3,四人部屋とルームメイト
廊下の反対側に、階段が見えている。そちらに向かいながら、榎戸は説明する。
「二階と三階が生徒たちの居室になっていて、葉菜さんに入っていただくのは、三階の303号室です」
姉が聞く。
「そのお部屋は……」
「はい、四人部屋です。今は三人で使っているので、そこに入っていただきます」
うなずく姉の横で、葉菜は内心ぎょっとする。二人部屋でも嫌なのに、三人部屋どころか、なんと四人部屋とは。
榎戸は、さらにぞっとすることを言った。
「今いるのは、三年生が一人、二年生が二人です」
ああ、なんと全員上級生。絶望しながら階段を上り、二階に着いたところで、榎戸が、廊下の奥を指しながら言う。
「あちらがトイレ、向こうの突き当りがシャワールームで、洗濯機もあります。トイレもシャワールームも部屋ごとに交代でお掃除することになっているので、とても清潔ですよ」
ということは、三階にトイレはない? それでは、トイレに行くたび、階段を上り下りしなくてはいけないのか。
そして、ついに榎戸が、腕時計を見ながら言った。
「それじゃ、お部屋に参りましょうか。この時間なら、みんな学校から帰っているかしら」
今は四時前で、もう授業は終わっていることだろう。緊張に、胸がドキドキし始める。
「榎戸です。どなたかいらっしゃる?」
榎戸が、ドアをノックしながら声をかけると、ほどなくドアが開いた。顔をのぞかせたのは、ボブヘアに眼鏡の女の子だ。
「みなさんいらっしゃる?」
榎戸の問いかけに、彼女が答える。
「秋川さんはまだ戻っていませんけど」
「そう」
そして榎戸は、葉菜のほうを振り返りながら言う。
「こちら、話していた三丘さんよ」
彼女がこちらを見て、目が合う。葉菜はぺこりと頭を下げた。
「こちらは三年生の」
榎戸の言葉に続いて、彼女は、葉菜と姉を等分に見ながら言った。
「城山見海です。どうぞ」
そして、ドアを大きく開く。
十二畳ほどの広さの部屋に、四つの机とロッカー、二段ベッドが二つ。私物も置かれていて、四人で使うには、少し狭そうな気がする。
その机の一つの前に座っていた女の子が立ち上がった。ショートヘアでほっそりとしていて、おとなしそうな雰囲気だ。
榎戸が言う。
「こちらは二年生の安田瑠衣さん」
「安田です」
彼女は、姉と葉菜をちらりと見ながら頭を下げた。姉が、葉菜の背中に手を添え、二人に向かって言った。
「三丘葉菜の姉です。今日から妹がお世話になります」
それから、促すように葉菜のほうを見たので、しかたなく頭を下げながら言う。
「あ……よろしくお願いします」
榎戸が、部屋を見回しながら言った。
「ええと、三丘さんの机はここね?」
指したのは、入り口に一番近い机で、そこだけ物が置かれていない。
「それから……」
再び、部屋を見回す榎戸に、城山が言った。
「あっ、ベッドはここです」
見ると、片方の二段ベッドの下の段に、宅配便で送った葉菜の荷物が置かれている。
「机と、その横の鍵付きのロッカーと、ベッドが自分のスペースですから、荷物はそのいずれかに、特に貴重品はロッカーに収めるようにしてくださいね。それでは後ほど」
そう言って、榎戸は部屋を出て行った。気まずい沈黙が流れる中、姉が二人に向かって言った。
「少しの間、おじゃましますね。荷物が片付いたら、私はすぐに失礼しますので」
ああ、荷物が片付いたら、姉は帰ってしまう。帰ってしまったら、もう当分会えないのだ。
だったら、いつまでも片付かなければいいのに。葉菜は悲しい気持ちになったが、見海が笑顔で言った。
「私たちのことなら気にしないでください」
「そうですか? すいません」
姉も微笑み返す。
葉菜の願いも虚しく、たいして多くない荷物は、あっという間に所定の位置に収まってしまった。
「それじゃ、みなさんの言うことをよく聞いて、ご迷惑をかけないようにするのよ」
姉の言葉に、涙がこみ上げる。
「お姉ちゃん……」