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第5話 勇者の決意

すべては突然だった。



「どこに行ったのだ! 警備は何をしていた!」



なにもかもが、突然。



「な……に!? あの者が城下町に? ええい、なにをしておったか。すべて調べ出せ!!」


突然。



「最後に見たのはいつ、どこだ! ……夕食? ならばそこまで遠くに行っておらんか……? 直ちに近辺に捜索を手配しろっ!」



リュウ(しんゆう)がいなくなった。







「勇者さま~朝ですよ~」

「ううん……あと5分……」


少女の間延びした声が部屋と少年の頭に響く。


「なに言ってるんですか~起きて、くださいっ」

「うわぁっ」


〈ドサッ〉という音と共に少女がベッドの――正しくは少年の上へとダイブする。

気持ちよく寝ていたら、いきなり腹の辺りに衝撃が伝わった。

というより、軽い羽毛布団を通してだったため、衝撃というよりは重みが伝わった。


「フィー!なにしてんの!」

「リ、リーシャ様!?」


少女……フィーは少年の上に乗ってゴロゴロとしていたが、部屋に現れた新たな少女……リーシャの一声によって止められた。

その時の少年といえば、上に乗って転がっていたのが少女だったために、触れることも逃げることもできなかった。

……しなかったとも言う。


「リュウキもリュウキですよ」「う……すいません」



某女性に無関心な少年と違い、この少年……リュウキは純情な思春期の少年である。

言葉では止めさせようとしていても、本心は嫌なわけがない。

ただ、その心を察知したリーシャにジト目を向けられ、素直に謝れてしまうのもこの少年の純粋からだった。


「はい。じゃあ朝ご飯に行きましょうか?」

「ああ。すぐ着替えるから、ちょっと待ってて?」

「ええ。フィー」

「はい」


リーシャに呼ばれ、フィーが共に部屋を出る。

リュウキはすぐに着替え終わったが、なかなか外に出なかった。

4日前にこの世界に召喚されてから、毎朝やっていることを、今日もするためだ。


「…………すぅ」

リュウキは元の世界で武術を習っていた。

習っていた、といっても、武術家ではないし、そもそも武術が好きではない。

ただ家が古くからの武術家系で、小さい頃からの遊びが武術……というより、チャンバラだったからだ。

兄や姉との(倒されたら交代という)鬼ごっこや、弟が生まれてからは(天井に張り付いたりする)かくれんぼをした。……当時のことを今でも思い出せる。

これはこちらの世界に来た代償。

今までの生活すべてと引き替えに、この世界を救うだけの力を得た。そのことに不満はない……不安ではあるが、それでも、苦しんでいる人を助けられないよりかは、いくぶんましだ

だからこうして、過去を受け入れる。そして未来を……


「リュウキ~まだですか~?」


部屋の外からリーシャの催促が聞こえて、今日の修行? を中断する。


「うっし。今日も頑張るか!」


今日も気分良く、機嫌良く気合いを入れ、扉を開ける。


「おまたせリーシャ、フィー」

「はいっ。じゃあ行きましょうか」

「はーい」


リーシャは答えながらリュウキの腕に寄りかかり、フィーは返事をしながら逆側の腕に寄りかかる。

……歩きにくいんだけどな。

前にそう言ったらなぜか二人の機嫌が悪くなったから、言うのは心の中だけにした。





食堂に行っていつも通り談笑しながらご飯を食べていると、入り口あたりが騒がしくなった。

(周りの人はもうリーシャに慣れたんだな……良いかどうかは置いといてって、えっ!?)


「ガンベルさん!?」

「ええ!?なぜガンベルさんがここに?」


自分のことは棚上げして驚くリーシャ。

でも食堂の全員が驚いている。

だってこの人は……


「おおリュウキ殿!こちらにおられましたか。申し訳ないが今すぐ王の間まで来て欲しいのです!」


宰相なんだから……


「今すぐ……ですか?わかりました。ごめんフィー、片付けといてくれないかな?」

「はい。もちろんです」


フィーが笑顔で答えてくれたので、後のことをお願いし、ガンベルさんについていく。

……リーシャもついて来たが。まぁ一応王女だから問題ないと思うけど。

それにしても普段落ち着いているガンベルさんが早歩きになるほどって……なにがあったのかな?


「ガンベルさん。その、なにかあったんですか?」

「…………」


当然とも言える俺の質問に、リーシャの視線を受け、沈黙するガンベルさん。


「ガンベルさま……?」


リーシャに促され、あるいは問われ、ようやく口を開く。


「リュウキ殿のご友人、リュウ殿が消えました」

「なっ!」

「……!」


驚きで口が閉じれない。隣を見るとリーシャも驚いて……あれ? なんか安心してないか?

しかし……リュウが、消えた? いなくなったっていうのか? なんで?

……なんで、俺はなにも知らないんだ?


「詳しいことは今、部下の者に調べさせております。ですが、現在の情報をまとめれば、リュウ殿は自ら逃げ出したのではないかと……」

「逃げ出……す? なんでリュウが逃げる必要があるんです?」

「分かりませぬ……ただ、リュウ殿は昨晩ロイドに会ったそうですから、話を聞けばなにかわかるかもしれませんな……」

「ロイドに……?」


いくらか落ち着きを取り戻したガンベルさんに、新たな疑問を発したリーシャ。

けれど、俺は知れば知るほど落ち着かなくなっていく。

リュウが突然消えたこと。

リュウの行動を俺がなにもしらなかったこと。

そして……リュウが俺よりロイドを頼ったかもしれないこと。

確かに、今思い出せばリュウの行動は不自然だった。

初日から不穏な発言や失礼な発言、異常なほどの警戒心に、最もおかしかったのは昨日の試合。

あんなことしなくてもリュウなら完勝できる。それは断言できる。動物園で檻から逃げ出した虎を倒したのは今でも思い出せる。

リュウは完璧だ。化け物と、陰口を叩かれるくらいに。

そもそもリュウが必死になったところを見たことがない。

……そこまで考えたとき、俺の足は止まってしまった。


「リュウキ?」

「どうしましたかリュウキ殿?」


二人の声も伝わらない。

思い至ってしまったのだ。おそらくは、真実に。

……俺は、リュウのことをなにもしらなかったんじゃないか? 親友だと思ってたのは、俺だけなんじゃないか……?

ありえないことじゃなかった。なぜなら、昨日の試合の意味がわからなかったから。

リュウのことだから、なにか考えがあるんだろう。けど、俺には言う必要がなかった。なぜか? 簡単だ。俺は信頼されて――


「リュウキっ!」

「っ……?」


大声で自分の名前を呼ばれ、ようやく目の前にリーシャがいたことに気付く。


「大丈夫ですか? なんだか……昔の私と同じ、表情をしてましたよ……?」


リーシャの、昔。

王女として、勇者召喚士として、なにもかも一人で背負っていた頃のこと。

俺はそんなリーシャに言った……


「一人で背負ってちゃ駄目だよ。それじゃあみんながつらくなっちゃう。リーシャは一人じゃないでしょ? 俺もリーシャの重荷を背負うよ。だからさ、笑おうよ。リーシャの笑顔で、俺は、みんなは、力が出る。

 一人でみんなのなにもかもを背負わないでさ……みんなで一人の重荷を背負おうよ。その方が楽だし楽しいよ?」


くさいセリフだと思う。だけど俺の言葉でリーシャは笑ってくれた。

だけど俺は、今、リーシャにそう言われてる。


「ははっ……そうだな。悪い、俺は一人で背負ってたみたいだ」

「そうですよ~? まったく、自分の言葉は守らないと」

「っはは」

「ふふふ」


二人ともおどけて笑う。ずいぶん気持ちが楽になった。


「よし……いくか。ガンベルさん、リュウがなにをしたか、全部教えてください。俺はリュウの親友として、リュウを知らなくちゃいけない」

「ええ……わかりました、分かることは全てお教えしましょう」

「わたしも……」


俺の決意に、微笑んで返してくれるガンベルさんと、なにかをつぶやいたリーシャ……なんだろ?

っと、ついたか。


「王、リュウキ殿をお連れしました」

「入れ」


儀礼的な問答を済まし、王の間に入る俺たち。

謁見の間と比べればそれほど広くないが、それでも広いと感じてしまう大きさだ。

今そこには10人近くの人が怒鳴りあっていた。そのほとんどがこの国の重鎮だ……ん、怒鳴られてるのは、ロイドか?


「ロイド」

「む? おおリュウキ殿、姫様、宰相殿。お揃いで」

「一ついいか?」

「うむ……なんじゃ?」


俺とロイド以外、しゃべっていなかった。


「リュウは……なんて言ってた?」

「む? なにを話したかではなく、なにを言ったか……ということかの?」

「ああ」


そう俺が言っても、ロイドは黙っていた。

周りから声があがりそうになるが、ガンベルさんが目で抑える。


「うむ……仕方あるまい」


沈黙を破ったロイドは、つぶやきと共に懐から手紙をだした。


「おぬしにじゃ。詳しいことはそこに書いてあるじゃろうて。……わしには読めんかったがの」


手紙には日本語で、竜騎へ、と書いてあった。

こちらの世界の言語は、アルファベットみたいなもので、漢字はもちろん、ひらがなさえ読めないはずだ。

俺はこの世界の言語を勉強中だが……今はまだ自分の名前しか書けない。

手紙を開いて読んでみる。






『竜騎へ


口には出すな。これから書くことは俺らだけの秘密にしろ。

わかったなら続けるぞ?


まず、すまん。説明できなかったことは謝る。隣りにいてやれないことも。

だが、仕方なかったんだよ……お前は気付いてなかったかもしれんが、俺らには監視がついてた。ただの監視じゃない。暗殺もできるような監視役が、だ。

とりあえず俺は色々と不自然に思ってな、試したんだ。

例えば、召喚のとき。リーシャやロイドを含むローブ集団は、俺らのことを見て、驚いていた。次に、お前が垂直に跳んだとき。二人は異常に驚いていた。と、いうことはだ。

俺の推測では、勇者を召喚できたのは俺たちが初めてだ。

気をつけろよ、竜騎。

勇者なんてやつを、はなっから信じるやつなんざいない。マンガやゲームみたいに、敵を倒してれば済むって問題じゃないんだ。

信頼できるやつを見極めろ。まず、リーシャは信頼できる。そして、リーシャがいるかぎり、リーシャの味方でいるかぎり、ロイドは信頼できるだろう。

逆に信頼しちゃならないのが王と宰相だ。あいつらには深く関わるな。



とまぁ注意事項はこんなとこだ。あとは色々やりたいことがあったから仕込んだだけ。あの試合だってわざとだよ。

あ、信頼できるからといってペラペラしゃべんじゃねぇぞ?

ほんとのことを言っていいのは……そうだな、リーシャと旅に出たときだ。ま、その頃にはお仲間が増えてるだろうよ。

女の。



ひとまずはこんぐらいだな……これ以上はまた今度だ。

また合おうぜ、親友。





追伸。ここに書いてあったことを聞かれたら、とりあえずこういっとけ。

俺はこんな世界に来たくなかった。だから俺は帰る方法をさがす。お前らになんか付き合ってられない……みたいな感じで。

そうそう、リーシャからも爆弾発言がでると思うが、ショックを受けろ。反論はしてもいいが、やりすぎんなよ? やりすぎて他のやつらに疑問に思われたら、お前最悪殺されっからな?

ついでに笑うなよ。じゃーな』





手紙を読み終わって、こぼれそうになる笑みを必死で抑える。

なんというか……安心した。こんな世界に来ても、まったく変わらないところに。こんな俺を、親友と言ってくれるところに。


(そっか……リュウも頑張ってんだよな。なら、俺だけ楽するわけには、絶対にいかない)


さっきまでの決意を、さらに強くして顔をあげる。……ロイドの目が怖いんだけど、少なくとも王と宰相は騙さないと。

俺らを騙してたんだから、自業自得だ。


「それで……なんとあったのじゃ?」


ロイドに問われる。えーと、さっきの文に色々付け足して……よし。


「なんでも……元の世界に帰りたいそうです。けど魔王と戦ったりはしたくないから、自分一人の力でなんとかするって」

「そんなわけありません!嘘です!!」


俺の発言に一番早く否定したのは、リーシャだった。


(来るか爆弾発言っ!?)


心の中で爆弾に備え構えつつ、発言を待つ。


「あの人は……そんなつもりではありませんっ……」

「ど、どうしたのじゃ姫。なぜそこまで否定する?」

「だってあの人は……こう言ったのですよ? リュウキはただ利用しているだけだって」

「なに……?」


意外と軽い威力にほっと安堵……はせず、結構なダメージを食らった。

……もしかしてリュウは、それを狙っているのだろうか。

リーシャは俺を見て、続ける。


「あの人は言ってました。リュウキの隣りにいれば、お金も、お、女も手に入るからって」

(リュウ……お前、そんなこと言ったのか……)

「わたし言ったんです。そんな気持ちならリュウキの前から消えて下さいって」

「それでリュウ殿はなんと?」


ガンベルさんが話に入ってくる。俺はなぜか、いや~な予感がひしひしと……



「だったら、リュウキの代わりにお前がなるか? って」



ぞわ、っと、ほとんど全員から殺気が発される。

というか


(ロイドさんが一番すごいんだけどー! リュウお前話あわせてなかったのかー!?)


だらだらと冷や汗が止まらない。







ヤバい。確かにこれは……ミスったら殺される。







その後俺はなんとかごまかして生き延びたが……正直生きた心地がしない。

どうやらリュウを謀反人として指名手配するようだった。

……大丈夫か、リュウのやつ。やりすぎなのはむしろあいつじゃ……


今回は勇者サイドということで、少し文体を変えてみました。

……今回の方が見やすいかな?



よし、これでいこ。

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