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ゴミすくい

作者: 荒ぶる猫

俺は川のゴミ拾いの仕事をしている。一人が操船して左右のデッキに立った二人が柄の長い網でゴミをすくい、船へ上げていく簡単な作業だ。 この川は河口が近く干満の差が激しく、潮が引いた時なんかは左右の護岸のコンクリートがまるで壁のようで上を見上げても地上は見えない。 目の前のコンクリートには牡蠣殻がびっしりと付着し、満潮時の水深がどこまで有るか予想することが出来た。 風で飛ばされて川に落ちたビニール袋、地上からなんの気もなしに投げ込まれるペットボトル、一段低くなっている川には街中のゴミが集まってくる。 それを河口から中流域まで朝から夕方まで往復して回収していくのが俺の仕事だ。 この川の河口近くは繁華街のど真ん中を通っているので投げ込まれるゴミや落ちてくるゴミも多く夕方になる頃には中型のボートくらい有る船には山とゴミが積まれていた。 船を河口の桟橋へ繋ぎゴミを分別するまでが1日の仕事だった。 ゴミをすくっている時や分別している時に俺以外の2人は繁華街のパチンコ屋の話をしたり、どこの風俗の女が良かっただとか下世話な話をして笑いあっているが、俺はそんな事にこれっぽっちも興味を惹かれたことがないので軽く話を合わせて会話を終わらせる。 分別も終え、三人がそれぞれ帰途につく、一人は給料日前だから懐がさみしくてとパチンコのハンドルを回す仕草をする。 その仕草をみていやらしい笑いで俺は今月勝ち越しだから女抱きに行くわ、と操船していた男がいやらしい顔をする。そんな2人の話を聞きながら帰り支度をして俺はそっと1人で自宅へ帰る。 家は繁華街から少し離れたトタン張りの古い木造アパートだ。 共用玄関に共用廊下、もちろんトイレ洗面も共用そのかわり家賃は相場よりかなり安い。 踏むと柔らかくギシッと音を立てる床板を踏み進み一番奥の自分の部屋へ入る。 四畳半の部屋の半分は業務用の冷凍庫が鎮座し俺を出迎えてくれた。 ここには俺の大切なものがしまってある。 誰にも見せたくない俺だけの物だ。 パチンコや女なんかよりももっともっと価値が有る。 業務用冷凍庫を一撫でして万年床へ寝転がる。綿が抜けて薄くなった布団をかけて目を閉じて眠る。 朝起きるとまずはタオルを1枚持って洗面所へ行き髪の毛を石鹸で適当に洗う、そして髪の毛を拭いた濡れたタオルで体中を拭き上げて首にタオルをかける。 洗面台に並ぶ歯ブラシの中から自分の物を取り歯を磨いて、首にタオルをかけたまま昨日船を止めた桟橋へ向かう。 今日も仕事だ。 ゴミは地上からパラパラと降ってくる。 まるで俺達なんて存在しないかのように無神経に投げ込まれるゴミ。 パラパラ、パラパラ 操船している男とデッキの男が女の話をしていた。 どうやら当たりを引いたようで値段の割には良い女が付いたようだ。 でも、奴の財布事情ではたかが知れている下の上程度でも奴らにとってはいい女だ。 俺はもっといいものを知っているけどな。 そしてゴミをすくっていると川の上から投げ込まれたのではなく、川底から中に何かが入った袋がゆっくり浮かんできた。 俺はその袋を確認すると胸がどきりと鳴った。 最初は水面下にあった袋が水面に出て袋の中からガスが抜けるような素振りを見せまた沈もうとする。 俺は咄嗟に腕を全力で伸ばしてその袋を編みの中に収めることが出来た。 長い柄がしなる。 かなり重みのある内容物だ期待が持てる。 俺は慎重にその袋を船に上げて自分の足元のところに置く、2人からはなんか臭わねぇかと声が聞こえたが俺はそれどころではなかった心臓は早鐘を打ち期待に胸がいっぱいだった。 ゴミの仕分け今日は俺が一人でやるから先に上がってくれと2人を追い出すと、ついに袋の中身との対面だ。 そっと結んである袋を解くと中から黒く細い頭髪にしか見えないものが現れる。 ビニール袋を下げるように開けてゆくとギリギリ女性の頭部だと思しき物が現れた。 大当たりだ!!俺の心は歓喜に震えた。 子供の頃、俺はこんな繁華街ではなく田舎の山で暮らしていた。 近所の山は不法投棄などが横行していつも見る度に新しい何かが捨てられていた。 家電の日もあった、残土の日もあった。その不法投棄されたものの中から自分の琴線に触れるものを探すのが楽しくて友人も作らずに一人で遊んでいた。 そして出会いは突然だった。 俺が12歳過ぎになった時のことだ。 ブルーシートに包まれた細長い物が無造作に不法投棄場に打ち捨てられていた。 何重にも巻かれたブルーシートをはがし中身を見ると若い女の死体だった。 ここに置いておくと次に来た不法投棄のゴミに潰されてしまうと思い、ブルーシート引っ張りゴミの捨てられていない場所まで移動させた。 ここまで持ってくれば埋まる心配もない。 再び俺はブルーシートの中身を眺める女の死体は全裸で首に真っ青なチョーカーの様な締め付けられた跡がある以外はきれいな身体をしていた。 俺の下半身はもう弾けんばかりに膨張している。 そして山の中で俺と首にチョーカーを巻いた女との関係は続いた。 女は少しずつ変化していった。俺はその変化も素敵だと思えてさらに興奮する。日増しに魅力を増していく女に俺はどうにかなりそうだった。 魅力的な香り、もうどこにも肌色のない肌、落ち窪んだ眼窩、目なんて乾燥して凹んでいる。 それでも美しいと感じた。 でも、そんな甘美な時間はそう長くは続かなかった。 急にそれに何とも思わなくなったのだ。 何か覚めた気分だった。あの熱狂は去ってただブルーシートの上に何かが乗っかっているだけ。 今思えば腐敗しすぎて俺の好みから外れてしまったんだろうなと理解できる。 俺は分別を大急ぎで終わらせ、この新しく出会った彼女を自宅へ招くことにした。新しくゴミ袋を2枚持ってきて、2重にして匂いが漏れないようにして自宅へ帰る。 そして柔らかくしなる廊下の床板をギシリと踏みしめて自分の部屋へ、そして鎮座している業務用冷凍庫を開けその中に彼女を収める。 とても美しいその顔を眺めながら、前からこの冷凍庫に収納していた俺自慢のコレクションを眺める。 腐敗しかけの人間のパーツ。 もうこれで俺は君たちとは絶対に離れることはないよ。 ずっと一緒だよ。 ずっと、このまま変わること無くずっと……



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