表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

第11章 謁見

王宮の大門は、陽光を反射する白大理石で築かれ、天空を突くようにそびえ立っていた。


広場での戦いを目にした群衆の声に押され、マナとレイナは兵士に伴われて門前に立つ。


だが、そこに待っていたのは歓迎ではなく――冷たい視線だった。


「……ヴェルガの残滓を討った? 口で言うのは容易い」


鎧に身を包んだ近衛兵が槍を突き付けてきた。


「怪物を操っていたのはお前たちではないのか」


マナは眉をひそめる。


「はぁ? 助けてあげたのに、その言い草?」


「落ち着いて」


レイナが一歩前に出る。その手に高周波ブレードはない。ただ冷ややかな瞳で兵を見返した。


「私たちが本物かどうか、試したいならどうぞ。ただし――後悔すると思う」


刹那、兵の一人が苛立ちを隠せず槍を突き出した。


マナが反射的に身をかわし、刃先を指で弾く。金属音が甲高く響き、槍の穂先は石畳に弾かれた。


「ね? 私たちの方が腕は立つわよ」


マナが笑みを浮かべると、兵たちは息を呑む。


その時――


「やめなさい」


澄んだ少女の声が門の奥から響いた。




赤い絨毯の上を進む足音が、やけに大きく響いた。


王宮の謁見の間は広く、荘厳で、それでいてどこか冷たい。


赤い絨毯の先、黄金の玉座に腰掛けていたのは――


白金の髪を持つ、十代半ばに見える少女だった。


蒼い瞳は底知れず澄み、どこか現実離れした雰囲気を纏っている。


「……アリス」


マナの唇が震える。


少女――女王は微笑んだ。


「久しぶりね、マナ。……そして初めまして、未来からの子」

灰銀の瞳を持つレイナを見やり、王はまるで旧知のように言葉を紡ぐ。



「……本当に、あんたが王様なの?」


マナが呆れたように目を細める。


「小娘が玉座に座ってるなんて、冗談みたいじゃない」


アリスは小さく笑った。


「見た目で判断するなんて、マナらしくないわね。あなたこそ、まだ生きているなんて思わなかった」


「……あんた」


マナの肩がわずかに震える。


「あなたのことは、忘れるはずがないもの」


アリスは言葉に淡々とした響きを宿しながらも、どこか寂しげに目を伏せた。


レイナが一歩進み出る。


「あなたが、この国の王であり〈異界の巫女〉……そういうこと?」


「ええ。私は人々を導く王であると同時に、ヴェルガの神の声を聞く巫女でもあるの」


アリスはレイナの灰銀の瞳を見つめ返す。


「あなた……普通の人間じゃないわね。魂の匂いが、少し違う」


レイナは淡白に答える。


「私は人造人間。未来の研究者たちが造った存在よ。……でも、今はただの私」


「未来の子……。そう、あなたもこの世界には“異物”なのね」


アリスは深く頷いた。


「マナと同じように」


マナは鼻を鳴らした。


「悪かったわね、異物で。……それで? 私たちは帰り道を探してる。異界と繋ぐ方法、あんたなら知ってるんでしょ」


アリスは表情を引き締める。


「知っているわ。でも答えは簡単じゃない。――異界への穴を開けるには、神の力が必要なの」


「神、ねぇ」


マナは腕を組む。


「じゃあ、その神とやらに頼めばいいじゃない」


「残念だけど、私の主神は力を貸してくれないの」


アリスの声は柔らかく、しかし確信を帯びていた。


「この世界の均衡を崩すことになるから、って」


「都合のいい言い訳ね」


マナが舌打ちする。


「じゃあ、私たちには手詰まりってわけ?」


「そうとは限らないわ」


アリスの蒼い瞳がマナを見据える。


「マナ……あなたの中には、まだ“あの方”の残り香がある。あなたの元の主神なら、きっと応えてくれるはず」


マナは目を見開いた。


「……“あの方”? 私の主神?」


「ええ。あなたをかつて巫女に選んだ存在。あの神なら、異界への門を開く力を持っている」


マナは黙り込む。かつての記憶が、胸を締め付けるように疼いた。


レイナが横目でマナを見やり、静かに言葉を添える。


「……つまり、その神に会えと言うのね」


「その通りよ。神殿はこの王都からさらに北。けれど、そこに辿り着くのは容易じゃない。異界の残滓がいくつも棲みついている」


マナは息を吐く。


「要するに、“行けるもんなら行ってみろ”ってことね」


「そういうことになるわね」


アリスは微笑み、しかしその笑みはどこか哀しげだった。


「でも、信じてるわ。あなたなら辿り着ける。……そして、もう一度立ち上がれる」


マナは視線を逸らし、短く答えた。


「……好き勝手言ってくれるじゃない」


レイナはそんなマナを横目に、真剣な声で問う。


「ひとつ、聞かせて。……あなたは本当に、私たちを帰すつもりがあるの?」


アリスはしばらく沈黙した。


やがて、小さく頷く。


「ええ。ただし、それはあなたたち自身が選ぶ道。私には、その選択を強いることはできない」


謁見の間に静寂が広がる。


マナは深呼吸し、ようやく口を開いた。


「……わかったわよ。行けばいいんでしょ。神殿に。ありがとうございました、女王陛下」


マナは最後に嫌味たっぷりにお礼を述べた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ