十二 忘れん坊なサンタさんは使命を思い出す
アレス様がそう叫んだ瞬間、突如低い声が響いた。
脳内に直接語りかけられているかのような気分だ。
「何地球に影響を与えているのだ?地球に顕現していいだなんて誰が言った?」
ゼウス様のその言葉に、オリンポスの神様たちは一気に顔をこわばらせる。
僕の毛も一気にさかだった。
……それもそうか。
みんな今地球に顕現しちゃってるし。
というか、こうしてみるとゼウス様ってちゃんと神様なんだね。
前会ったときはちょっと抜けてるところがあるな、なんて思ってたけど。
雷がアテナ様とアレス様との間に落ちる。
いや、アテナ様とアレス様を狙ったのだろうが、二人は咄嗟に避けたようだった。
……このままここにいたら危険だ!
僕は咄嗟に走りだす。
周囲で雷が落ち続ける。
「トナカイちゃん、頑張っておくれ〜!」
サンタさんは雷に怖がっている。
いや、ゼウス様に怖がっているのかもしれない。
僕も言われずとも頑張って空を駆ける。
ヘルメス様の加護があるからか思っていたよりは避けやすくなっている。
だがしかし、このソリにはヘルメス様が乗っていた。
足が速いヘルメスを先に狙うことにしたのか、ヘルメス様に雷が落ちる。
ゼウス様が器用に狙ったのだろう。
ヘルメス様はいつのまにかいなくなっていた。
更に、ソリと壊れて消えてしまった。
きっと今までソリにかなりの負荷がかかっていたのだろう。
雷がソリに直撃した訳ではなかったが、ついに壊れてしまった。
「嘘じゃろ、ゼウス〜!」
サンタさんは、まだたくさんの手紙が入った袋を抱えながら落下していく。
「サ、サンタさ〜ん!!」
実は、サンタさんは地球上では宙に浮くことはできないのだ。
今まで飛べていたのは、僕とソリのおかげである。
僕は落ちていくサンタさんを必死に追いかける。
その直前に雷がアレス様に当たったことだけは見えた。
アテナ様もいつのまにかいなくなっていた。
──ゼウス様もゼウス様で、暴れすぎなんじゃないですか!
今まで空中にいたのに、あっという間に地に着いてしまった。
僕はフワリと着地する。
サンタさんは尻から着地して、痛そうにうずくまっている。
「いてててて、まさかのまさかじゃのう」
「サンタさん大丈夫ですか!」
「大丈夫じゃ。……じゃが──」
その言葉の続きはすぐにわかった。
ソリは粉々に砕け散り、僕たちは地に足をつけている。
手紙こそ守れたものの、もう何もできない。
まさに絶望そのもの。
「もう、いよいよダメじゃ……」
「サンタさん……」
続きは励ます言葉にしようと思ったのだが、どう励ませばいいのかわからない。
僕はただ寄り添う。
サンタさんは僕の頭を優しく撫でた。
初めて地面の凹凸をまじまじと見つめる。
いつもより街が立体的に見える。
夜空に光る星々もどこか遠く感じる。
「やっぱりワシはダメじゃ。プレゼントを配れないワシは、ワシであってワシじゃないのだ。子供たちに笑顔を届けるなんて夢のまた夢。やっぱりこんなことをする意味もなかったのじゃ」
そんなことないですよ……。
「トナカイちゃんが頑張ってくれても、結局こうなってしまうのじゃ。ワシらが頑張ったって、他が邪魔するようじゃ、その頑張りも意味がないのじゃ」
違いますよ……。
きっと。
僕はサンタさんに考えを変えてほしくて、咄嗟に言い返す。
「そんなの、違いますよ……!」
「どう違うのじゃ、トナカイちゃん」
……そんなこと言われたって、わからないですよ、僕も。
僕が知りたいですよ。
「き、きっと、頑張りは実りますよ!無駄になるなんてことはないですよ!」
「そうだといいんじゃが……」
お互いが沈黙する。
ここで会話をしても状況が良くなったわけではない。
……ソリがあれば。
サンタさんを乗せるものがあればな。
街すらも沈黙しているかのように静かに思える。
そんなとき、微かに鈴の音が聞こえた。
明るくて軽やかで、幸運を呼び寄せてくれるような。
その音が少しずつ近づいてくる。
僕はなんとなく鈴の音の出所を探した。
そして、見つけた。
向こうで誰かが手を振っている。
「お〜い、サンタ〜!助けに来たぞ〜!」
「七福神!?」
僕もサンタさんもその来訪者に驚いた。
七福神の皆様が宝船に乗って夜空からやってきた。
さっきの鈴の音は、弁財天様がもっていた宝物のものだったらしい。
宝船に乗った七福神の皆様が僕たちの元へ降り立つ。
「どうしたんじゃ」
サンタさんのその問いに大黒天様が答えた。
「いやはや、正月の時期を間違えて早く来てしまったのだがな。サンタ殿たちが頑張っているのを閻魔大王づてに聞いてな。どうせならと見に来たのだよ。そしたらこの有様じゃないか」
閻魔大王様が、見てくれてたのか!
大黒天様に続き、福禄寿様が話す。
「逆にサンタ君はどうしたんだい。ソリに乗っているわけでもないではないか」
「トナカイちゃん、説明してあげてくれ」
「はい。実は……」
僕は今まで起きたことを説明する。
すると、弁財天様がこう言った。
「宝船をソリの変わりにすればいいじゃない」
その一言に、七福神の皆様は賛同する。
「その案見事じゃ。あっぱれ!」
「たまには客神がいたって賑やかだろうな」
サンタさんと僕は未だ困惑している。
「い、いいのか?ワシらが乗って」
「逆にダメなのか?」
「僕たちこれからプレゼントを配りにいかないといけないんですよ!」
「それを手伝えばいいってことだろ?」
僕とサンタさんは顔を見合わせる。
そして笑顔が咲く。
「お願いするのじゃ!宝船に乗せてくれ!」
七福神の皆様は笑顔で迎え入れてくれる。
みんなで宝船に乗り込む。
ソリよりもとても大きくて快適だ。
「それじゃあ、出発進行〜!」
毘沙門天の高らかな声が夜空に響く。
運転は僕が務める。
トナカイならできるとみんなに任されたのだ。
なんとなくだが進みたい方向を念じると宝船もその想いを汲み取りその通りに動いてくれる。
ゆっくりと動き出す。
賑やかな船内。
明るい表情。
街を見下ろしながら、僕たちは目的地に向かう。
──頑張りは無駄じゃなかった!
誰かがきっと見てくれてるんだ。
無駄に思えても、神様はきっと見てくれてるんだ。
閻魔大王様にも今度あったらありがとうって伝えておこう。
運転をしながら僕はふと、そう思ったのだった。
次々とプレゼントを配り終える僕たち。
宝船に乗ってからはとてもスムーズに進んだ。
残り半分以上残っていたのがものすごい速さで消化されていった。
今までの不運が嘘みたいに吹き飛んで、幸運を呼び寄せているような気がする。
……これも、七福神の皆様のおかげかな?
「サンタさん、ラストです!」
「うむ」
サンタさんは最後の手紙の束を取り出して、それと同時に手紙が粉になる。
キラキラと星のように輝く粉は街を照らし、街を魅力的にさせる。
光はゆっくり落ちていき、各々のツリーの側に集まっていく。
そして、順番にプレゼントへ変わっていく。
「今年も終わったのじゃ!」
その宣言と共にみんなで喜ぶ。
「さあ、ワシらはバレないように帰るとしよう。帰りも任せたぞ、トナカイちゃん」
「はい!お任せください!」
静かな夜の中、いつもより賑やかで明るくて大きなソリは上昇していく。
鈴の音を鳴らしながら地球を去る。
「子供たちの笑顔が楽しみじゃのう!」
すっかり笑顔になったサンタさん。
その顔を見て、僕も笑顔になった。
「そうですね!」




