12,別荘地と危険信号
昼食の後、葉菜は部屋に戻りながら考える。たしかに、ずっと部屋に一人でいても気持ちがふさぐだけだし、コンビニでおやつでも買って、寮の周りをぶらぶらしてみようか。
そういえば、この数日、寮と学校の往復だけで、まだ一度も敷地の外に出ていないのだ。
最初の日に、タクシーに乗って来た道路を少し戻ると、広い通りに出た。道路の向かい側を少し行ったところにコンビニが見える。
来るときは、不安と寂しさでいっぱいで、周りの景色を見る余裕などなかったのだ。
コンビニで、デザート代わりのソフトクリームを買って、外のベンチに腰かけて食べる。そして、周りを見回しながら、これからの予定について考える。
さて、どうしようか……。
ソフトクリームを食べ終わったので、コーンの部分を包んでいた紙のカップを、ベンチの横のゴミ箱に捨てて立ち上がった。
ついタクシーでやって来た方向に行きたくなるが、駅までは、とても歩いて行ける距離ではない。そもそも、駅に行ってもしかたがない。
それで葉菜は、あえて反対の方向に歩き出した。特に目的があるわけではなかったが。
しばらく歩いて行くと、山の方向に向かって続いている道路があった。少し登り坂になっているが、まだ山は遠く、緑の中に、ぽつりぽつりとかわいらしい家が建っているのが見える。
どうやら別荘地が広がっているらしい。葉菜は、ログハウスやロッジ風の家々を眺めながら、蛇行するアスファルトの道路を歩いて行く。
今はオフシーズンのせいか、人気はないが、雰囲気のある建物を眺めながら歩くのは楽しい。やがて別荘地が終わり、建物はなくなったが、道路は、さらにその先の森の中へと続いている。
少し迷ったものの、まだ時間は早いし、道路の先がどうなっているか気になったので、行けるところまで行ってみることにした。
しばらく歩くと、すぐに森が深くなり、そのせいでいくらか薄暗いが、きちんと舗装された車も通れそうな道路なので、あまり不安は感じない。この先には人家があるか、あるいは、どこかに通り抜けられるのかもしれない。
森の空気はすがすがしく、心なしか爽やかな香りもする。これは葉っぱが発する香りだろうか……。
気分よく歩いていたのだが、ついに舗装が途切れた。その先は、土の道になっている。
ふと気がつけば、ずいぶん高いところまで来ているようだ。これ以上進んでも、どんどん森の奥に入って行くだけで、やがて山を登ることになるのではないだろうか。
さすがに山登りをする気はない。葉菜が着ているのはコットンのワンピースで、足元は華奢なフラットシューズだ。
ここまで来ただけでも、けっこう面白かった。そろそろ来た道を戻ろう。
そう思って踵を返そうとしたとき、道の先の木陰で、何かが動いた気がした。今の、何? なぜだか、とても気になる。
頭の隅で、危険信号が鳴っている。確かめようなどと思ってはいけない。今すぐ早足で来た道を戻るのだ。
姉にいつも言われている。葉菜はいつも、得体の知れないものにふらふらと近づいて行くけれど、危ないから絶対に駄目よ、と。
それはわかっている。だけど、今から寮に帰っても、まだ夕ご飯までには時間があるし、見海だって帰っていないだろう。
多分、何もないだろうけれど、もしかしたらウサギか、それはないとしても猫かもしれない。小さい頃に飼っていた三毛猫のミミちゃんは、とてもかわいかったっけ。
せっかくここまで来たのだから、もう少しだけ奥まで行っても……。結局、葉菜は土の道に足を踏み入れた。
だが、さっき何かが動いたように見えたところまで行ってみたものの、特に何もなかった。地面に生えている草が風に揺れただけかもしれない。
やっぱりね。そんなことだろうとは思ったけれど。
ちょっとがっかりしながら、来た道を戻ろうとしそのとき、今度は本当に、はっきりとそれが見えた。




