表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/58

30,名残惜しい気持ちと消防車

 まだ安心は出来ないが、そうであってくれればいいと思う。今週も、見海は予備校の講習会に行き、瑠衣は家に帰るので、昼間は一人になる。

 

 葉菜は、もうためらうことなく、佑紀乃を訪ねようと思っている。

 

 

 

 今日も佑紀乃は笑顔で迎えてくれた。葉菜ももう、佑紀乃の前で泣くこともない。

 

 次々にひどいことが起こったせいで、そういうことに、いくらか慣れてしまったのかもしれない。それがいいことだとも思わないが。

 

 今日は佑紀乃は、朝早くから時間をかけて作ったという、マカロンとチーズタルトを出してくれた。

 

「うっかり聞くのを忘れていたけれど、葉菜ちゃん、チーズは大丈夫だったかしら」


 心配そうな佑紀乃に、葉菜は答える。

 

「チーズもチーズケーキも大好きです。……すごい。こんなのも、おうちで作れるんですね」


 目を見張る葉菜に、佑紀乃は照れくさそうに言った。

 

「葉菜ちゃんに食べてもらいたくてがんばったのよ。マカロンは、初めて挑戦してみたの」


 なんとうれしいことを言ってくれるのだろう。感激している葉菜に、佑紀乃が、マカロンを指しながら言う。

 

「まずは一つ食べてみて」


「はい」


 薄紅色のマカロンを、一つつまんでかじる。サクサクの生地は、口の中でほろほろと崩れて、すぐに溶けた。

 

「……おいしい!」


 思わず声を上げると、両手のひらを合わせた佑紀乃が、うれしそうに微笑んだ。その笑顔に、葉菜も幸せな気持ちになる。

 

 チーズタルトも、こっくりと濃厚で、とても優しい味がした。

 

 

 

 お茶を飲みながら、葉菜は今週起こったことを佑紀乃に話した。郁美が家で静養することになり、メッセージを送っても返事がないことや、淳奈が謹慎処分になってしまったことなどを。

 

 

「お友達のこと、心配ね。葉菜ちゃんも辛かったわね」


 佑紀乃の言葉に、鼻の奥がツンとする。

 

「見海さんや瑠衣さんにも何かあったらどうしようかと思って……」


 つい弱音を吐いた葉菜に、佑紀乃が微笑みかける。

 

「でも、ルームメイトの方たち、みんなとてもいい方ね」


「はい、とても心強いです」


 だからこそ、これ以上迷惑をかけたくないのだ。

 

 

 今日もおいしいお茶とお菓子をごちそうになって、話を聞いてもらって、ずいぶん気持ちが軽くなった。今や葉菜にとって、佑紀乃は、見海たちと同じくらい大切でかけがえのない存在だ。

 

 

 

「それじゃ、また遊びにいらしてね。よかったら、週末じゃなくても、いつでも葉菜ちゃんが来たいときに」


 帰り際、そう言って、佑紀乃は送り出してくれた。名残り惜しい気持ちを抑えて、葉菜は洋館を後にした。

 

 

 

 別荘地の間を通る道路を、寮に向かって歩いていると、遠くからサイレンの音が聞こえて来た。あれは消防車だろうか。

 

 さらに歩いて行くと、広い通りを消防車が走って行くのが見えた。向かっているのは、寮の方向だ。

 

 まさかとは思いながら、不安になって、葉菜は足を速める。やがてコンビニのある通りに出ると、消防車が寮の入口へと続く道路を上って行くのが見えた。

 

 まさか……。いつしか葉菜は、寮に向かって駆け出していた。

 

 

 

 寮の敷地内に消防車が停まっていて、消防士の姿も見える。寮に残っていたらしい寮生たちも、外から寮を見上げているが、どこにも火や煙は見えない。

 

 立ち尽くしたまま呆然と見回していると、後ろから声をかけられた。

 

「葉菜ちゃん」


 振り向くと、今戻って来たところらしい見海だ。

 

「これ、どういうこと? 何があったの?」


「私も、今帰って来たばっかりで……」



 そこへ、榎戸が駆け寄って来た。

 

「あなたたち!」


 見海が尋ねる。

 

「何があったんですか?」


「あなたたちの部屋から小火が出たのよ」


「えっ!?」


 二人は、顔を見合わせる。

 

「ちょっとこっちへ」


 榎戸は、二人を人気のない物置の陰へと連れて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ