが振られてしまった事があった。とてもショックで落ち込んでいた時、優奈に話を聞いてもらったのだが、
「私、振られた事ないから亜里沙の気持ち分からないの。ごめんね、元気出して!!」
と、言われた。優奈に悪気はなかったのだろうがそれ以来ずっと嫌いだった。優奈はいつも告白される側で、相手を振る側だった。そして後に、亜里沙が好きだった彼は優奈が好きだったのだと知って、憎しみが膨れ上がった。
優奈を傷付けてやりたいとずっと思っていたけれど、何も出来ずに上辺だけ仲良く過ごして月日は流れていった。けれど昨日、この不思議な黒猫が現れてくれた。黒猫は亜里沙に優奈と麗羅の事を教えてくれた。
あぁ、やっぱり優奈は最低なヤツだったんだと亜里沙は思った。麗羅に恨まれていると知りショックを受けている優奈に、何を言えば傷付けられるかを教えて貰った。その言葉は台本がなくても殆どが、亜里沙の本心だったからすぐに言う事が出来た。
分かりやすく傷付いていく優奈を見るのはとても気分が良かった…。優奈はきっと麗羅にだけ恨まれていると思っているのだろう。けれど亜里沙も恨んでいたし、振られた男子や周りの女子の中には優奈を恨むまではいかなくても、良く思ってない人は沢山いるのだ。
「…うふふ、ざまぁみろっ!!」
気分良さそうにそう言った亜里沙を見て、黒猫は満足そうに尻尾をふわりと揺らすと、そのまま姿を消した…。
なんやかんやで恨まれまくっている優奈でした。悪気がなくても「経験したこと無いから分からない」という言葉は、無意識なマウントに聞こえる事があると思うんですよね。分からない事でも親身になって相手と向き合えばそんな風に思われないとは思いますが 笑
ここまで読んで下さりありがとうございました!! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです。いつも誤字脱字報告もありがとうございました!




