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六 忘れん坊なサンタさんは思い出す

「なるほど、そうであったのか。何に使うかは知らないが、急いでいるのならすぐにでも閻魔帳を貸そう」

「ありがとうございます!」


そこで閻魔大王様が呟く。


「もとはといえばこれはサンタのものだからな」


僕は驚愕した。


「え、そうなんですか!?」


今度は閻魔大王様が驚いた。


「ん?知らなかったのか?まあ、無理もない。いつもワシの部下が貰いに行ってるからな」

「な、何を貰いにきてるのですか?」

「……あぁ、それすらも知らないのだな。なら説明してやろう」


僕はその説明を聞く。


「閻魔帳は、ワシが、死者の生前の善悪の行動をメモするものだ。それは知ってるな?」

「はい、もちろんです」

「だが、ワシが全部を見るのは大変だ。だからサンタにも協力してもらっている」

「協力?ですか」


閻魔大王様に聞いておいて、僕自身でもなんとなく見当がついた。


「そう、協力だ。内容は、まずサンタが子供の善悪の行動をメモする。そしてそれを、そのメモしている子が大人になったときにワシに譲るっていうものだ」

「つまり、子供のときはサンタさん、大人になったら閻魔大王様が行動をメモしているということですね?」

「うむ。その通りだ。理解が早くて助かるのう」


僕の予想通りだ。


「いえ、それほどでもないです」


そうは言いつつも、僕はとあることに気づいた。


「では閻魔大王様。疑問なのですが、そういう協力をしているということは、僕が閻魔帳を借りたところで子供達の行動はわからないということですか?ここにある閻魔帳にはもう大人になった人の行動しかないわけですし」


「あぁそういうことになるな」


閻魔大王様が告げる。


じゃあ、僕ここに来た意味ない……ってこと?


少しの間、沈黙が続く。


「……サンタの使いよ。もしかしてとは思っていたが、まさか、閻魔帳で子供達の行動を確認しようとしていたのか?」


ギクッ。

図星すぎる。


「い、いや、そんなこと──」


「私の前で嘘をつくのか?」


圧倒的な威圧感が目の前にある。


「お話しします、お話しします!全部話しますから、許してください〜!」

「それでよいのだ」


閻魔大王様はにっこり笑顔になる。


僕は今までの経緯を全て、洗いざらい、嘘をつくことなく、真実だけを話した。


「……なるほど、だからここに来たのか」

「は、はい」

「それにしても、あのゼウスでも閻魔帳のことを誤解しているとは。まあ無理もないが」


ゼウス様ってなんだかんだ全知ではないんだよね。

ちょっと抜けてることもあるし。

まあそれでも僕の100倍以上、知識を持っているとは思うけど。


「まあだがこれで、やるべきことはわかっただろう、サンタの使いよ」

「はい、承知しました。行ってきます」

「うむ、行ってくると良い」


僕は本殿のような場所を出る。



すると、牛頭馬頭の2人が入り口近くで立っていた。


サンタさんのところに帰る前に、少し話しをしておこう。


「牛頭さん、馬頭さん、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」

「あぁ、それはよかった。お役に立てたなら何よりだ」


牛頭がそう返す。


「それで、そのお礼といってはなんですけど、少し役に立つようなお話がありまして」

「ほう、なんだ?」


僕は一旦間を空けてから話す。


「神様も、長い時間動き続けると疲れるそうですよ?その時間は、人間界でいう1750年くらいだそうです。もし神様が疲れたら、忘れん坊になるみたいですから、たまには閻魔大王様にも休ませてあげてくださいね」


牛頭は「なるほど」と理解したようだが、馬頭はそうでもないみたいだ。


「牛頭、人間界でいう1750年とは、ここでいう何日なのだ?」

「馬頭、そんなこともわからないとは阿呆か。大体九日ぐらいだ」


それを聞いた馬頭は笑顔になる。


「なるほど、それなら心配はいらないか。閻魔大王様は五日に一回しっかり休んでおられるし、何しろこの牛頭馬頭がいるのだから心配あるまい」


自信満々にそう言う馬頭。


「それならたしかに心配いらなかったですね」

「いや、いいことが聞けた。サンタの使いよ、感謝する」


牛頭がそう言ってくれた。


牛頭は良いやつで、頭も良いな。頼れる。

馬頭は、……知らないけど別に悪いやつじゃない。


「いえいえ、感謝されるほどでもないです」

「それはそれは謙虚だな。……あぁ、ここで長話もよくないな。用事があるのなら早く行くといい」

「ありがとうございます。それでは帰らせていただきますね」

「いつでも会いに来て良いからな」


牛頭が言う。


「もちろん、俺にも会いに来て良いからな?その紋章を貰えたということは、俺達はもう友達なのだ」


馬頭がいう。


ポセイドン様からもらった紋章にはそんな意味があったのか。

友達っていうのはなんか良い!


「じゃあ、そのときもよろしくお願いします!」


僕は夜摩天を出る。



遠かったけど、来た甲斐があったな。

閻魔大王様から思ってもない話を聞けたし、牛頭馬頭という新たな友達が出来た。

ちょっと怖いけど、良い人達だ。


いや、そもそもあの人達は、悪人を更生させるためにあえて怖くなってるのだ。

それで優くないわけがない。


それに、どんなに怖い人でも、優しい一面はあるのだ。


僕は、ふとそんなことを思ったのだった。



サンタさんのもとへ飛び始めて、約八時間。


「サンタさん、ただいま帰りました!」

「おお、トナカイちゃんよ。随分と長旅をしていたな」

「はい、思ったより長くなっちゃいました」


サンタさんは笑ってくれる。


「そうか、そうか。それはさぞ楽しかったのだろう。ところでトナカイちゃんに見て欲しい物があってのう」


そう言って、サンタさんは分厚いメモ帳を何冊か出してきた。


「これを見つけてのう。子供達のメモを取っていたことを、すっかり忘れておったわい」


ホッホッホと笑い声が響く。


「いつ気づいたんですか?」

「あれは、……たしか、トナカイちゃんが出てからちょっと経ったころだったかのう」


いつもなら不満を言っていただろう。

でもこれで良かった。

いろんな出会いもあったし、新たな発見もあった。

旅に出てよかったと思う。

むしろ、あとちょっと違えばあの出会いはなかったのだ。


僕はサンタさんに密かに感謝した。


「そうだったんですね。思い出せたならよかったです!」

「うむ。わしも良く思い出した。偉いぞ、わし」

「流石です」


僕達の笑い声が響く。


「さあ、サンタさんそろそろクリスマスです。プレゼントの準備をしましょう」

「そうじゃの。急がないとな」

「はい。それで、これが終わったら一緒にゆっくり休みましょう」


和やかな雰囲気が、僕たちを包み込む。


そして、今年の一大行事が始まる。




ご愛読ありがとうございます。

現在続編を構想中です。

時期は未定ですが……

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