28,消えた上履きと淳奈の謹慎処分
部屋に戻り、再び郁美にメッセージを送った。
―― 体調不良で学校をお休みすると聞きました。私のせいでごめんね。また元気になって戻って来る日を待っています。
やはり返信はなかった。
翌日、学校に行くと、玄関の下足入れから上履きが消えていた。迂闊だった。
教科書その他の持ち物は、その都度ロッカーから出して使い、使い終わったらロッカーにしまうということを心がけていたのだが、上履きのことにまで考えが及ばなかった。
怒りと呆れが入り混じった感情がこみ上げ、葉菜は深いため息をついた。もうどうでもいいと思い、靴下のまま廊下を歩き始める。
始業前の廊下を行きかう人たちが、葉菜の足元をじろじろ見るが、今さら気にもならない。どうせみんなは、葉菜のことを泥棒か、よくても河合の生贄になったかわいそうな子だと思っているのだろう。
そのまま授業を受けていたのだが、昼休みが始まる頃に、尿意をもよおした。さすがに靴下のままトイレに入る気にはなれない。
観念して、購買部に向かう。幸いなことに、この学校の購買部には、学内で必要なものは一通りそろっている。
あれ以来、何かあったときのためにと思い、いつもそれなりの金額を用意して持っているのだ。もちろん、財布はいつも制服の内ポケットにいれているし、体育の授業など、やむを得ないときはロッカーにしまうようにしている。
それに、あれ以来、ロッカーの暗証番号もしょっちゅう変えている。
上履きだけでなく、汚れた靴下で新しい上履きを履くのは嫌だったので、学校指定のソックスも買った。これらの冷静な対応が、かえって憎悪を煽るのではないかと危惧しつつ。
トイレを済ませ、いつも通りにカフェテリアで一人の昼食を取った。
ロッカーに汚れた靴下をしまい、五時間目の授業の教科書とノートを出して教室に入る。河合たちの視線が気になるが、あえて気づかないふりをして自分の席に着く。
葉菜は、今日何度目かのため息をついた。河合たちの葉菜に対する嫌がらせは、いつまで続くのだろう。
しかたがないので、上履きは、毎日寮に持ち帰ることにした。荷物になるが、学校と寮はたいした距離ではないから苦にならない。
部屋に戻ると、見海と瑠衣とともに、めずらしく淳奈もいて、キャリーケースに荷造りをしている。
「ただいま」
「おかえり」
「葉菜ちゃんおかえり」
挨拶をかわしていると、淳奈がこちらを見て言った。
「私、謹慎処分になっちゃった」
「えっ?」
驚いていると、淳奈が荷造りの手を止めて言った。
「バイトしているのがバレちゃってさ」
瑠衣が呆れたように言う。
「まさか、そんなことをしているなんて、ちっとも知らなかった」
「言わなかったからね」
淳奈の言葉に、瑠衣が気色ばむ。
「それは、私たちを信用していないからってこと?」
「そんなこと言ってないじゃん」
険悪なムードに、見海が割って入る。
「ちょっと、やめなよ。そんなことでケンカしてどうするの」
「別にケンカじゃないよ。思ったことを言っているだけ」
「瑠衣ちゃん……」
淳奈が、葉菜に説明する。
「今日、担任に呼び出されてさ。『あなたが学校で禁止されているアルバイトをしているという情報提供がありましたが、本当ですか?』って。
今さらごまかしても無駄だと思って認めたけど、誰も知るはずがないのに、なんでバレたんだろうって、ものすごく不思議で。一瞬、葉菜ちゃんかなって思っちゃった」
「そんな!」
思わず声を上げると、淳奈はすぐに否定した。
「もちろん、本気で思ったわけじゃないよ。ただ、バイトのことは、この前、葉菜ちゃんに話したのが初めてだったから。
でも、情報源は教えてもらえなかったけど、担任にしつこく聞いたら、葉菜ちゃんが知るはずのないことがたくさん出て来て。たとえば美術専門学校の一室でやっているとか、相手の名前とか。




