十 暴れん坊
「あ、いい事思いついた!」
どうしたんだ?
「ここでドアを開けたまま子守唄を奏でれば、子供たちがスヤスヤ寝てくれるんじゃないかな?」
この提案には、僕もサンタさんもポセイドン様もハッとした。
「サンタさん、あとちょっとで解決しそうですよ!」
「そうじゃのう。もう少し耳を傾けてみようじゃないか」
その会話の続きを聞くべく、ワクワクした気持ちで耳を澄ます。
「じゃあ、私たちで子守唄を奏でましょう。あ、アポロンももちろん入るのよ」
「え」
「そうね、たくさんいた方が楽しいものね」
「そうだわ!」
逃げられなかったアポロン様。
かわいそうに。
でもなんだかんだで乗り気だ。
「それじゃあ、私は暴れん坊を追うから、またね〜」
アテナ様は今のうちと言わんばかりに音楽ステージから掃けていった。
そして程なくして滑らかでゆったりとした音楽が聞こえてくる。
それはここから遥か遠くにあるステージでの演奏だが、子供たちへとしっかり届ける。
夜空に光る星々と共に音楽を聴く。
とても安心できて、落ち着けて、なぜか視界が暗くなっていって……。
──って危ない!
僕まで寝るところだった。
ハッと目を覚まし、子供たちの様子を見る。
子供たちも気持ちよさそうな顔でぐっすり寝ている。
ふう、ひとまずなんとかなった。
「サンタさん、子供たち、寝てくれましたよ」
そう言ってサンタさんの方を見れば……。
案の定、サンタさんも寝ていた。
流石です、サンタさん。
だがサンタさんの髭は白くなっているし、目つきも優しい。
ブラックサンタさんにはならなくて済んだかもしれない。
僕は角でツンツンとサンタさんを突く。
すると、僕と同じようにサンタさんもハッと目覚める。
「ここは誰じゃ!私はどこじゃ!」
「逆です、サンタさん」
サンタさんは再びハッとなる。
「ホッホッホ。うっかりしておったわい。子供たちもずいぶんと眠っているようだし、今のうちにプレゼントを配ろう」
「はい、そうですね!」
ようやくいつものクリスマスになってきた。
またいつものようにプレゼントを配りにいくのだ。
「ポセイドン様、ありがとうございました!アテナ様にもアポロン様にも、僕の感謝を伝えておいてくださいね!」
「承知した。これからも頑張るのですよ」
その声を聞きながら、僕は再び空を駆ける。
夜空とムーサたちの子守唄の下で、僕は懸命にソリを引く。
サンタさんは次々と手紙の束を粉に変えて、プレゼントを届けていく。
波瀾万丈なクリスマスだけど、誰かの協力で成り立っている。
四分の一以上を届け終わり、順調に進んでいく。
……まだ四分の一!?
激務だが今日は頑張るほかないのだ。
サンタさんとも、約束したし。
必死にソリを引く。
そのときだった。
またもや事件が発生する。
「ちょっと、サンタが白いじゃないか!」
突如目の前に神様が現れた。
それは、アレス様。
オリンポス十二神の一柱で、戦いが超絶好きな神様だ。
それにしても、サンタさんが白くて何か問題があるのかな?
「どうしたんですか、アレス様」
「どうしたもこうしたも、なんでブラックサンタじゃないんだよ!」
なぜかお怒りになっているアレス様。
僕は事情を説明する。
ポセイドン様やアポロン様、アテナ様が助けてくれたという、一部始終を語って聞かせた。
すると、もっと怒り出す。
「なんでだよ!せっかく僕がドアを開けたのに」
なんだと!?
まさか犯人が目の前に!
ハッとして僕はサンタさんの顔を見る。
サンタさんも動揺しているようだが、目を閉じて何かを思案している。
「あーあ、せっかくブラックサンタと戦えると思ったのに。台無しじゃないか」
──なんだと〜!
サンタさんと戦うつもりだったのか!
僕は思わず「シャー!」と威嚇する。
それを見たアレス様は不服そうな顔をする。
「もうなんでだよ!なんで邪魔が入るんだ!なんで暴れさせてくれないんだ──ッ!」
そう言いながらこちらに突進してくる。
──八つ当たり!?
避けないと!
僕は急いでソリを引いて突進を避ける。
それでもアレス様は止まらない。
「も〜う、サンタも絶対許さない!」
それを聞いたサンタさんは意外と冷静に諭す。
「まあまあ、落ち着いておくれ。自分の感情を他人にぶつけても何も解決できない」
「うるさい!」
「戦いなどやめて、平和に生きようじゃないか」
「黙れ!僕は戦いの神なんだぞ!使命を果たさなきゃ、やってられない!」
再び突進してくる。
今度は明確な殺意がある。
「トナカイちゃん、逃げてくれ〜!!」
サンタさんに懇願される間もなく、僕はソリを全速力で引く。
サンタさんを襲おうとするなんて許せない!
よくないぞ!
また違った意味で夜空を駆け回る。
アレス様も負けじと追いかけてくる。
「トナカイちゃん、もうすぐそこまで来てるぞ!」
僕は更に速く走ろうとする。
だがこれ以上は速くならない。
……どうしよう。
このままじゃ追いつかれる。
やめてくれ!
もうこないでくれ!
アレス様がどこからか槍を取り出して、こちらに鋭い先を向ける。
サンタさんに一直線で突き刺そうする。
僕は寸前で横に移動して、なんとか避ける。
サンタさんには当たらなかったが、ソリにかすった。
だが最悪ではない。
その次もサンタさんに槍が刺さらないように回避する。
──どうしよう。
このまま張り付かれたら、いつかは避けきれなくなってしまう。
誰か、どうにかしてくれ!
その瞬間、サンタさんとアレス様の間に誰かが入った。
僕はその神様に見覚えがあった。
「やっほ〜!トナカイちゃん、それにサンタ!元気〜?」
「ヘルメス様!」




