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第13章 ヴェルガの神殿

森の奥、木々がまばらになり、古びた石造りの階段が地面から現れる。階段の上には、苔むした大理石の門柱が並び、かつての威容を想像させる神殿の入り口が姿を見せた。


風に乗って、どこか遠くから鐘のような低い音が響いてくる。


「……あそこが神殿かしら」


マナは息を整えながら言う。戦いの後でも、彼女の目は鋭く光を放っている。


「うん。でも、気を抜けないわ。ヴェルガの残滓が潜んでいてもおかしくない」


レイナは高周波ブレードを構え直し、門柱の陰や階段の隙間を警戒しながら進む。


階段を登る二人の足元には、まだ戦闘の跡が残っている。木の枝や落ち葉が散乱し、ところどころに小さな触手の痕跡が見え隠れしていた。


マナはそれを確認しながら慎重に進む。


「ここまで残滓があるってことは……神殿自体も守られているのかもね」


「ええ、でも私たち二人なら大丈夫よ」


レイナは小さく笑い、身を低くして門をくぐる。


神殿内部は外の森とはまるで異なる空気が流れていた。石造りの床はひんやりと冷たく、壁には古代文字のような文様が刻まれている。微かに漂う香の匂いが、緊張を少しだけ和らげる。


だが、安心するには早かった。床の亀裂からかすかに動く影。壁の隙間に潜む粘液の残滓――ヴェルガの痕跡だ。


マナとレイナは互いに視線を交わし、無言のまま警戒を固める。


「……静かに進むしかないわね」


マナは低い声で呟き、慎重に一歩ずつ前へ出る。レイナもそれに続く。二人のブレードは光を吸うように冴え、少しの動きも逃さない。


神殿の奥、祭壇が置かれた広間に差し掛かると、異界の残滓が最も濃く漂っていた。微かにうごめく影が祭壇の周囲に漂い、古代の文様の間から触手のような形が伸びている。


「ここまで来ると……流石に手強そうね」


「でも、ここで怯んだら元も子もないわ」


マナはブレードを握り直し、レイナも構えを固める。戦いの緊張が再び二人を包み、神殿の奥に進むたびに、ヴェルガの残滓が小さな脈動を繰り返す。


「……準備はいい?」


「もちろん。ここから先は、慎重に……でも、迷わず」


二人は肩を並べ、祭壇の方へ歩を進めた。神殿内部の空気は重く、ヴェルガの痕跡が強くなる。


だが、彼女たちは恐れず、冷静に戦闘態勢を維持して進む――神の力を借りるため、そして異界への道を開くために。



石造りの祭壇の前に立つマナとレイナ。神殿の奥は暗く、空気は冷たく湿気を帯び、呼吸のたびに微かな霧が立ち上る。


床や壁に刻まれた古代文様は、暗い石の表面に微光を散らし、まるで祭壇自体が生き物のように呼吸しているかのようだった。


「……ここが、神殿の中心……」


マナの声は、重く張り詰めた空気に吸い込まれる。視線の先、祭壇の石板が淡く青白く光り始めた瞬間、背後の空気が一瞬、凍りついたように静止した。


振り返ると、影の中から一人の少女が現れた。マナと瓜二つの姿――マナツ。ネイビーブルーの髪が肩にかかり、瞳は深海のように澄み、微笑むその顔には決意と優しさが同居している。


「マナお姉さま、久しぶりね……」


その声は穏やかだが、背後の壁を伝わるような低い振動を伴い、祭壇の石板の光がより鮮やかに揺れる。


「マナツ……どうしてここに……」


「お姉さまと私の主神は同じ神ですよ。この神殿に私が居る事は自然だと思いません?」


「けどあんた街の館に居たじゃない」


「それは、その、あれです。別についてきた訳じゃないですよ」


マナツは明らかに動揺していた。


「ストーカーじゃない」


マナは軽く侮蔑の眼差しを向ける。


「失敬な。あまりの態度ですと主神様に取り次ぎませんよ」


「それは助かるけれど」


「こほん。主神は仰せです。あなたに、あなたの過去に免じて、試練を与えることにしたそうです。試練を突破すれば願いを叶えると」


マナツの言葉と同時に、祭壇の光が二人の視界を覆い、現実がゆがむ。


視界が引き裂かれ、別の世界――それぞれの“楽園”の投影が現れる。

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