25,醒めた紅茶とセクシーな姿であははと笑う淳奈
自分では、そんなふうには思っていなかったが、あのことがあってから、二、三日は食欲がなかった。思わず顔を見ると、佑紀乃が心配そうに言った。
「何かあったの?」
「あ……」
たった今まで、そんなつもりはなかったのに、優しい言葉をかけられたとたんに涙がこみ上げる。口をへの字にして涙をこらえる葉菜に、佑紀乃が言った。
「もしよかったら、話してくれる?」
何か言う前に、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
結局、子供のようにしゃくり上げながら、葉菜は、佑紀乃にすべてを話した。そうしたことで、理不尽な扱いを受けて、自分がどんなに悔しく、傷ついているかを再認識した。
話し終え、佑紀乃が目の前に置いてくれたティッシュボックスから、何度目かのティッシュを抜き取って涙を拭う。
「ひどいわね……」
美しい眉をひそめてそう言ったまま、しばらくの間、佑紀乃は黙り込んだ。
葉菜は、呆然としたままため息をつく。佑紀乃に聞いてもらって、少しだけ気が済んだ。
やがて、佑紀乃が我に返ったように言った。
「すっかり紅茶が冷めちゃったわね。淹れ替えましょうか」
「ううん、これで大丈夫です」
葉菜は、カップを手に取って口に運ぶ。冷たくなった紅茶は、話し疲れた喉に心地よかった。
手作りのシュークリームを勧めてくれながら、佑紀乃が言う。
「その人たち、ずいぶん悪質だと思うわ。もしもエスカレートするようなら、誰か信頼できる大人に相談したほうがいいんじゃないかしら」
「でも……」
吉尾先生は、初めからまともに話を聞いてくれる気はなく、問題の本質よりも、自分の立場を気にしているようだった。果たして、ちゃんと話を聞いて、力になってくれる人などいるのだろうか。
うっかり間違った相手に相談して、大ごとになったり、あるいは、さらに事態が悪くなったりしたら……。
「私にも、何か出来ることがあればいいんだけれど」
深刻そうな顔で考え込んでいる佑紀乃に、葉菜は言った。
「佑紀乃さんに聞いてもらえて、すごくうれしかったです。いっぱい泣いちゃって、恥ずかしいけど、ちょっとすっきりしたし」
「そう? 辛くなったら、いつでもここに来て、私に話して。また何かされたときには、どうすればいいか私も一緒に考えるから」
「ありがとうございます」
やっぱり、ここに来てよかった。話を聞いてくれ、心を寄せてくれる人がいるというだけで、ずいぶん心強いものだ。
葉菜はそう思った。
シュークリームを食べ、クッキーを食べ、紅茶のおかわりもした。夕方になり、佑紀乃に見送られて洋館を後にする頃には、ずいぶん気持ちも落ち着いていた。
寮の部屋に戻り、ベッドに腰かけてぼんやりしていると、この時間にはめずらしく淳奈が帰って来た。
「おかえりなさい」
ぽかんと見ていると、淳奈が苦笑した。
「何? 私が早く帰って来てびっくりした?」
「いえ、そんなことは」
実は図星だが。すると淳奈が、さっさと服を脱ぎながら言った。
「葉菜ちゃん、クラスでいろいろ大変みたいだし、今日は見海さんも泊まりだから、早めに帰って来てって言われて」
それでは、葉菜のためにデートを早く切り上げて帰って来てくれたのか。
「なんかすいません……」
ブラジャーと小さなショーツだけのセクシーな姿になりながら、淳奈は、あははと笑う。
「いいよ。私だって、瑠衣が言うほど男に夢中なわけじゃないんだから」
そして、スウェットシャツを頭から被り、襟から顔を出して言った。
「これ、みんなには内緒だけど、私、絵のモデルのバイトをしているんだ。黎明は、ホントはアルバイト禁止なんだけどね」
葉菜はあわてる。
「そんなこと、私に言っちゃっていいんですか?」
淳奈が、デニムに足を通しながら言った。
「葉菜ちゃん、口が堅そうだから」
「はあ……」
そう言ってもらえるのはうれしいけれど。




