八 ムーサの美声
まさか、忘れん坊になって使命も忘れちゃった!?
だから、魔法も使えなくなっちゃった!?
「一度落ち着きましょう!」
サンタさんを、そして僕自身を落ち着かせるためにそう言った。
サンタさんはやっと落ち着きを取り戻す。
「サンタさんがやるべきことは、子供たちにプレゼントを配ることですよ!そして子供たちに笑顔を届けるんです。思い出してください!」
僕がそう語っても「そうじゃったかのう」とまったく響かない。
……でも、サンタさんに使命を取り戻してもらえれば、きっと魔法も使えるようになるはず!
「子供たちの笑顔を忘れたんですか!今日という日を今か今かと待ち続けて、朝起きたときにプレゼントがツリーの下にあったとき。これほど嬉しいことはないですよ。僕らはそのために頑張るんです!良い子のためなら、こんなちょっとやそっとの苦労も消し飛びますよ!」
「う〜ん、そうだった気もしれないのう」
その言葉を聞いて僕は思わず笑顔になる。
「その調子です、サンタさん。子供たちは今年も良い子に暮らしてサンタさんを待ってるんです!僕たちを待ってくれてるんですよ!」
「たしかに良い子がぐっすりと眠ってるのう……」
──いい感じだ!
あともうちょっと!
「子供たちのために頑張りましょうよ!良い子に幸せを届けにいきましょうよ!僕も頑張りますから!」
僕の声が夜空で響く。
サンタさんの心にも響いたようだ。
サンタさんの目に小さな火が灯る。
「……子供たちのためにワシも一肌脱いでやらんこともないのじゃ。トナカイちゃんも頑張ってくれるのじゃろう?」
あぁ、やっと思い出してくれた!
「はい、もちろんですよ!」
僕は笑顔で応える。
するとそのとき、サンタさんが持っていた手紙の束がキラキラと光る粒に変わる。
その黄金に光る粒が夜空に流れて街に降り注ぐ。
いつしか暖かい家の中に入り込み、思い思いの形に変わる。
ツリーの下で子供たちを待つプレゼントになる。
例年通りの景色を見て僕は子供たちの笑顔が脳裏に浮かんで、なんだか心が温まった気がした。
「おぉ、トナカイちゃん!やったぞ、できたぞ!」
「さすがです、サンタさん!」
僕たちの顔にも笑顔が浮かび、安堵が心の中で広がる。
「ありがとう、トナカイちゃ〜ん!」
サンタさんがいつものようにわしゃわしゃとしてくる。
いつもなら嫌がっていたところだが、今は純粋に褒めてもらえて嬉しい。
……僕も鼻が高くなるね!
「トナカイちゃん、この調子でどんどんいくぞ!」
「了解です!」
僕は空を駆けて次の目的地へ向かう。
それからは早かった。
次々と手紙を光の粒へ変えていき、プレゼントを届けていく。
……時間は大丈夫なはず。
僕たちが地球にいる間は時間が流れる速さがゆっくりになるからね。
気にすることもないし、本気を出したサンタさんなら時間も操れる。
……はず!
僕たちは順調に夜空を駆けていた。
だったのだが……。
突如歌声が地球に響いた。
陽気な音楽が辺りに響く。
ここだけ流れているのかと思ったが、何か違った。
……聞き覚えがある声、誰だっけ?
陽気な音楽は地球全体に響いていた。
そのことに気づいたと同時に、声の正体にも気づいた。
──あ!
これはムーサたちの歌声だ!
“ムーサ”は九柱の女神様の総称。
音楽が大好きな神様たちなのだ。
……といっても、ちょっと騒すぎじゃない?
地球全体に響くなんて、普通は世界を繋いでいるドアが閉じられているから漏れないはずなのに。
「やっぱりムーサの音楽はなんだか楽しくなるのう」
「そうですね、踊り出したくなっちゃいますよ」
前々から神界ではムーサの音楽は少し漏れ出ていたので、僕たちはその美声を聴いたことがあった。
とっても優雅で美しくて、密かに僕たちも楽しんでいた。
……って、そんなバカな!
楽しい音楽だったのはよかったが、それは小さな音量でも子供たちに大きな影響を与えてしまった。
陽気な音楽に釣られて子供たちが目覚めてしまいそうなのだ。
「サンタさん!ムーサたちの音楽のせいで子供たちが起きちゃいます!」
そう言ってサンタさんの方を見ると、様子がおかしい。
髭がいつもより黒くて、優しい眼差しがだんだん鋭い目つきに変わっていく。
ブラックサンタさんになっちゃう……!
実は、サンタさんはクリスマスに夜遅くまで起きている子供がいると、ブラックサンタさんになってしまうのだ!
今はなんとか理性を保っているみたいだけど、そのうち完全に変わってしまう。
……やばい、どうしよ。
どうにかブラックサンタさんになるのは止めないと!




