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嫌がらせを止めるのは殺意  作者: 徒然草


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後編

 後編です。


「はい優奈、宿題のプリントだよ。もう体調は良いの?」


 学校が終わり、帰宅した麗羅は優奈に数枚のプリントを渡した。


「…ありがとう、お姉ちゃん。うん、もう大丈夫よ。」


「優奈、無理せずに休むのよ。麗羅、宿題はアンタがやってあげてよ。」


 麗羅達の母は優奈を心配そうに見ながら麗羅に言う。何時もなら優奈は麗羅にそのまま宿題を押し付けるのだが、母の言葉に優奈は真っ先に首を振った。


「ううん、大丈夫っ! 宿題は自分でやれるわ。」


「あら、そう? 偉いわね優奈!」


「そ、そんなの当たり前よ! わ、私よりも今まで宿題を手伝ってくれたお姉ちゃんの方が偉いでしょお母さん!」


「え? あぁ、まぁ…。」


 いまいち理解していない様子の母に、優奈はぎこちない笑みを浮かべた。


「ほ、本当に有難うねお姉ちゃん!!」


「…どういたしまして。」


 麗羅は態とらしく優奈を見てにっこりと微笑んだ。


◆◇◆



「いきなり身体を奪ってごめんね麗羅、でもこれで君はもう嫌がらせをされないよ。」


 黒猫に身体を奪われた直後に意識を失っていた麗羅だが、ふと気が付くと意識はあるのに身体が勝手に動くという状況になっていた。どんなに焦っても声に出す事も出来ず、ただ見ている事しか出来なかった。


「…あの、どうして、優奈は何もしてこないの?」


 優奈への殺意が詰まったノートを優奈に目撃させる。それが黒猫の考えだったのは分かったが、そんな事をすれば優奈は両親や学校に言いふらして、麗羅が今まで以上に悪者にされると思っていた。しかし、優奈は麗羅に怯えるだけで何もしてくる気配がない…。


「麗羅はさ、自分が死んで欲しいと思われる程、誰かに恨まれていると思った事はあるかい?」


「…ううん、ないと思う。」


 黒猫の質問に麗羅は答えた。麗羅には深く付き合える友達も人もいない。だから、恨まれる程の関わりなんて持った覚えがない。優奈や両親は、麗羅を明らかに軽んじてはいるが、恨まれてはいない自信がある。


「優奈はね、麗羅とは違う理由だけれど、両親にとても優遇されている。そして学校でも人気者だと自負しているから自分が誰かに嫌われているなんて考えた事もないんだよ。優奈が嫌がらせをして楽しんでいる相手、姉である麗羅が居るけど、“君に恨まれている”とは考えていなかったんだよ。だから、とてもショックを受けて恐怖を感じたんだ。」


 黒猫の話では、優奈は麗羅が自分をどう思っているかなんて事を考えた事がなかった。麗羅は格下で何があっても優奈に逆らわないと思っていたからだ。それに麗羅は大人しくて、誰にも意地悪をしない性格だから、優奈だけでなく周りの人達も麗羅が心底誰かを憎んでいるだなんて思いもしない。そんな麗羅に死を望まれる程恨まれていると、ノートで感じさせたのだという。


「君が同じ事をされたらどう思う?」


「…怖いよ、すごくね。」


 ドラマや映画でしか見た事がない光景だったものを自分がされたら、腹立たしいとか許せないと怒りの感情よりも、恐怖を感じると麗羅は思った。もし、周りの誰かに助けを求めて相手を懲らしめる事が出来ても相手の中の殺意が増し、呪われ死んで欲しいと願われると思うと…尚更怖かった。それに、そんな風に思われてしまう自分にショックを受けるような気がした。


「優奈は君に嫌がらせをしている自覚があった。恨まれる理由が分かっているから君を怒らせないようにして、君の殺意を薄れさせようとしているんだよ。」


 もし身に覚えがないのなら、怖くてもなぜ恨んでいるのか聞く場合があったかもしれない。麗羅は成程、と納得した。


「私が反対すると思ったから、身体を奪ったんだね。」


 黒猫は頷いた。


「それともう一つ理由がある。ノートを見られた後、麗羅じゃ優奈と上手く話せないと思ったんだ。緊張したり、どこか自信がない様子を見せたら、優奈に釘を刺せなかっただろうからね。」


 確かに、と麗羅は頷いた。黒猫が麗羅の身体を乗っ取り、僅かな隙もなく淡々と話をしてくれたからこそ、優奈は恐怖心と危機感を抱いたのだ。


「…本当にありがとう。」


 もう優奈が、麗羅の進路を邪魔する事はないだろう。


「どういたしまして。あ、そうそう。あのノートは捨てておいてね。他の人に見られると面倒だからさ。それじゃあ麗羅、今後の人生を楽しんでね!」


 そう言うと黒猫は、初めからそこにいなかったかのように姿を消してしまった。麗羅は黒猫が居たであろう場所にもう一度感謝をした。






◆◇◆

 



「お父さんお母さん、A大学の合格通知きたよ。」


 数日後、無事に試験に合格した麗羅は両親に報告した。


「あら、良かったわね。」


「そうか。」


 両親は淡々とそう言う。何時もと変わらない返事だった。


「お、おめでとうお姉ちゃん! お祝いしないといけないわね!」


「あら、優奈がそういうならケーキでも買いましょうか。優奈は優しいわねぇ。」


「気が利くな、優奈は。」


 焦った様子の優奈に気付かない両親に、優奈は冷や汗を流した。


「ふふっ、本当に優奈は優しいわね。そんなに褒められて……羨ましいな。」


「っ、お父さん、お母さん!! 私じゃなくて、A大学に受かったお姉ちゃんが凄いんでしょ!? 私じゃなくて、お姉ちゃんを褒めてよ!!」


「えっ、あぁ、それは、そうだな。」


「…どうもありがとう。」


 何処か怯えたような、ぎこちない笑顔を浮かべた優奈を見ながら、麗羅は冷たい笑みを浮かべた。




 


 ここまで読んで下さりありがとうございました! 好き嫌いはともかく、誰かに本気で呪われたら怖いなと思って書いてみました。虐めっ子って、自分が嫌われるとか考えずに面白半分でやっているんじゃないかと思います。相手が格下で逆らえないとも思っているのでしょうが、「死ね」という紙切れが下駄箱に入っていたらそれだけでも怖がるんじゃないかなと思いました 笑

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― 新着の感想 ―
優奈、必死すぎ(笑)。それに、嫌がらせの度が過ぎている事に気づかな過ぎ(大笑)。 両親は…やっぱり親、やめれ(笑)。 当方、実は一時期「命」ではないけれど、傷つけられる心配をしていまして…警察に相談…
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