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5,順番に使うシャワーと勢いよく開いたドア

 料理は、それなりにおいしかったけれど、当然、食べ慣れた姉の味とは違っている。もう姉の料理も食べられないのだと思い、やっぱり葉菜は悲しい。

 

 

 部屋に戻りながら、見海が言う。

 

「シャワーは消灯時間までに済ませることになっているの。シャワーブースの数がそんなに多くないから、部屋ごとに、一人ずつ順番に使うことになっているのよ」


 瑠衣が続ける。

 

「順番は、見海さんが一番、私が二番、淳奈が三番ってことになっているけど、葉菜ちゃんは四番目でいい?」


「あ……はい」


 いきなり「葉菜ちゃん」と呼ばれたことに戸惑いながら、葉菜はうなずく。

 

「まあ、淳奈はホテルで浴びて来ることも多いから、実質三番目ね」


 葉菜がきょとんとしていると、見海が瑠衣に向かって言った。

 

「やめなさいったら」




 部屋に戻ると、見海は、すぐに用意をしてシャワールームに向かった。

 

 見海の背中を見送った後、机の前のキャスター付きの椅子に座っていた瑠衣は、くるりと椅子をこちらに向ける。葉菜も、瑠衣に倣って、間に一つ机をはさんで、自分の机の前に座っている。

 

「見海さんって、第一志望に落ちてここに来たんだって」


「はあ」


 どうやら瑠衣は、噂話が好きらしい。


「たしかにここは、良家の子女が通うとは言いながら、お勉強のレベルはそんなに高くないもんね」


 さすがに「そうですね」とは言えないが、葉菜も、比較的簡単な筆記試験で転入が決まった。曖昧にうなずくと、さらに瑠衣は続ける。

 

「見海さん、見るからに真面目そうでしょ? 弁護士志望で、大学は国立を狙うとかで、いつも勉強しているの」


「そうなんですか……」


「私はこのままここの大学部に行くつもり。葉菜ちゃんもそう?」


「あ……そこまで考えてませんでした」


 瑠衣は、くすくすと笑う。

 

「そうか。葉菜ちゃんは寮に入るのが第一目的なんだもんね」


「はあ……」



 瑠衣は、第一印象とは違って話好きらしく、いろいろと説明してくれる。

 

「こっちのベッドは、上が見海さんで下が私。そっちの葉菜ちゃんの上が淳奈。


 ここより狭い三人部屋もあるんだけど、二人で使っているところもあって、そのほうがよさそうなもんだと思いきや、相性が悪いと最悪よ。仲が悪くて、口も聞かないなんて人たちもいたりして」

 

 葉菜はうんうんとうなずきながら、自分はみんなに顰蹙を買わないかと心配になる。何しろ、前の高校では、ずっと友達もいないままだったし、日常的に話をするのは姉だけで、同年代の人との付き合い方がよくわからないのだ。

 

「さて、私もそろそろシャワーの用意しておこうかな」


 そう言って立ち上がった瑠衣に倣い、葉菜もパジャマやタオルを準備し始めるが、瑠衣の次にシャワーを浴びるという淳奈は、まだ帰って来ない。

 

 

 

 やがて見海が戻って来て、瑠衣がシャワールームに向かう。見海は、ドライヤーを取り出して、洗面台の前で髪を乾かし始めた。

 

 葉菜は自分のベッドに腰かけ、その様子をぼんやりと眺めながら考える。お姉ちゃんは今頃どうしているだろう。

 

 姉は来月の結婚式を待たずに、佐原家に引っ越してしまう。結婚式には、葉菜も出席することになっているけれど、その後はもう、滅多に会えなくなってしまうに違いない。

 

 

 しょんぼりしていると、見海が、不意にドライヤーを切ってこちらを見た。

 

「ホントに淳奈の帰りが遅いようだったら、先にシャワーに行ってもいいよ。あの子、たまには門限に間に合わないこともあるし」


 壁にかけられた時計を見ると、八時が近い。

 

「はあ……」


 見海は、再びドライヤーをかけ始めた。

 

 葉菜は、小さくため息をつく。共同生活っていろいろめんどくさい……。

 

 

 なかば途方に暮れてぼんやりしていると、勢いよくドアが開いて、制服姿の女の子が飛び込んで来た。すらりとしていて、高校生にしては大人っぽく見える。

 

「やっば。ギリギリセーフ」

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