前編
※現代設定ですが、魔法要素があります。ツッコミどころ満載だと思いますが、それでもよろしければ読んで頂けると嬉しいです。
「麗羅、貴女はお姉さんなんだから優奈に譲ってあげなさい。」
「おい麗羅! 優奈を泣かせて、何をしたんだ!!」
「鈴木さんの娘の優奈ちゃんはすっごく可愛いわよね〜! 麗羅ちゃんは…まぁ普通よね。」
「鈴木さんさぁ、妹ちゃんがあんなに美人でコンプレックスとかないの?」
◇◆◇
鈴木麗羅は平凡な容姿、成績は上の下くらいの高校3年生だ。性格は大人しく、深く付き合える友人はいない。クラスで浮いていたり虐められたりはしていないが、麗羅には物心ついた頃から大きな悩みがあった。
麗羅には1歳年下の妹、鈴木優奈がいる。優奈はテレビ業界からスカウトされた事があるくらい美人で可愛い女の子だ。成績は中の下くらいだが、本人が勉強嫌いで真剣に取り組んでいないので、元々の頭の良さがどれくらいなのかは分からない。友人関係は広く、いつも周りに誰かがいた。麗羅と優奈は、外見も性格も似ている部分が全くない姉妹だ。
そんな可愛い優奈を両親は、自慢の娘だと言って何時も可愛がっている。麗羅が褒めて貰えない事も、優奈がやれば褒められた。麗羅には我慢しろ、と言う事も、優奈が希望すればすぐに叶えた。両親は優奈を深く愛し優先したが、麗羅は軽んじられていた。
学校でも家でも、麗羅は優奈に劣る存在だ。でもそれだけなら麗羅は優奈を羨ましがるだけで済んだかもしれない。問題は、優奈が直接麗羅に害を与える事だった。
優奈は、家族や周りには麗羅という姉を妹として気遣う姿勢を見せているが、麗羅を見下し馬鹿にしてきた。そして、優奈は麗羅に嫌がらせをしていた。
「ねぇ、お姉ちゃん。その人形、地味なお姉ちゃんには似合わないからちょうだい!」
幼い頃から、麗羅が貰った物を奪う事が多かった。逆えば嘘泣きをして、両親を味方につけて麗羅から取り上げてきた。酷い時は麗羅から物を奪った後に、物を麗羅の鞄や机に忍ばせて、“麗羅が盗んだ”と両親に嘘を言って陥れて来たことも度々あった。
「違う、違うっ!! わたしはやってないよっ!!!」
麗羅は泣きながら必死に否定したが、両親には信じて貰えなかった。“妹に嫉妬して意地悪をする姉”と認識されて終わってしまった。
何故こんな嫌がらせをするのか、もうやめて欲しいと何度も優奈に言ったが、
「私の言う事を聞かないお姉ちゃんが悪いのよ! それに、これはただの悪戯だからー。」
意地悪そうに笑いながらそう言って、やめる事は無かった。
「あ、そのブレスレット可愛いっ! 私に頂戴!!」
つい先日も、親戚から貰ったブレスレットを優奈に奪われ…いや、譲った。抵抗しても無駄だし、もっと酷い事になると悟り、いつの間にか優奈が望めば差し出すようになっていた。
「お姉ちゃん、宿題やっておいて!」
「私こういうの苦手だから、お姉ちゃんよろしくね!」
学年が違うのに宿題をやらされたり、両親からの頼まれ事を押し付けらたりもした。最初は断っていたのだが、優奈は庇護欲を湧かせるような演技がとても上手く、結局両親は優奈の味方をして麗羅に全て押し付けてきた。“困っている妹を姉として助けてあげなさい”と言われて…麗羅が困っても助けてくれた事なんてないというのに。
「お姉ちゃんは頭の良さだけが取り柄なんだから、別にいいじゃん!」
麗羅は優奈が大嫌いだ。でも、何の取り柄も味方もいない麗羅は言いなりになるしかなかった。
でも、そんな人生に少し希望が差したのだ。麗羅はもうすぐ高校を卒業する。麗羅は大学進学を希望しており、希望している偏差値の高いA大学を合格出来そうだった。A大学に通えれば、家との距離が遠い為、一人暮らしが出来る。両親と優奈から離れられる、その為に麗羅は頑張っていた。
「絶対に、合格してみせる…。」
◆◇◆
「お姉ちゃんさ、A大学行くって本当?」
大学受験の受付が始まる数日前に、麗羅の部屋に優奈がやって来た。
「お姉ちゃんが家から居なくなっちゃうなんて、寂しいじゃない。お姉ちゃんは心理学者になりたいんでしょ? A大学以外でも学べるんだから家から通えるところにしてよ。」
「…私は一人暮らしがしたいの。」
麗羅の言葉に優奈はにっこりと微笑んだ。麗羅は嫌な予感がした。
「駄目だから! お姉ちゃんが居なくなったら宿題手伝って貰えなくなるもの。お父さんとお母さんに反対して貰うように頼むんだから!」
「え、ちょっと! 勝手な事しないでよ。」
まさか優奈が麗羅の進路にまで口を挟んで来るなんて思わなかった。麗羅が焦って声を出すと、優奈はまた意地悪な笑みを浮かべた。
「私の頼み事なんだから言う事聞きなさいよ。あんまり口答えすると、また悪戯しちゃうよ?」
「…もうやめてよ。私が、何をしたって言うのよ!?」
泣きそうになるのを堪えながら麗羅が言っても、優奈は楽しそうにするだけだ。
「私の方がお姉ちゃんよりも可愛いんだから仕方ないでしょう? これからも姉妹仲良く暮らしましょうね!」
そう言って優奈は去っていってしまった。麗羅の目から涙が一筋流れた。ようやくこの家から離れられると思い、ずっとずっと耐えてきた。何故、こんな事をされないといけないのだろうか。
「もう嫌だ…嫌だ…。」
「…力になってあげようか?」
部屋には麗羅しかいない筈なのに、突然聞こえた声に驚いた麗羅は、部屋を慌てて見渡した。
「…っ!?」
「こんにちは、麗羅。」
ベッドの上に黒猫が居た。窓も扉も閉まっているのに何処から来たのか分からない。そして何より、猫が言葉を話した。
「なっ、…!?」
「落ち着いてよ。僕は君を助けようと思ったんだよ。」
驚いて声を上げそうになった麗羅だが、急に喋れなくなった。声を発しているつもりが音にならない。
「妹から、優奈から解放されたいだろう?」
黒猫の言葉に慌てていた心がスッ、と静まった。麗羅が恐る恐る頷くと、黒猫は尻尾を機嫌よくふわりと揺らした。
「僕は気紛れな魔法使いみたいな存在だよ。麗羅に危害を加えないと約束するから、僕の事は誰にも話してはダメだよ。だから、大声は出さないでね?」
「わ、分かった…っ!?」
麗羅はいつの間にか話せるようになっていた。緊張しながらも麗羅はその場で正座をし、黒猫と目線を合わせた。
「…あの、魔法でどうにかしてくれるって事なの?」
「僕は君に魔法を授けたり、誰かの精神を操る事は出来ないんだ。ある程度の魔法は使う予定だけど、根本的な解決は魔法には頼らないよ。」
黒猫の答えに、麗羅は眉を下げた。
「で、でもそれで解決するのは、難しいよ。お父さんもお母さんも、みんな優奈の味方だから…。」
「君は独りぼっちだったからね。でも、僕が力になってあげるから大丈夫。」
麗羅を励ます黒猫に、麗羅は疑う気持ちはあったけれど少しだけ嬉しいと思った。
「どんな方法か、教えて貰える?」
「うーん、教えちゃうと君は“上手くいかない”って考えると思うんだよね。だから、方法は言えないかな。」
「え、そんなの、困るよ…。」
ただでさえ、この黒猫は摩訶不思議な存在だ。方法が分からないのに頷くなんて到底出来ない。
「じゃあ、これだけは伝えるね。この方法は、今日と明日で終わる。その後、優奈はもう2度と麗羅に嫌がらせをしなくなるよ。麗羅も優奈も両親も、誰も怪我しないと保証する…どうかな?」
「明日には、終わるの…!?」
明日で優奈の嫌がらせが終わる、その言葉に麗羅は引き寄せられた。それに誰も怪我しないのならば、別に何も問題ないと麗羅は思った。
「…わ、分かった! 貴方に任せる。」
麗羅が了承すると、黒猫は満足そうに頷いた。
「よし!! それじゃあ早速…君の身体を借りるね!」
次の瞬間、黒猫は麗羅の目の前で姿を消した。麗羅が驚いていると、急激な眠気に襲われて意識を失った…。
思いついたままを書いているので読みにくいところもあると思いますが、最後までありがとうございました!
全部で3話になると思いますが、おまけも書くかもしれないので5話くらいになるかもしれません。




