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第12章 ヴェルガのカミに続く道

王都の賑わいを後ろにして、二人は馬車の揺れに身を任せながら城門をくぐった。


石畳の道は都市の喧騒と熱気を遠ざけ、徐々に畑や森の匂いが混じり始める。


マナは顔を窓に押し付け、柔らかな風を頬に感じながらため息をつく。


「……ふう、やっと王都から離れたわね。人の多さに気が滅入りそうだったわ」


「そうね。人も多かったし、情報も溢れていて整理が大変だった」


レイナは小さくうなずき、肩に掛けた高周波ブレードを指で触りながら道を見据える。


「でも、アリスの話は助かったわね。ヴェルガへの道は……ここから、神殿に行くしかない」


馬車は森の縁に沿って進み、やがて舗装もない荒れた道に変わった。道中、野生の動物の気配や遠くの山の影にマナは警戒を緩めない。


「レイナ、覚えてる?アリス様、神の力を借りるには元の主神に会う必要があるって言ってたわ」


「うん。元主神……この世界で言うところの『ヴェルガのカミ』ね」


「そうよ。元主神は今もこの世界の何処かにいるはず……道は険しいけど、避けては通れない」


二人は馬車を降り、徒歩で山道を登り始める。小川を渡り、古びた橋を渡り、ところどころにヴェルガのモノが潜む痕跡を確認しながら進む。


マナは時折、目を細めて森の奥を警戒する。


「……気を抜くと襲われるわ。あのときのワイバーンみたいに」


レイナは軽く肩をすくめ、淡々と答える。


「大丈夫、マナ。私たちなら、今までだって切り抜けてきた」


「……ええ、そうね」


二人の足取りは自然と引き締まり、神殿への道は次第に険しくなる。空は夕焼けに染まり、森の影が長く伸びる。


「……あそこが神殿の森の入口ね。ここから先は、気を引き締めて行かないと」


「うん。ヴェルガのカミに会うために、準備は万全にしておかないとね」


背後に王都の灯りを残し、二人は神殿を目指して静かに歩き出した。道の先には、まだ見ぬ試練と未知の力が待ち受けている。


神殿の森は、王都の外れにあるとは思えないほど濃密で暗い。太陽の光も枝葉に遮られ、地面には苔や落ち葉が厚く積もっている。


マナは足元を慎重に確かめながら進む。時折、枝が風に揺れる音や小動物の走る音に耳を澄ます。


「……静かすぎるわね。気味が悪い」


「そうね。でも、静かだからこそ、ヴェルガの痕跡は見逃さないで済むかも」


レイナは高周波ブレードを両手で握り、緊張を漂わせながら前方を睨む。森の中には、かすかに異質な空気が流れている。


冷たく、湿った風が二人の頬をなでるたび、まるで森そのものが息をしているかのようだった。


「……あれ、見て」


マナが指さす先、苔むした大木の根元に、濡れた粘液の跡が帯状に伸びている。スライムのような形はないが、触手状の痕が土に刻まれていた。


「ヴェルガのモノ……間違いないわね。ここを通った痕跡よ」


レイナは低く息を吐き、ゆっくりと進路を定める。互いに視線を合わせ、合図なしで歩みを合わせる。森の奥へ進むほど、湿った空気が肌を冷やし、呼吸は白く曇る。


突然、枝葉の間から鈍い光が揺らめいた。


「……気をつけて、何かいる」


レイナの声に、マナも身を固くする。数秒後、巨大な影が枝の間を滑るように落ち、低い唸り声が森に響いた。


マナは一歩前に出て、ブレードを構える。


「……動かないで。まず様子を見ましょう」


影はゆっくりと姿を現した。粘液に包まれた、まるで触手が無数に伸びた怪物だった。


ヴェルガのモノ――異界の残滓だ。動きは遅いが、森の闇に溶け込み、捕食対象を探しているかのようにうごめいている。


「……倒せるかしら」


レイナは小さく笑ったような声を漏らす。


「……やるしかないわね」


二人は息を合わせ、怪物の動きを読みながら戦う。高周波ブレードを振るい、触手を斬り落とすが、怪物は粘液で自らを再生させる。


森の中、刃が触れるたびに湿った音と振動が響き、二人は一瞬も気を抜けない。


マナは頭を働かせ、森の木々や地形を利用して怪物の動きを制限する。倒れた木の枝で触手を絡め、レイナは隙をついて切断する。互いに指示を出し合いながら、戦略的に攻める。


「右側、触手が伸びてくる!」


「了解、ここで絡めるわ!」


二人の動きは無駄がなく、森の中を駆け回りながら怪物を徐々に追い詰める。


最後に、怪物の中心核が姿を見せる。レイナが高周波ブレードを振り下ろす。


核を直撃すると、粘液が激しく揺れ、怪物は縮み、やがて静かに消滅した。


森に再び静寂が戻る。互いに息を整え、互いの無事を確認する。


「ふぅ……やっとね」


「……あら、意外と楽しかったかも」


レイナは小さく笑い、ブレードを背に戻す。マナも肩の力を抜き、森の奥に続く神殿への道を見据えた。



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