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25/58

25,醒めた紅茶とセクシーな姿であははと笑う淳奈

 自分では、そんなふうには思っていなかったが、あのことがあってから、二、三日は食欲がなかった。思わず顔を見ると、佑紀乃が心配そうに言った。

 

「何かあったの?」


「あ……」


 たった今まで、そんなつもりはなかったのに、優しい言葉をかけられたとたんに涙がこみ上げる。口をへの字にして涙をこらえる葉菜に、佑紀乃が言った。

 

「もしよかったら、話してくれる?」


 何か言う前に、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

 

 

 

 結局、子供のようにしゃくり上げながら、葉菜は、佑紀乃にすべてを話した。そうしたことで、理不尽な扱いを受けて、自分がどんなに悔しく、傷ついているかを再認識した。

 

 話し終え、佑紀乃が目の前に置いてくれたティッシュボックスから、何度目かのティッシュを抜き取って涙を拭う。

 

「ひどいわね……」


 美しい眉をひそめてそう言ったまま、しばらくの間、佑紀乃は黙り込んだ。

 

 

 葉菜は、呆然としたままため息をつく。佑紀乃に聞いてもらって、少しだけ気が済んだ。

 

 やがて、佑紀乃が我に返ったように言った。

 

「すっかり紅茶が冷めちゃったわね。淹れ替えましょうか」


「ううん、これで大丈夫です」


 葉菜は、カップを手に取って口に運ぶ。冷たくなった紅茶は、話し疲れた喉に心地よかった。

 

 

 

 手作りのシュークリームを勧めてくれながら、佑紀乃が言う。

 

「その人たち、ずいぶん悪質だと思うわ。もしもエスカレートするようなら、誰か信頼できる大人に相談したほうがいいんじゃないかしら」


「でも……」


 吉尾先生は、初めからまともに話を聞いてくれる気はなく、問題の本質よりも、自分の立場を気にしているようだった。果たして、ちゃんと話を聞いて、力になってくれる人などいるのだろうか。

 

 うっかり間違った相手に相談して、大ごとになったり、あるいは、さらに事態が悪くなったりしたら……。

 

「私にも、何か出来ることがあればいいんだけれど」


 深刻そうな顔で考え込んでいる佑紀乃に、葉菜は言った。

 

「佑紀乃さんに聞いてもらえて、すごくうれしかったです。いっぱい泣いちゃって、恥ずかしいけど、ちょっとすっきりしたし」


「そう? 辛くなったら、いつでもここに来て、私に話して。また何かされたときには、どうすればいいか私も一緒に考えるから」


「ありがとうございます」


 やっぱり、ここに来てよかった。話を聞いてくれ、心を寄せてくれる人がいるというだけで、ずいぶん心強いものだ。

 

 葉菜はそう思った。

 

 

 シュークリームを食べ、クッキーを食べ、紅茶のおかわりもした。夕方になり、佑紀乃に見送られて洋館を後にする頃には、ずいぶん気持ちも落ち着いていた。

 

 

 

 寮の部屋に戻り、ベッドに腰かけてぼんやりしていると、この時間にはめずらしく淳奈が帰って来た。

 

「おかえりなさい」


 ぽかんと見ていると、淳奈が苦笑した。

 

「何? 私が早く帰って来てびっくりした?」


「いえ、そんなことは」


 実は図星だが。すると淳奈が、さっさと服を脱ぎながら言った。

 

「葉菜ちゃん、クラスでいろいろ大変みたいだし、今日は見海さんも泊まりだから、早めに帰って来てって言われて」


 それでは、葉菜のためにデートを早く切り上げて帰って来てくれたのか。

 

「なんかすいません……」


 ブラジャーと小さなショーツだけのセクシーな姿になりながら、淳奈は、あははと笑う。

 

「いいよ。私だって、瑠衣が言うほど男に夢中なわけじゃないんだから」


 そして、スウェットシャツを頭から被り、襟から顔を出して言った。

 

「これ、みんなには内緒だけど、私、絵のモデルのバイトをしているんだ。黎明は、ホントはアルバイト禁止なんだけどね」


 葉菜はあわてる。

 

「そんなこと、私に言っちゃっていいんですか?」


 淳奈が、デニムに足を通しながら言った。

 

「葉菜ちゃん、口が堅そうだから」


「はあ……」


 そう言ってもらえるのはうれしいけれど。

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