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四 賑やかで寂しい宮殿

「流石です!それでどうすれば良いんですか?」


僕は次の言葉に期待する。


「うむ。ズバリ、閻魔大王の閻魔帳を見ることだ!」


「なるほど!」


言われて今思い出した。

ほんとにすっかり忘れてたなぁ。


閻魔大王様が持つ、閻魔帳。

それは、閻魔大王様が、死者の生前に行った善悪を書き記しておく帳面だ。


「事情を説明すればあの大王でも貸してくれるだろう」

「わかりました」


場所も聞きたいと思っていたらゼウス様が話してくれた。


流石は全知全能の神。

その名は伊達じゃない。

僕の心の中もわかるってことかな?


「ここから閻魔大王がいる“夜摩天”までは、サンタのところからここまでの倍くらいの距離がある。時間がないといっても体力的に厳しいだろう。少し休みながら行くといい」

「ご心配いただきありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。僕は毎年地球を一周しますから、体力には自信があります」


僕が少し自慢げに言う。


「そういえばそうだったな。ただのトナカイだと思っていたわ」

「ちょっと……」

「まあまあ、悪気はない。では時間もないのだし、行ってくるがいい」


僕の頭をわしゃわしゃしながら言う。


「だから、それやめてくださいよ」

「いや〜、でもかわいいじゃ〜ん?」


そう言ってくるところがサンタさんに似ている。


「やめてくださいよ、僕はペットじゃないんです!」

「そうか〜。じゃあ早く行くといい」


「わかりました。……ってちがああう!」


あやうく聞きそびれるところだった。


「サンタさんの調子が悪い理由も聞きたいんです」

「ああ、すっかり忘れてたわ」


ゼウス様がハッハッハと豪快に笑う。


もしかしてゼウス様も調子悪いのかな。


僕がそんなことを思ってる間に、ゼウス様が咳払いをした。

そしてゼウス様は僕に告げる。


「……では、サンタの調子が悪い理由だな?それは──」


無言でゼウス様を見つめる。


「疲れているのだ!」


「……え?」


思わず聞き返してしまった。


「サンタは地球の子供の見守りなどで常に働いている。それがサンタが生まれてからずっと続いてるから、えっと〜人間界の単位では1750年くらいかな?だから、それで疲れちゃったんだよ」


ゼウス様が、「いわゆる、脳疲労ってやつだ」と付け足してくれる。


「そ、そうなんですか?サンタさんも疲れるんですね」

「まあ、普段からあれだけ忙しそうにしてたらちょっとは疲れるだろう」


たしかにクリスマス以外の日にも見守りをしている。

サンタさんは暇だから、と言っていたが周りからみれば忙しそうに見えるのか。


「う〜ん、そうですか。じゃ、じゃあサンタさんには休んでもらえれば元気になるってことですね?」

「その通りだ」

「なるほど。今度そうしてみます」

「うむ。そうすると良い」


ゼウス様が笑顔で言う。


「さあ、話も終わったことだし、トナカイちゃんは行くといい」


またまた僕の頭をわしゃわしゃしてくる。


「だから、ぼくはペットじゃないんですって。……ってまあ、教えてくれたお礼ですよ?」

「お、トナカイちゃん優しいなぁ。……ア──」


ゼウス様の顔がどんどん青ざめていく。


何かと思ったが、後ろで部屋の扉が開いていることに気づいた。

そしてその扉の近くにいるのは、オリンポス12神の1柱であり、ゼウス様の奥さん──ヘラ様で、立ってこちらを睨んでいた。


この場から早く立ち去らないとマズイ。


「……あ、ありがとうございました。それでは、失礼しますね」


すると、


「あらトナカイちゃん、うちのゼウスがお世話になったみたいね。迷惑かけてなかった?」


と、ヘラ様が笑顔で話しかけてくる。


これはマズイ。


「い、いえ。全然そんなことないですよ。むしろ、丁寧な対応をしてもらえて、僕の方がお世話になりました」

「あ、ほんとに〜?それはありがとね〜。……何やら急いでいるみたいだから、立ち話もほどほどにしましょうかね」

「す、すみません。それでは失礼します」


僕は、足早にこの宮殿を出た。



ふう。なんとかなったかな。

宮殿を振り返る。


「閻魔大王様に会いに行くなら、これを渡しておきますね」


後ろから声をかけられる。


「わっ」


後ろから話しかけてきたのはポセイドン様だ。


「急に話しかけてごめんなさいね。ただ、これを渡しておいた方がいいかと思いましたので、呼び止めました」


そう言われ、何かの紋章が書かれた紙みたいなのを渡してくれた。

いや、渡すと言うよりは僕の首輪に取り付けてくれた。


「それを馬頭に見せればすぐ通してくれますよ」

「あ、ご親切にありがとうございます」

「いえいえ、それでは私はこれで」


そう言ってポセイドン様は宮殿の方へ戻っていった。


一瞬の出来事だった。

そして静寂が訪れる。


な、なんかつけてもらったけど、これでよかったのかな。

まあ、いいや。


そう思って僕は歩き出す。


……そういえば結局、12神の全員に会うことはなかったな。

だけど中は賑やかだったからきっと他の方たちも元気にやっているのだろう。

なんとも賑やかだったからこそ、外の静けさが際立つ。


ってそんなことを思ってる場合じゃない。

次は閻魔大王様のところだ。

急げ!


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