6,これ見よがしなため息と郁美
長めの髪をなびかせ、風をまとうように部屋の中央まで入って来た彼女は、葉菜を見て笑顔で言った。
「あっ、新入りさん」
葉菜は、思わず腰かけていたベッドから立ち上がる。
「三丘葉菜です」
「初々しくてかわいいね、一年生」
葉菜が答える前に、見海が彼女の背中に声をかけた。
「淳奈、遅いよ」
彼女が振り返る。
「カラオケ、盛り上がっちゃってさ。また瑠衣に嫌味言われちゃうね」
そう言いながら、淳奈はあっけらかんと笑っている。見海は、お姉さんらしく穏やかに言う。
「葉菜ちゃんが待っているから、早くシャワーの準備してね」
「オッケー」
そう言うなり、淳奈は制服を脱ぎ始めた。ブラジャーとショーツだけになった体を隠すこともなく、その姿のまま制服をロッカーにしまってから、おもむろに出した部屋着を着る。
見てはいけないと思いながら、スタイルのよさに葉菜は釘付けになってしまったのだが、見海は慣れているのか、見向きもせずに髪を乾かす作業に戻っている。
そこに、瑠衣が戻って来た。
肩にタオルをかけた瑠衣は、淳奈に向かって言う。
「なんだ、帰ってたの。今日は門限に間に合わないのかと思ってハラハラしちゃった」
「ハラハラした? ははっ、そう。じゃ、葉菜ちゃんが待ってるからシャワー行って来るう」
淳奈は、慣れた手つきで大きな巾着袋に着替えや基礎化粧品を詰め込むと、再び風のように部屋を出て行った。
「まったく、いい気なもんね」
瑠衣は、閉まったドアを見ながら、これ見よがしにため息をついた。
淳奈は、思ったよりも早く、髪をタオルで包んだ格好で戻って来た。
「葉菜ちゃんお待たせ」
葉菜は、着替えの入ったバッグを抱えてベッドから立ち上がる。瑠衣が言った。
「場所はわかる? 二階のあっちの突き当りね」
「はい」
「洗濯機があるから、なんならシャワーを浴びる間に洗濯してもいいし」
「あっ、はい」
なんだかんだ言っても、瑠衣はとても親切だ。
机に向かっていた見海が、ちらりと振り返って微笑んだ。淳奈は、洗い髪をごしごしとタオルで拭いている。
恐る恐るシャワールームのドアを開けると、テーブルに座って雑誌を広げていた女の子が、顔を上げてこちらを見た。くせっ毛らしい耳の下までの濡れた髪が、顔の周りでうねっている。
「三丘さんだっけ」
「はい」
「私も一年生なの。柴内郁美よ」
「あっ、よろしくお願いします」
葉菜がぺこりと頭を下げると、郁美がにっこり笑って言った。
「学校は明日から?」
「はい」
「同じクラスになれるといいね」
「はい」
「今、洗濯しているところなの。この時間、混んでいることが多いんだけど、今日はたまたま空いていたから」
シャワールームの個室が並んでいるのとは反対側の壁際に、洗濯機が三台置かれていて、今は二台が稼働中だ。そういえば、姉は、葉菜が家事をしたことがないことを心配していたけれど、結局ここでは、洗濯は自分でするのだ。
彼女は続ける。
「何しろ、女の子がたくさんいるからね。あっ、私の部屋は、すぐそこの205号室」
「私は……」
「淳奈さんたちのところだよね。303だっけ」
「そうです」
葉菜の言葉に、郁美がふふっと笑った。
「タメ口でいいよ。一年生同士なんだから」
「あ……うん」
一年生だろうが何年生だろうが、葉菜は今まで友達がいなかったので、人との接し方がよくわからない。もじもじしていると、郁美が言った。
「シャワー、浴びてきたら? 髪が長いから、洗うの大変そうだね」
「そんなこともないけど」
小さい頃から、ずっと長くしているので慣れている。
話していると、個室から、シャワーを済ませた人が出て来た。それを期に、葉菜も個室に向かう。
ドアを開けてすぐのところには、脱衣所があって、その奥がシャワーブースだ。葉菜は、着ていたワンピースと下着を脱ぎ、裸になってシャワーブースに入る。