第3話 繰り下げられた予定
召還2日目…
…は?2日目?なんでだよ、オイ。言ったよな?さっさとしてくれって、勇者は竜騎だって、なあ…?
グチグチ文句を言いたい。そりゃあ精神を壊すぐらいに。
けど、言えない。
なぜなら
「ようこそ勇者よ。余はオルシェン王国の王、ルッフェル・フィル・オルシェンである」
王様の前だから…
「異世界から参りました勇者の四条竜騎です」
正確には無理やり参らされましただよな~
…
「おいリュウっ」
ん?ああ俺もか。
「静龍」
……
なんだこの沈黙?
「…ごほん!えーでは正式に四条竜騎殿を勇者として任命する。前へ」
宰相らしきおっさんの言葉を聞いてからの記憶が、俺には無い。
あれだあれ。学校の行事の時の校長の言葉。あれなみに眠かった。
んで、今は退室して宝庫へ向かってる。
「セイリュー…」
「ん?」
いきなり竜騎が話しかけてきた。疲れた表情で。
「お前、さっき寝てただろ…?」
「さっき?」
「謁見中にだよっ」
ああ。少し意識が無い場面もあったなぁ…そういえば。
「ね、寝てたんですか?王様の前で!?」
おぅ!メイドさんがしゃべった!?初めてみたー…
「それはお前のせいだ…」
心を読むな。というか
「なんで俺のせいになるんだよ?」なにもしてないぞ?まだ。
「ほとんど全員に聞かれたぞ?シズカ様はご機嫌が悪いのでしょうか、ってな」
「はぁ?なんでだよ」
「目つきが悪いからだ」
…は?
「竜騎よ……イジメか?」
「そうじゃなく。色々警戒してるだろ?お前。しかもしゃべんないから余計…な」
「そっ…か」
やはり俺は好かれるたちではないな…ま、好かれようと思ってないが。
「着きました」
変な沈黙が続いた後、数分歩いて宝庫前に着いた。
着いたが…
「ここか…?」
竜騎が疑いの声をあげる。
俺も同意したい。ここは宝庫では、ない。
どう見たってここは
「び、美術館…」
なのだ。
確かに宝といえる希少品ばかりだし、価値もあるんだろうが…
…なんか、泥棒の気分になってきた。
「この中から一つ、ご自由にお探しください」
「は、はい…」
竜騎はいまいち納得できない声で返事をしていたが、目は輝いている。
(あいつ、こうゆう武器とか好きだもんな~)
元の世界でも日本刀とかを見て楽しんでいた。
っと、俺も選ばないとな…?
「なんだ…?」
予感がする。
いつもの嫌な予感じゃない。
なにかに引っ張られるような…
なにかに従って進む。美術館もどきの奥のさらに奥。
暗い。
始めのような、展示物を際立たせるための照明ではない。
来る者のみを導き、招からざる者を拒む、排他的な感覚。
けれど俺は迷わない。
俺は暗闇に拒まれない。
導きに従い、自身の感覚に従い、道なき道を進んで行く。
歩いて10分ほどだろうか。
暗闇の先に淡い光が見え始めた。
「すげぇ…」
思わず声が漏れた。
それほど、目の前の光景は美しかった。
身長が大体180ぐらいの俺の、およそ腰ほどの台座。
照明は無く、光は台座そのものから出ていた。
それだけならば感心しただけで終わっていただろう。
しかし台座の上、つまり展示されているものが素晴らしかった。
―――七色の球体
光の中に有るにもかかわらず、虹のような、虹よりも綺麗な光が、そこには存在した。
俺は光に魅入られ、そして手を伸ばす…
「は?」
突然だ。突然、景色が変わった。
先ほどまでは宝庫という名の美術館に居たのだが、どういうことか今は家に居る。
俺が元の世界で住んでいた家に「ずいぶんと、さびしいの」
「誰だ」
背後から幼い声に振り返る。
「けいかいは、しないの」
「想定内だからな」
そう、想定内。武器を選ぶと聞いた時、そして先ほど球体を見た時に思い出した、ありがちな展開。
―――意志を持つ、武器
「でもおどろいてたの」
「あぁ、あれはな」
…幼女だとは思いたくなかったからだ。
「…しつれいなの」
「……心を読むな。どうやってるんだ」
初めて会ったんだが。
「簡単なの。わたしはあなたなの」
「?意味がわか」
…まさか。
「お前…俺の中に入ったのか?」
コクリと、幼女は頷いた。
…はぁ。
「仕方ない……か」
そう、必要だったんだ。致し方ない。
「それじゃ、改めてよろしく。俺は静龍。そうだな…これからは一緒になるだろうから、セイリューって呼んでくれ。俺はその方が気に入ってる」
「うん…よろしくせいりゅう」
…気恥ずかしいなぁ。こうゆうのは慣れてないんだが。
「お前の名前はなんだ?あるだろ?」
意志があるんだから当然名前もあるだろうし。
そう思って聞いたのだが…幼女は首を横に振った。
「ない…」
「そっか…じゃあ付けようか」
微妙に悲しそうだったからとりあえず言ってみた。そしたら目を輝かせるという反応が返ってきた。
…俺はロリコンじゃない。だから問題ない。そう、ただ可愛いだけだ。
「なにぶつぶついってるの?」
「な、なんでも?それで名前だが」
「うん!」
「ノルってどうだ?」
「ノル…なの?」
「いやか?」
ありゃセンス悪かったかな?
しかしその問いには首を振った。
「ノルなの!」
確認でもしたの?
相棒となるノルのおかしな行動に苦笑する俺、その俺を見て不思議そうに、そして楽しそうに笑うノルという…平和な姿が見られた。
余談だがノルというのはノーマルでいるという戒めなのだが…うん、俺はロリコンじゃない。
あの空間から外に出してもらい、とりあえずは戻ることにする。
その際台座には何もなかったため、あの綺麗な球は俺の中にあるのだろう。
…もう一度見たくはあったのだが。少々残念だ。
『見れるの』
……頭に声が響くってこんな感じなのか。えー…頭の中で会話するように
『聞こえるか?』
『聞こえるの』
よし。成功したな。
『そういえば、少し喋り方が大人っぽくなったな?』
さっきは言葉を覚えたばかりの子どもみたいだったが、今は普通に感じる。
『契約のおかげなの』
『契約…?』はて、そんなのしたか?
『名前をもらったの。だから繋がりが強くなったの』
なるほどね…いわゆるテンプレか。
実際にできると便利だな…
『…なぁ』
『どうしたの?』
『道、分かるか?』
『迷子なの?』
『ぐ…ああそうだ』
悔しい!幼女に迷子扱いされるとはっ。
実際迷子だが!
『あっちなの!』
「よ…う、竜騎。見つかったか…?」
「お、おう。どうした、なにがあったらそんな顔になる」
そんなにひどいか。
「ちょっとな…」
ちょっとだ。ちょっと…2時間迷っただけだ。
『ごめんなの…』
先行きが不安だよ…
「それではこれより、リュウキ殿とリュウ殿の試合を始まる!」
なんだこの急展開。なんで帰って来てすぐ試合なんだよ。
おかしいだろ?誰もおかしいと思わないのか?
竜騎は…駄目だ、目が燃えてる。
王は…勇者の実力を楽しみにしてる。
姫さんは…竜騎を応援して…ロイド…巻き込まれてる…
宰相…おいっ目つきが危ないぞ!?それは獲物を狙う目だ!そんなに勇者を取り込みたいかっ。
………ろくなやつがいねえ…
「はぁぁ…」
やっぱりこの世界に来てから心労が絶えないな…
「リュウ!」
「なんだ?」
「久しぶりだなこうゆうの!」
「…ああ、そうだな」
確かに久しぶりだ。高校に入ってからは竜騎と闘ってない。
なるほどな、だから楽しそうなのか。
…けど、悪いな。
俺はここで本気を出さない。
「試合っ」
ここはわざと…
「開始っ」
勝つ!
西洋剣を右手に持ち、間五メートルを一気に詰める。
竜騎の前、殴れるぐらいに近付き、右手の剣を振るう。
しかし既に振りかぶっていた竜騎の剣が数瞬早く迫る。
このままなら間違いなく俺がやられる。
だが……想定内だ。
俺は即座に左手を掲げる。
「んなっ」
竜騎の驚きの声に、口角を少し上げる。
〈キンッ〉
左手に仕込んだナイフと竜騎の剣がぶつかる音。
そして―
「チェックメイト」
右手の剣は竜騎の首筋にあった。
「…負けたよ」
竜騎の不機嫌な声に合わせ、右手の剣を下ろす。
勝利はしたが、宣言も歓声もない。
当然なことだ。正々堂々、実力勝負とはかけ離れた、勝利するためだけの戦い。
そもそもの仕込んだナイフだって、竜騎が全力で振り下ろしていたら折れていた。おそらく、左腕も。
だがただの試合だと分かっていて、それでも続けるようなやつじゃない竜騎は、剣の勢いを緩めた。竜騎が不機嫌なのも当たり前。
久しぶりの真剣勝負だと思ったら、実はただの見せ試合。
それを俺にやられたから余計と。
案の定、この場の全員が俺を白い目で見ている。
…いや、ロイドだけは訝しげな目で見ているか。
だがこれでいい。
打てる布石は十分打った。
あとは行動あるのみだ。
無駄にフラグが乱立してますが…回収できるかな~…