新学期
「暑い……溶けそう……」
私は涼しい自分の部屋……ではなく炎天下の中を歩いていた。
理由は単純、学校に行くためだ。
そう、今日から2学期である。
この夏休みの間事務所に用事がある時以外はほとんど外出していないがために今の私には暑さへの耐性がない。
夏休みというものがない社会人の皆さんはほんとに凄いと思う。
よくこの暑さの中で満員電車に乗ることができるものだ。
冷房が効いてるとは言えそれでもきついだろうに。
自分も将来やることになるんだろうなぁ。
将来のことを考えめんどくさいと思いながら少しの上り坂を歩くととても大きい学校が目に入る。
そこが私の通っている高校、花霞学園。
近くにあるってだけで選んだ学校。
親は結構放任主義だったので私がここがいいと言ったら快く了承してくれた。
もともと行きたい学校とかなかったし。
もうちょっと理由を上げるとするなら友達がいくって言ってたっていうのもあるかな。
「あ、空。久しぶり!」
「ん? あ、あか──グハッ!」
「あ、ごめんごめん」
私が熱々の地面に倒れながら見上げるとそこには苦笑しながら謝るボーイッシュな女子がいた。
彼女の名前は星野あかり。
他でもない彼女が先ほどいった友達だ。
「なんでわざわざみぞおち狙ってくるかな……」
「いやーわざとじゃないんだって。はい」
「ほんとかなぁ?」
差し出された手を掴んで立ち上がりながらそう文句をいう。
「本当にごめんって。でもそこまで痛くはなくない?」
「痛さはそうだけど結構みぞおち近くだけでキツイんだよ。痛さよりも感覚というかなんというか……」
「うまく息ができないみたいな?」
「そうそれ」
「息が詰まるってやつ?」
「それはそれで違くない?」
それはなんか気まずい状況で使う言葉だったはず。
なんてことを「そうだっけ?」と頭を傾げているあかりを横目に考えていた。
「それで空はこの夏休みどうだった?」
「夏休み?」
「そうそう。私はね……」
「どうせ部活三昧だったんでしょ?」
「えー先に言わないでよ。ここは私のセリフでしょ?」
「言わなくてもわかるよ。毎年そうだもん」
「だって部活楽しいんだもん」
「暑くない?」
この暑い中ほぼ毎日学校に来て運動するなんて地獄では?
私なんかこれからこの暑い中学校行くのかと考えると嫌になるもん。
「バカ暑いよ」
「だったらなんでいくの」
「部活が楽しから!」
「結局そこに帰ってくるのか」
「いいでしょ別に」
「悪いとは言ってないよ。まぁよくこんな暑い中楽しめるなって思うけど」
「夢中になるとそういうの二の次にならない?」
「それは……確かに」
「でしょ〜?」
あかりは笑う。
私も配信とかしてると時間気づかないうちにめちゃくちゃ経ってるってこと結構あるし人間とはそういうものなのだろう。
……なんか妙に哲学っぽくなったな。
そんなことを思いながら昇降口で上履きに履き替える。
教室へと階段を登っているとあかりが思い出したように口にする。
「というかそういう空はどうなの?」
「え、私?」
「そうだよ。ってかそもそも私が空に質問したのに私のことしか話してないじゃん」
「私の話……ね……」
「そうそう、夏休みどうだったのさ」
私の夏休み……
あかりの質問に私は軽く思考を回らせる。
今年の夏休みは濃すぎたからなぁ。
というかVtuberってことは友達にまともに話せる内容じゃないし。
今年の夏休みからVtuberの要素を除いたら……
「基本的にずっと家にいたかな」
あれ、私からVtuber取ったらただ夏休みぐーたらしてただけじゃ……
いやまぁ前の年もそんな感じではあったけど。
「えー? それってつまんなくない?」
「そうかな。家でもゲームとかでできるよ?」
「私ゲームとかわかんないや」
「あかりはゲーム下手だからね」
「下手っていわないでよ〜」
あかりが口を膨らませてそう文句を言う。
「でも前私の家で一緒に遊んだ時は私にボコボコにされてたじゃん」
「あれは空が強すぎるだけだよ。私なんか一勝もできなかったよ」
前のことを思い出したのかあかりは苦い顔をしている。
確かあのときは私とあかりで一緒にFAで一対一したんだっけ。
私がどうのこうの関係なくあかりがただ下手なだけだった気もするけど。
「それはひどくない?」
「あれ、私声に出てた?」
「うん、ガッツリ」
「ごめん。でも事実」
「ひどっ!」
私はあかりの文句を聞き流しながしながら教室に入る。
「こら無視するな!」
「うるさいよあかり」
「空って私の時だけ意地悪になるよね」
「そうかな」
「そうだよ。私の時だけ妙に当たりが強いっていうか……」
うーん、そうかな。
でも確かに同期のみんなとは結構接し方が違うかも。
「まぁ気のせいってことでよろしく」
「うーん、はぐらかされた」
「お前ら、久しぶりだなー」
あかりが文句を言っていると先生が教室に入ってきた。
そのまま始業式が始まり、軽い作業を行なって帰宅することになった。
◇
『みんなは二学期始まった?』
私は画面の向こうの視聴者に向けて問いかける。
【始まった】
【始まっちゃったよ】
【うわー帰ってきてから夏休み】
【カムバック夏休み】
『うんうん、みんな阿鼻叫喚してるね。私もだけど。今年夏暑すぎない?』
【暑い】
【地球温暖化やばい】
【家って快適なんだなって】
家と外でだいぶ変わるってことがよくわかった。
扉開ける前は玄関近くでも涼しかったとな扉開けた瞬間回って熱気が流れ込んでくるんだよ。
なんでドア開けるだけでこうも変わるんだろう。
『今年で文明の力が素晴らしいってことがよくわかったよ』
【エアコン最高!】
【電気代やばい】
【文明は素晴らしい!】
【何使ってるの?】
『使ってるやつ? あれだよ。あの真ん中に穴が空いている扇風機? みたいな』
【あーあれか】
【前にテレビの広告で見たな】
【あれ結構高くなかったっけ】
『え、あれいくらするの? なんかお母さんから夏は暑いでしょって送られてきたんだけど』
突然届いたからかなり驚いたけど今ではかなり重宝してる。
夏はあれがなければ結構きつかったと思う。
【プレゼントか、いいチョイスだ】
【お母さんいいの送ったな】
【五万くらいするんじゃなかったっけ】
『五万!?』
想像以上に高い。
確かに高そうだなとは思ったけど思った以上に高い。
お母さんなんてものを送っているんだ。
いや、助かるけど。
【高!】
【もしかしてレムの家ってお金持ち?】
そうなのかな。
でも確かに今思えば結構いろんな家電が実家には揃っていたし。
なんてことを考えていると──
ピリリリリ
『ありゃ? 通話?』
【通話だ】
【誰から?】
【今配信してる同期って誰もいなくないか】
そうだよね?
手元にある配信スケジュールにも今の時間帯は同期のみんなは配信してない。
だとすると一体誰から……
そんなことを思いながら確認すると
『さ、酒巻先輩!?』
【酒巻貴様ぁ!】
【酒巻!?】
【なぜ?】
【あいつ今なんの配信している?】
【急ぎ洗い出せ!】
【酒巻をレムに近づけるわけにはいかない!】
【隊長、酒巻はこの時間にもう酒を飲んでいる模様!】
【まだ夕方だぞ!?】
【あの酒カスが!】
『えっと、みんな急に凶暴になってない?』
【ダメだレム、出るな!】
【君は酒巻に巻き込まれていい人間じゃない!】
【あいつに酒のつまみを与えるな!】
『みんながなんか酒巻先輩から遠ざけようとしているのはよくわかるんだけど……』
私は先輩のことよく知らないからなぁ。
もちろん先輩とかの配信も見たいんだけど自分の配信もあるし同期の配信、あとは怜の配信を追うだけで今は精一杯だ。
接点もあるになあるけどいつぞやの配信でコメントを書かれたくらいだし。
そもそも私こういうのあまり得意じゃないし。
……でも
『先輩の誘いを断るのも……ねぇ?』
流石に入って1ヶ月の新人が先輩の誘いを断る勇気はないです。
【ダメだ、出るな】
【レムはまだあいつを知らない】
『珍しく強気なコメントだね……そんなにダメなの?』
【そんなに】
【ノンデリカシーを体現する男】
【そんなにダメ】
【ノンデリの神】
【だめだ】
【やめておけ】
どうやら相当ダメらしい。
ふざけてあるのかなとも思ったけどこれは結構真面目に警告してくれてるっぽい。
これは素直にコメントに従った方がいいのかな。
『うーん』
【レムが考えてる】
【出るかで出ないか迷ってるのか】
【出るな!】
【よく考えろ!】
【いやまてそもそもレムって酒巻のこと知ってるの?】
【いや知ってはいるだろ】
【酒巻の酒入ってる時の感じ知ってるのか?】
【めんどくせぇんだよな】
【つかあいつ酒飲んでない時の方が珍しいだろ】
『よし、決めた!』
【お、きたか】
【英断を期待する】
【わかっているよね?】
【酒巻、レムの英断をとくとみるがいい】
『少し考えた結果……』
【ゴクリ】
【結果?】
【どうなんだ?】
『……は、はい先輩どうしましたか?』
【いったー!】
【マジかよ!】
【あぁ、もう終わりだ】
【応じてしまった……】
少し噛みながらも私は通話の応じる。
うん、断るのは精神的に無理だった。
初対面の恐怖よりも出ないことの恐怖の方が上回った。
私の緊張感溢れる言葉に対し、酒巻先輩はなんでも内容に答える。
『あ、出た。マジかでるとは思わなかったな〜』
『先輩の誘いですからね。今は特に問題なかったので……』
私がそんなことを伝えるとそんなのどうでもいい言わんばかりにスルーして先輩は逆に俺に質問を投げかけてきた。
『レムちゃんってさ』
『はい』
『レイナとミナどっちのほうが身長高いと思う?』
『……はい?』
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