始まりの日①
『あ、くらもち、ラスト一人そこの角に隠れた』
「了解です」
戦場を駆け抜けながら私は相方に返事をした。
私はその手に持つスナイパーライフルを用いて隠れた敵を狙う。
敵が反撃しようと一瞬顔を出した瞬間
一つの銃声と画面に大きく表示された【YOU WIN】という文字。
これが、百人の中生き残った証である。
『いやー、相変わらずその狙撃はエグイね』
最後の一人を倒し、体を伸ばしていると相方であるredmoonさんがそういった。
私たちが今プレイしているのは全世界で人気のFPSゲーム「ファイトアース」通称FAだ。
基本プレイ無料でグラフィックなどのきれいなため圧倒的なプレイ人口を誇る。
いろんなモードもあるため、そう簡単には飽きない。
『1vs1』、その名の通り一対一、仲間などいない己のプレイヤースキルが勝利のカギとなる。
『バトルロワイヤル』、広大なフィールドを駆け抜け、最後の一人になるまで戦う。
『ダブル』、二人一組、計五十組で最後まで生き残る。もちろんランダムで組むこともできる。
『チャレンジ』、定期的にイベントが開催され、二チームに分かれて戦ったり特定の敵の討伐がクリアだったりする。
このような様々なモードの中で私は相方フレンドであるredmoonさんとダブルをプレイしていた。
「いやいや、そんなことないですよ」
『いやほんとにすごいって! プロでもあんな狙撃無理でしょ。あれだけ離れてたんだよ?』
「プロの人ならこんなのできますよ」
redmoonさんの言葉を慌てて否定する。
褒めてくれるのはうれしいけれどプロの人が超長距離からスナイパーで倒すなんて場面動画で何度も見たことある。
いくら何でもそれは言い過ぎだと思う。
『でも君は私とプレイするときほぼ毎回あの狙撃やってるじゃん』
「だからプロでもできるってことですよ」
『プロでもあれができたら奇跡だって言ってるんだけどね……』
「? 何か言いました?」
『ううん、何でもない。あ、そうだ。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな』
「なんですか?」
『今度私FAのランク上げをするんだけどその時に手伝ってくれない? 絶対に上げたいから』
FAは実力によってランク分けがされている。
下からブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤ、プラチナの五つだ。
redmoonさんは今ダイヤなのでプラチナへの昇格だ。
「もちろんいいですよ」
『ありがと! じゃあ明後日のこの時間に来てもらっていい?』
このお願いが後ほどどれだけ大きなことになるか私は知らなかった。
—――――――――――――――――――
私の名前は倉瀬空、高校生だ。
突然だが私には前世の記憶がある。
なんで、と言われても私にはわからない。
突然頭に流れ込んできたのだからこっちが聞きたいくらいだ。
私の前世は男だった。
そこそこの中学をでてそこそこの高校に入り、そこそこの大学に進学した男。
大学まで勉強をしていたため勉強で困ることはなかった。
前世の記憶を得て初めの方は着替えなどで戸惑ったりした。
大学生の頃の記憶があるのだから当たり前だろう。
そしてなにより自分で言うのもなんだがかわいいのだ。
今の私は幼さを残した顔、でるところはしっかり出ている体、海外の血が混じっているらしく髪の毛は青みがかっている。
そうそう、髪といえばその髪色だ。
この世界では異様に髪色がカラフルなのだ。
街中歩いてたら虹色が簡単に完成してしまう。
そんなカラフルな街中で前世の自分が私にあったら一目ぼれしていると思う。
とはいえ、自分贔屓があるだろうしそこまでだとは思う。
一目惚れもあくまで前世の自分っていう判断だし。
さて、そんな過去を持つ私だが高校生となっていた。
今世でもちゃんと勉強していたおかげか前世よりいい高校に行くことができた。
高校は現在夏休み、だからこそフレンドのredmoonさんとFAで遊び放題なわけだ。
redmoonさんは高校に入学したて頃からずっと仲良くしているフレンドだ。
社会人らしいのだがほぼずっと一緒に遊んでる。
何の職業か気にはなりはする。
とはいえいくらずっと遊んでいるからとはいっても人の職業は簡単に聞くものではないだろう。
と、そう思っていた。
まさかこんなことで知ることになるなんて……
時は数十分前にさかのぼる。
時刻は時計の針がてっぺんを指している、12時だ。
今日はredmoonさんとの約束であるランク上げの日だ。
FAでランクを上げる方法はたった一つ、試合後にもらえるポイントを一定数までためることだ。
今のredmoonさんのポイントは19800、そしてプラチナランクのボーダーラインは20000だ。
一試合で勝てば20くらいもらえるから10試合やり、全て勝つことができればクリアだ。
『さて、そろそろ始めようか』
私がそんなことを思っているとredmoonさんがそう話しかけてきた。
『さっきも言ったと思うけどボイスはミュートにしといてね。ちょっと事情があって』
「別にいいですよ。redmoonさんの声は聞こえるんですよね? 大丈夫です」
『OK、じゃあ始めるね』
その言葉とともにランク上げが始まった。
初めは順調だった。
私の返事はないけれどいつもの通りに試合を進めていた。
異変が起こったのは最後の試合、ここで勝てばランクが上がる試合だった。
『ふあぁ…………』
さっきからredmoonさん眠そうだな、なんて思っていた時だった。
『すぅ………』
あれ? redmoonさん寝ちゃった?
ゲームの中でもredmoonさんが操作しているキャラクターが棒立ちになっている。
これ寝落ちしちゃったかな、もう夜も遅いしね。
寝息も聞こえるし。
……どうしよ。
まだ試合続いてるんだよなぁ。
とはいえすがに起こすのはかわいそうだし……
この試合やり切っちゃうか。
リタイアすることもできるけど最後の試合だしね。
そうして私は再び画面に集中した。
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