第6話 国境越え
きんきゅうじたいがはっせいした!
トゥルトゥルトゥルトゥー
とうぞくがあらわれた!
しかしなにもさせずにたおした!
タラッター♪
リュウはけいけんちをえた。
『なにをつぶやいてるの?』
『うん?』
いきなり現れた図体がでかいだけの盗賊を、文字通り瞬殺し、身ぐるみを剥いだ。
そうしたら暇つぶしにつぶやいていたことにノルがつっこんだ。ナイスツッコミ!
ボケたつもりはないんだがな。
『暇つぶしさ、暇つぶし~』
『……暇つぶしで遊びながら瞬殺される人たちが哀れなの』
『ははっ。俺の前に立つのが悪い!』
『最近せいりゅうが黒いの……』
ん? 基本俺はSだぞ? ……関係ないか。
ところでいま俺はまだオルシェン国内にいる。なぜかって? 金がないからさ!
……テンションおかしいな俺……ま、低いよりいいか。
と、まぁ現在金稼ぎ中なんだが
『そもそもせいりゅうはおかしいの』
『なにが? 俺は至極普通の一般人だぞ?』
『……一般人が国境付近の盗賊狩りなんてしないの』
でもさ、他国には不干渉っていうのがオルシェンの風習らしいからさ、ここらの盗賊が一番稼ぎが良いんだよ。
『だからってギルドとかじゃなく、盗賊からお金を稼ぐっていう発想がすごいの』
『そーかなー?』
『そうなの』
そうらしい。ま、オルシェンでギルド登録なんてしたら足が付くし。あ、ついでにやっぱりここにもギルドってのがあった。ま、テンプレだな。魔物なんてもんがいる以上、民間の討伐事業は成立すんだろ。
最高位のSランクのギルドメンバーは、国に直接雇われることもあるらしいけど。
つってもSランクは一国家に一人いればいい方だっていうんだから関係ないけどな~。
さて
『金もそれなりに貯まったし、そろそろ行くか』
『もういいの? あと盗賊は数カ所だけで全滅するの』
もうそんなしかないのか、と自分でやったことながら笑ってしまう。確か数十はあったはずだよな……まだ城を出てから2日だぞ。
『ああ。別に殲滅が目的じゃないしな。それに……そろそろ限界だろ』
『限界なの?』
『ん……あ、言ってなかったっけ。でも思考が表層だけでも読めるなら分かるだろ?』
『せいりゅうは考えすぎなの。めんどくさいの』
ノルの正直な言葉に、いくぶんダメージを受ける。……事実なにも考えずに、ぴょんぴょん跳んで城下町から出たしな。
まさしくめんどくさい性分だよ……
『いじけないの』
……
ガキィ……
『ひっ』
少しばかりナメた発言をしてくれたノルに、ちょっーと殺気を出してあげる。
予想通り……いや、予想以上に怯えてしまった。やりすぎた……。
『ああー……すまん。殺気はやりすぎた。ただ俺の沸点はかなり低いらしいから、気を付けてくれ』
『わ、わかったの……怖かったの……』
とてつもなく怯えさせてしまったらしい。少し後悔。
ついでに沸点うんぬんの話は竜騎に言われたことだ。
学校の帰り道、うるさいバイク集団を黙らせたあとに言われた。よく覚えてないが。
『ところで、どの国に行くの?』
それなりの時間、痛い沈黙が続いたところで、ノルが質問してきた。
俺は走ってる最中だ。……新幹線を追い越せるようなスピードで。今なら化け物と言われても納得できる。
『ん~とりあえずアルカディアに』
『魔法国家なの?』
『そ。アルカディアはあんましオルシェルと仲が良いわけじゃないみたいだし、俺も魔法覚えないとだし』
――アルカディア。
魔法国家の異名があるほど魔法士の数と精度が高く、魔法を知りたければアルカディアに行けと言われるほどである。
ただ閉鎖的なオルシェンと違い、開放的な魔法文化のため、それなりの発展を見せている。
しかし近年は魔物との戦いで国力が衰えているという噂である。
……まぁ、スドラルにかなり接してるから不思議じゃないがな。エディンと違って軍事力はないみたいだし。なのに接してる面積はほとんど一緒だし。ただエディンが北、アルカディアが南ってだけで。
余談だが、前に疑問に思ったオルシェンもスドラルに接してるにも関わらず、平和なのは、両国のちょうど国境付近に、魔物でも乗り越えられない高山があるためだった。というかそこだけじゃなく、オルシェン自体が要害みたいなものだから守りは易い。……そのせいで文化の発展が一番遅れているのだが。
『……? オルシェンと仲が悪いといいの?』
『ああ。さっきの話の続きになるがな。オルシェンの同盟国には行けないんだ』
『どうしてなの?』
『オルシェンに喧嘩売ったから』
『…………え?』
『まぁ別に売る必要なかったんだがな? 色々とイライラしてたからちょっとな』
やーあれは無駄だったな~。無駄に姫さんにトラウマができたっぽいし。ロイドにも恨まれんだろうな~♪
『な、なんで楽しそうなの!?』
『え? 面白いじゃん。俺、国家を敵に回したんだぞ? 元の世界じゃ難しかったからさ~。一度成りたかったんだよね、テロリスト』
『なんてことなの……自由をだと思ったら、とんでもない人に選ばれたの……!』
けらけら、と笑う俺と、ずどーん、と落ち込むノル。……久々だな、こんな純粋な笑いができるのは。ノルには悪魔の笑いに聞こえるかもしれないがな。
そう思いながら新幹線級のスピードを、さらに速くする。
魔力の1パーセントを使って荒野を、草原を駆け抜ける。
その日、オルシェンの捜索隊は疾風の如き速さの黒い物体を目撃したとか。
「さってと……どうしようか」
ここはオルシェン国境から50キロ~100キロの地点。なんでわかるかというと時速250キロちかく(瞬間速度なら300キロを超えていたかもしれない)で、20分ほどしか走ってないからだ。
あともう少しでアルカディア国境だと思う。
じゃあなぜ今止まっているのか。それは
『すごいの……100人くらいいるの』
説明ありがとう。詳しく言えば、ここはオルシェンでもアルカディアでもない、ハードルという国だ。そして目の前(これも正確にいえば、俺がいるのは山道から少し外れた木々の中。あちらは山道)には100人近い兵士がいる。……ハードルはオルシェンの同盟国なのだ。
『くっ……ハードルめ、この俺の障害となるか……』
『ずいぶん余裕なの!?』
俺の妄言に的確にツッコミを入れるノル。……もうボケとツッコミで決まったな。
さて……本当にどうしようか。
オルシェンに行くには山道か……もしくはこのまま森を進んで行くしかない。けれど、森はなぁ……
『ノル』
『どうしたの?』
『いまさらだがお前、何ができるんだ?』
『本当にいまさらなの……』
そう、実はノルについて知らない。忙しかったし。というか、本音は忘れてた……ノル自体を。
だがいまは良い機会だ。
『ん~とりあえず』
『とりあえず?』
『なんでもなれるの』
……は? なんでもなれる? 武器ならってことか……?
『もっとくわしく頼む』
『わかったの。まず、名前なの。賢者の石って言われてたの』
『ぶっっ!?』
『ど、どうしたの?』
け、賢者の石? なんだその伝説級のシロモノ。なんでもなれるってそういうことかよ!
『すまん……続きを』
『うんなの。属性は魔……つまり全部なの』
『ああ……続けて……』
『初めは球状で、そのあとは持ち主の体に入って考えた通りの形、重さに変化させて出せるの。あと、補助もできるの。魔力供給・魔力調節・魔法調節・属性強化とか、とにかく色々できるの』
『すごいな……』
若干呆れるが、本当にすごいと思う。
その感情が伝わったのか、ノルがかなりご機嫌だ。
『そうなの! ノルはすごいの~♪』
……なぜだかあの幼児体型が頭の中で踊ってるように思えて、少し笑った。
それじゃあ
『ぶっつけ本番だがノル。一丁やるか!』
『行くの!』
「さってと。どうするか」
さっきも同じようなことを言った気がするが、状況はまったく違う。
100人近い兵士は俺の後ろで寝ている。
『楽勝だったの~。それにせいりゅうも魔法うまかったの』
『お、そうなのか? 俺としちゃあ簡単にイメージしただけなんだが』
『じゃあきっと筋が良いの。魔法が下手な人はイメージができても魔力を調節できないの』
ふむ。魔力調節ってのはそういうことか。自分のイメージに魔力を付与する感覚。自由度は高そうだな。
『でもせいりゅうの場合は普通じゃないの。魔法の一つ一つが普通の魔法士の全力ぐらいあるの』
……異世界補正効果かよ。
でもま、これは確かにすごいよな。
そう思いながら後ろを振り返り、思い出す。
『ぶっつけ本番だがノル。一丁やるか!』
『行くの!』
〈ダゴンッ〉
足下の地面が爆発したかのような音を放ち、一気に駆ける。
先ほどの木陰からはたかだか百数メートル。土で強化された俺なら、まさに一瞬の距離。
「なっ! ごっ……」
「ぐわっ」
「げほっ」
「がっ」
周囲の兵士が構える前に、鳩尾に首に肘を打ち、間の一人は膝で蹴り、あとの一人には後頭部を蹴り落とした。
『せいりゅう! 魔法はイメージなの! 補助はノルがするからとにかく頑張ってなの!!』
ノルの励ましに頷き、魔法を使う。さすがにこの数を体術でなんとかするのは無茶が過ぎる。
『時間がないっ! 大技いくぞ!』
応援でも呼ばれたら面倒だ。
突然の襲撃に呆然としていた兵士たちだが、俺の顔を見て、俺の髪と瞳の黒を認識して、襲いかかってくる。
そんなどうでもいいものを視界に入れつつ、俺はイメージする。
魔法を使うのはこれが初めてだ。土はただの魔力だし、他もそう。必要がなかったから。
とはいえ知識だけならある。魔法とはなにか、どうするのかは知っている。
――だったら十分だ……俺ができない、はずがないっ!
イメージは雷。俺の前方すべて、あるいは俺の周囲に展開する、帯電した網。
魔力をイメージで形付け、それを現実に……!
『迸れ! 大気を震わす雷電よ!』
〈ビッビリビリビッ!〉
俺の言葉と同時に、思った通りの雷が兵士らに直撃する。
『ぎ、ぃがぁぁあああ!!』
雷に触れて痙攣、気絶していく兵士たちの絶叫の伝播。
大合唱かのような一様な叫び声に、俺は目を細める。
少し冷や汗をかいているようだ。
『なぁノル』
『どうしたの? なにかあったの? 敵は全滅なの』
全滅。
その事実が俺を震わせる。
『ノル……』
聞きたくない。だが、俺は聞かなければならない。
『お前……』
この、衝撃的な現実に。
『なにをした? 魔力がまったく減ってないんだが』
衝撃的な現実。こんな大威力な魔法を使ったというのに、まったく魔力が減っていない……いやむしろ、徐々に回復していってる……?
『さっき言ったの。魔力供給なの。自然に存在する魔力を利用してせいりゅうの魔力にしてるの。あの程度の魔法なら、すぐに回復できるの』
……どれだけふざければ気が済む? 明らかに異常な力だろ、これは。
『せいりゅう、どうしたの?』
ノルの不安そうな声に我に帰る。そうだな……ま、良いか。とりあえずは生き残れたし。
『いーや。なんでもねーよ』
『? ならいいの』
「さってと。どうするか」
「うん。すごかったな……」
回想を止め、これらをどうするか考える。
「う~ん……放置は、なぁ~」
『なぁノル』
『なの?』
『なのって……まぁいい、今更だ。聞きだいんだけどさ、こいつら、いつまで寝てる?』
そう言って現在気絶中の兵士諸君を指さす。
『無理やり起こさなければ一晩は寝たままなの』
『ふーん』
……ニヤッ
『あ、またせいりゅうが黒くなったの』
チャッチャー♪
セイリューは兵士たちの貴重品をかき集めた!
貴重品で袋は一杯になった!
『もうせいりゅうは盗賊を名乗るといいの……』
世界に一つしかない武器の言葉は、持ち主の耳に入ることなく夜空に虚しく消えたのだった。
…………戦闘描写とか、ダメダメですね……
他の方の小説読んで勉強します……(泣)