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試練の成果と古代の契約

魂の迷宮を制覇し、「知恵の心臓」を持ち帰ったさくらとユリウス。竜王バハムートは、彼らの勇気と絆を認め、ついに人間との「古代の契約」を復活させる。この契約は、両種族が力を合わせ、新しい世界の調和を維持するという、壮大な約束だった。

天空の祭壇に戻ったさくらとユリウスは、疲労困憊していた。精神世界での体験は、肉体にこそ傷を残さなかったが、魂を根こそぎ削り取られたかのような疲労感があった。さくらの手には、迷宮の最深部で手に入れた、「知恵の心臓」が握られている。それは、優しく脈打つ、光の結晶だった。

竜王バハムートは、彼らを無言で見つめていた。その黄金の瞳は、全てを見透かすように、試練の全てを、掌握しているようだった。

「…よくぞ、生きて、戻ったな、人の子らよ」

バハムートの声は、地の底から響くように荘厳だった。

「そして、持ち帰った。竜族の、最も、深い、知識と、苦悩の、結晶である、『知恵の心臓』を」

ユリウスは、震える手で、心臓を捧げ持った。

「我々は、試練を、乗り越えました。あなたの、同胞たちの、悲しみと、怒り、そして、憎しみも、全て、受け止めました。…我々は、あなた方と、真に、共存する、覚悟が、あります」

バハムートは、しばらく沈黙した後、ゆっくりと、その巨大な頭を、さくらに、向けた。

「異界の賢者よ。我らの、心の闇である、『絶望の竜』に、汝は、何を、語った?」

さくらは、深呼吸を一つした。

「私は、何も、特別なことは、言っていません。ただ、私たちは、あなた方の、痛みを、完全に、癒すことは、できない。それでも、逃げずに、あなた方と、向き合い、共に、未来を、築きたい、と、伝えました」

「そして、私たちが、あなた方を、裏切らないことの、証明として、この世界に、『真の、家』を、建築し続ける、と、誓いました」

その言葉に、バハムートは、満足げに、目を、細めた。

「…理解した。汝らの、絆と、覚悟。そして、汝の、純粋な、想い。それこそが、永い、時を経て、失われた、古代の、光なのだ」

バハムートは、頭を、下げ、さくらが持つ、「知恵の心臓」に、そっと、その鼻先を、触れさせた。

すると、心臓の光が、眩い、白金プラチナの、輝きを放ち、その光は、バハムートと、さくら、そして、ユリウスを、包み込んだ。

『――今、ここに、古代の契約は、復活する』

バハムートの声が、世界の、隅々まで、響き渡る。

「我ら、竜族は、大地と、空の、エネルギーを、司り、この星の、調和を、維持する、守護者となる。そして、汝ら、人間は、その、卓越した、知恵と、創造の、力で、この星に、秩序と、繁栄を、もたらす、管理者となる」

「互いに、協力し、互いの、領域を、侵さず、共に、この星の、未来を、背負う、対等な、パートナーとなることを、誓う!」

その、契約の、誓いの、言葉が、全て、終わった時、さくらが、持つ、「知恵の心臓」は、砕け散った。

しかし、その、結晶は、二つの、光の、粒となって、ユリウスとさくらの、胸へと、吸い込まれていった。

それは、古代の竜族の、知識の、全て。

ユリウスは、王として、国を、治めるための、政治、歴史、統治の、知識を。

そして、さくらは、建築士として、この世界の、素材、エネルギー、地脈、そして、魔法の、知識を。

竜族の、持つ、全てが、彼らの、脳裏に、刻み込まれたのだ。

「…すごい…」

さくらは、思わず、呟いた。彼女の、頭の中には、この世界で、実現可能な、あらゆる、建築技術、そして、まだ、人類が、発見していない、未知の、エネルギーの、活用法が、奔流のように、流れ込んでいた。

それは、まさに、「女神の知識」と、呼ぶに、ふさわしいものだった。

契約が、完了した、証として。

バハムートは、ユリウスに、一つの、贈り物を与えた。

それは、彼の、黄金の鱗で、作られた、一振りの、剣。「調停のソーディス・ハーモニア」。

「この剣は、ただの、武器ではない。竜と、人間の、間で、争いが、起きた時、両者の、魂に、直接、語りかけ、和解を、促す、調停の、証である。これより、汝が、持つ、その剣こそ、新しい、世界の、王の、証となるであろう」

ユリウスは、その剣を、恭しく、受け取った。

彼は、もはや、一国の王ではない。竜と、人間。二つの、種族を、束ね、新しい、世界を、導く、「盟主」となったのだ。

そして、バハムートは、リウスとさくらを、見つめ、優しく、微笑んだ。

「試練は、終わった。だが、汝らの、真の、戦いは、これからだ。この契約が、意味を成すためには、汝らが、世界の、全てを、変えなければならない。永い、時を経て、根付いた、憎しみと、不信を、取り除くのだ」

彼らは、バハムートに、別れを告げ、ヴァリウスの背に乗り、王都へと、帰還した。

王都アストライアに、降り立った、さくらとユリウスの、姿は、以前とは、比べ物にならないほど、自信と、威厳に、満ちていた。

ユリウスは、すぐに、全土に、布告を、発した。

「竜と、人間は、今、ここに、古代の契約を、復活させた。もはや、竜を、モンスターと、呼ぶことは、許されない。彼らは、我々の、対等な、パートナーである!」

この布告は、世界に、大きな、波紋を、広げた。

一般の、民衆は、喜びに、湧いた。彼らは、竜を、恐れる、対象ではなく、再び、神話の、存在として、崇めるようになった。

しかし、保守派の、貴族たちは、猛反発した。彼らにとって、竜は、恐れる、対象であると同時に、征服し、利用する、財産でもあったからだ。

「貴族院を、召集しろ!」

オルデン大公は、顔を、真っ赤にして、叫んだ。「竜などと、手を組むなど、王国の、恥だ!これは、王権を、弱体化させる、暴挙だ!」

バハムートとの、契約は、世界を、救う、希望となった。

しかし、同時に、それは、ユリウスとさくらの、政治的な、戦いが、さらに、激しさを、増すことを、意味していた。

彼らの、目の前には、まだ、多くの、障害が、立ちはだかっている。

彼らは、竜の知識と、人間の知恵を、融合させ、この、古びた世界を、どのように、刷新していくのだろうか。

真の、世界の、建築は、今、始まったばかりだった。

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