バイク大改造ビフォーアフター
翌朝、俺は宿屋の前にて、期待に胸を膨らませていた。今日、俺たちの新たな相棒が戻ってくる。昨日の銃の練習で体に染み付いた疲労も、もうほとんど感じない。朝日が差し込む中、一台のバイクが宿屋の角を曲がって現れた。その姿を見た瞬間、俺は思わず目を細めた。
「おお……!」
そこに現れたのは、見慣れた俺のオンロードバイクだった。だが、よく見ると、細かな部分に手が加えられているのがわかる。
元の黒いフレームに、鈍く光る銀色の魔導金属らしきパーツが溶け込むように組み込まれている。特に目を引くのは、燃料タンクのあった場所に埋め込まれた、まるで心臓のように脈打つ、淡い青白い光を放つ魔力変換炉だ。見た目の派手さはないが、秘められた力がそこにあることを静かに主張していた。
改造を手掛けたのは、この町の凄腕の職人だ。彼らはこの異世界で空気中の魔力を消費して動くバイクという新たな乗り物を生み出すことに成功したのだ。
職人が誇らしげに胸を張る。
「どうだい!最高の仕上がりだろ?俺の腕の傑作だ!」
俺は興奮を抑えきれず、バイクに近づき、そっと触れてみた。ひんやりとした金属の感触が、手のひらに伝わる。シートに跨ると、まるで自分の体の一部になったかのように、しっくりと馴染んだ。キーを回す代わりに、魔力変換炉に意識を集中させる。すると、青白い光が一段と輝きを増し、微かな振動がシートを通じて伝わってきた。
「すごい……!本当に動くんだ!」
職人が付け加える。
「ああ、通常の燃料は一切いらない。空気中の魔力を変換して動くから、実質無限に走れるんだぜ!もちろん、変換効率はリナさんの魔法で最適化してある」
リナが少し照れたように笑う。
「どう?これでどこでも行けるね!」
俺はバイクに跨がり、リナに笑顔を向けた。
「ああ!どこへでもだ!」
試しに宿屋の周りを一周してみる。加速は滑らかで、音もほとんどしない。まるで風になったかのように、スッと地面を滑っていく。舗装されていない道でも、安定した走りを維持できた。これなら、どんな悪路でも乗り越えられるだろう。まさに、この異世界を旅するために生まれた究極の相棒だ。
これで移動手段の問題も解決した。あとは、この世界でどう生きていくかだ。
バイクの試運転を終え、俺とリナは町の食堂で昼食をとった。たくさんの人が食事を囲んでいる。俺はシチューを頬張りながら、今後のことを考えていた。この町にいても、いつまでも目的もなく滞在し続けるわけにはいかない。
「リナ、お前はどうするんだ?俺はもう少し、この世界を探索したいと思ってる。元の世界に戻る方法を探すためにも……」
俺の言葉に、リナはフォークを止めて顔を上げた。その瞳には、少し寂しそうな色が浮かんでいる。
「うーん。私はどうしようかなあ、ユウマとはお金を返してもらうためにパーティを組んだけど早速返してもらったし。ユウマはいつ出るの?」
「まだ決まってないけどそこまで長くはいないよ」
「ちょっと考えさせて欲しいな。明日はいるんでしょ?」
「そのつもりだけど」
「それじゃあ少し悩んだら伝えるよ」
昼食を終え、肉厚のシチューで満たされた腹をさすりながら、俺は食堂を出た。日差しは午後の穏やかな光を町に降り注いでいる。さっきのバイクの試運転で旅への期待が最高潮に達していた。あとは、本格的な旅立ちのために必要な物資を揃えるだけだ。
商店街は、朝とはまた違う賑わいを見せていた。
様々な種族の人々が行き交い、店からは活気ある声が飛び交う。たくさんの草が並ぶ薬草店、村の職人が鍛えた金属製品が並ぶ鍛冶屋、そして見たこともない食材が山と積まれた食料品店。まるで祭りでも開催されているかのようだ。
まず向かったのは、町の入り口近くにある雑貨屋だった。店先には色とりどりの布地や、木製の食器、そして用途不明の道具が所狭しと並べられている。
「まずは、野営道具だな。寝袋と、調理器具、あとランタンもいるか」
店番の老婆が俺に声をかけてきた。
「坊主、魔力式のランタンなら燃料いらずで便利だよ。空気中の魔力を吸って光るんだ」
俺は感心してそれを受け取った。手のひらサイズの小さなランタンだが、確かに魔力変換炉が組み込まれている。
「おお、これは便利だな!」
次に立ち寄ったのは、食料品店だ。店の中には、見慣れない果物や野菜、そして燻製肉などが吊るされている。保存が効くものを中心に選ばなければならない。
「干し肉は必須だな。あと、携帯食になりそうなもの……」
店主が奥から不思議な形のパンを持ってきた。
「兄ちゃん、この『旅人のパン』は、栄養価が高くて日持ちもするからおすすめだよ。それに、軽いから持ち運びにも便利だ」
言われるがままにいくつか購入する。他にも、携帯用の水筒や、簡単な応急処置ができる薬草、それを前に買ったバックに詰めていく
最後に訪れたのは、情報屋と書かれた小さな店だった。古びた看板が掲げられ、店内は薄暗く、埃っぽい。しかし、こういう場所こそ、貴重な情報が眠っているものだ。
「いらっしゃい。何かお探しで?」
店の奥から、フードを深く被った男が顔を覗かせた。その顔は影になってよく見えない。
「ああ、この世界の地図を探してるんだ。あと、危険な場所や、旅の注意点なんかがあれば教えてほしい」
男は無言で分厚い巻物を差し出してきた。広げてみると、そこには詳細な地図が描かれている。山脈、河川、森、そして町や村の位置まで記されている。その隣には、魔物の生息地や、盗賊が出没する危険な場所も記されていた。
「これだけの情報があれば、かなり助かるな。いくらだ?」
男が提示した額は、俺の想像を遥かに超えるものだった。しかし、旅の安全を考えれば、惜しむべきではないだろう。
「……分かった。これをくれ」
交渉の末、何とか値引きしてもらい、地図と、この世界の旅に関する注意点をまとめた小冊子を手に入れた。店を出ると、ほっと一息ついた。
そうこうしているうちに、日も傾き始め、町の通りには夕焼けの赤色が広がっていた。バックがなければ両手に抱えきれないほどの荷物を宿屋に持ち帰る
ふと窓の外を見ると元の世界では見ることのできなかった自然豊かな景色が見れた。
これからどうしていこうか、不安の入り混じる中布団に入った。
どんどんと悠真の旅立ちに向けて物語が進んでいきます。リナとの関係はどうなっていくのか、お楽しみに