7,たわわな胸と形のいい尻と姉からのメッセージ
ここに来てから、まだ数時間しか経っていないというのに、いろいろなことがあって、もう何日もいるような気すらする。今までずっと、ほとんど姉としか会話せずに暮らしていたが、この数時間だけで、何人と口を聞いたことか。
女の子というのは、ずいぶんにぎやかなものだ。まぎれもなく自分も女の子である葉菜は、そんなことを思いながらシャワーのコックをひねる。
手に持ったシャワーヘッドから、勢いよく流れ出るお湯が肌を伝う。葉菜は、自分の申し訳程度の胸の膨らみを見下ろしながら、淳奈の薄い下着に包まれた、たわわな胸と形のいい尻を思い出す。
瑠衣は、彼女のことを淫乱などと言っていたっけ。たしかに、見た目はセクシーだけれど、話している感じでは、さっぱりした性格のように思えた。
きっと淳奈は人気者なのだろう。さっき郁美も名前を上げていたし。
シャワーを浴びて部屋に戻って来ると、見海は机に向かって勉強していて、瑠衣と淳奈は、それぞれベッドに横になってスマートフォンを見ていた。
それで、髪を乾かした後、葉菜もベッドに入ってスマートフォンの電源を入れると、姉からメッセージが届いていた。
―― 夕ご飯はもう食べた? わからないことがあったらみなさんに聞いて、迷惑をかけないようにね。
明日の朝は寝坊しないで、学校の先生にもちゃんとご挨拶してね。風邪を引かないように、温かくしておやすみなさい。
お姉ちゃん……。読むなり、涙がこみ上げる。すぐに返信を打ち込む。
―― 夕ご飯は食べたよ。部屋の人はみんな親切。シャワールームで、ほかの部屋の一年生の人と会ったよ。同じクラスになれるといいねって言われた。
どれも本当のことだ。みんな優しいし、ここに来てから、嫌な思いはしていない。
それでも、とても不安だし、姉に会いたくてたまらない。だが、心配をかけてはいけないと思い、事実だけを書いて送信した。
やがて消灯時間になった。いつもよりずっと早い時間だし、慣れない場所で、ちゃんと眠れるか心配だったのだが、姉のことや明日のことを考えているうちに、いつの間にかぐっすり眠ってしまった。
「……葉菜ちゃん……葉菜ちゃん」
名前を呼ばれて目を開けると、見下ろしている見海の顔があった。それで、清心寮にいることを思い出す。
「そろそろ朝ご飯の時間だから、起きて着替えて」
「あ……はい」
葉菜は、むっくりと起き上がる。朝は苦手で、いつもは姉に起こしてもらっていたのだった。
朝食の後は、みんな一旦、部屋に戻り、準備をして、すぐ隣の敷地に建っている学校に向かう。食堂で顔を合わせたときに、郁美が一緒に行こうと誘ってくれた。
見海たちの後について階段を下りて行くと、玄関で待っていた郁美が、こちらに向かって手を振った。淳奈が、葉菜を見て微笑む。
「もうお友達になったの?」
「昨日、シャワールームで会って」
友達というか、たまたま言葉を交わしただけだが。
「よかったね」
近づいて行くと、郁美がみんなに向かって元気に挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう」
みんな口々に返す。そして郁美は、葉菜に近づいて言った。
「行こうか」
「うん」
肩を並べて歩きながら、郁美はこちらを見て言った。
「二つ結び、かわいいね」
校則に合わせ、長い髪を二つに分けて、それぞれ耳の後ろでまとめている。昨日、帰って来たときは髪を下ろしていた淳奈も、今朝は二本のおさげにしていた。
「あ……三つ編み、うまく出来なくて。前の学校は、下ろしたままでもよかったから」
本当は、葉菜もおさげにしたかったのだが。
「へえ、そうなんだ。でも、かわいいよ」
「ありがとう。ええと、柴内さんの髪も、ふわふわしていてかわいいね」
郁美が苦笑する。
「ホントはさらさらのストレートに憧れるけどね。それと、『郁美』でいいよ」
「郁美、ちゃん?」