プロローグ:俺が消えても、世界は回る
「誰にも知られたくない。でも、誰かの力にはなりたい。」
孤独な高校生が、命を失い、異世界で“世界最強”の力を授かる。
本来なら勇者や英雄となるべき運命。
けれど彼は、それを拒む。
目立ちたくない。誰かに期待されるのが怖い。
それでも、もし誰かの笑顔を守れるのなら。
――これは、正体を隠し続ける少年の、
世界に知られることのない英雄譚。
最強であることを「誰にも知られてはならない」物語が、今、始まります。
静かだった。
まるで音が、この世界から消えたみたいに。
放課後の教室。
窓の外は灰色の空。誰もいない席。冷たい椅子。……そこにいるのは、俺ひとりだけ。
名前は天津 零司。
ただの高校生。クラスの端っこで、いてもいなくても誰も気づかない存在。
母は仕事ばかりで、父は早くに消えた。
友達も、恋人も、何もない。
「……このまま、誰にも知られずに消えていけたら、楽なのに」
そんなことを、いつからか思うようになった。
だから、あのとき。
——ギィィィィィィィィィィィィン!!
世界が割れるような音とともに、教室が歪み、床が消え、
俺は、光に呑まれ、空へと落ちた。
(ああ……これで終わりだ)
不思議と、恐怖はなかった。
むしろ安堵に近かった。
誰にも惜しまれず、迷惑もかけず、ただ静かに——
俺はこの世界から、消えるだけ。
……そのはずだったのに。
「——よく来たな、選ばれし魂よ」
まばゆい空間に、ひとりの女神が現れた。
「お前のような孤独を知る者こそ、この世界に必要なのだ」
「……は?」
「これは二度目の人生だ。名前も姿も変わるが、お前には特別な力を与える。
魔王、賢者、剣聖……かつて世界を守った三つの魂を、その身に宿して」
女神は優しく微笑んだ。
「その力で、この世界を救ってほしい」
……バカか、と思った。
なんで、俺なんかが?
俺は何かを守るような人間じゃない。
人に嫌われるのが怖くて、面倒なことから逃げてきて、
ただ目立たないように生きてきただけなのに。
「そんな役、俺じゃなくていいだろ……」
そう言いかけて、でも、思った。
(……それでも、俺にできることがあるなら)
(俺の“意味”が、誰かの役に立つなら)
たとえ偽物でも、誰かを守れるなら、
少しくらい傷ついても、もう一度だけ、生きてみたい。
だけど——
(……目立ちたくは、ないな)
今度こそ、静かに、普通に生きたい。
英雄でも救世主でもなく、ただの“誰か”として。
そんな矛盾を抱えたまま、
俺の身体に三つの魂が流れ込む。
灼けるような魔力。知識。剣の型。誰かの怒り、悲しみ、誓い——
すべてが俺の中で叫び始めた。
(これが……三つの魂……)
その激流の中で、意識が沈んでいく。
——そして目を覚ましたとき、俺はもう“天津零司”ではなかった。
名を、クロウ・イグナート。
この世界に生きる、ただの一般人……を装う、最強の偽物。
空には、二つの月が浮かんでいた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
本作『偽りの名を継ぐ者──誰にも知られてはならない、最強の正体』は、
「正体隠し」「無自覚最強」「目立ちたくない系主人公」の要素を詰め込んだ物語です。
主人公・クロウは、力を持ちながらも静かに生きようとする少年。
彼の葛藤や成長、そしてヒロインたちとの出会いを通して、
“強さ”とは何か、“居場所”とは何かを描けたらと思っています。
このプロローグは、その始まりにすぎません。
少しでも心に引っかかるものがあった方は、ぜひ1話目から覗いてみてください!
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今後ともどうぞよろしくお願いいたします!