第2話 非日常の同士
召還されてから1日が経った。
まだ詳しいことは聞いていない。
あの後は夜遅かったことから明日……つまり今日に回されたのだ。
俺としてはある意味ありがたかった。
いくらなんでも突然異世界というのは混乱する。
なにより、これからは重要な拠点となるはずのこの城もきな臭いものがある。
とりあえず部屋へと案内され、その日に発生した事項の整理とこれからのことについて、大まかながら確認をした。
その後はどういうことかすぐに寝てしまっていた。
おそらく疲れたのだろう……精神が。
肉体よりも精神が休息を求め、しかもそのことに気付かないほどだったことに苦笑を漏らした。
その際にメイドさんに食事の準備ができたことを知らされ、案内してもらった。
そこまでは当たり前な展開と言えただろう。
そこまでは。
「はいリュウキ、あーん」
「あ、あーん」
これだ。このバカどもが俺の現実逃避の原因だ。
というか王女よ、竜騎以外は全員呆れた視線を向けていることに気付かないのか?
ほら、俺の隣にいるロイドがまた溜め息をついたぞ?食堂に入ってからこれで20回を超えたぞ?
というかだな、なんで王女なのに食堂で食事するんだ?ここ、一般の兵士が食うようなとこだぞ?
「おいじいさん、なにがあったんだ、アレ?」
「…ああ、どうやらあの後、姫様がリュウキ殿の部屋を訪れたらしくての」
ああ分かった。あの嬢ちゃんのことだ、色々背負ってんだろ。
んで、あの主人公体質の竜騎が悩みを聞いて、心を開いたってところか…
あいつ、人の負の部分には敏感だからな~…フラグが立ちそうな時だけ。
恋心とかは超が付くほど鈍感なのに。
「じゃあここで食うっつったのも姫さんなんだな?」
「…そうじゃ」
まぁ、王族の食事所がイメージ通りなら、くっつけねえもんなぁ…
そういやじいさん、人前では姫様って言ってるな……そういうところからも宰相?につけいられるのかねぇ…
ここを選んだのは姫さんのお膳立てってことか?
食事を運んで来たのはメイドさんだけどな。
…動揺してるのか、俺?
まさかまさか、冷静沈着がモットーのこの俺だぞ?自他共に認める冷めた奴だ。
そのことは、偶々コンビニ強盗に遭遇した時にも冷静に会計済まして帰ったことが証明だ。
その後そいつがなんかわめいてたからぶちのめしたが。……よし落ち着いた。
「じゃあ次、なにが食べたいですか~?」
「えと、大丈夫だから、ね?リーシャも食べれないでしょ?」
「う~ん…そうですか?あ、じゃあリュウキが食べさせて下さい!」
「え、えええ!?」
アア落チ着イタラムカツイテキタ
「はっ!」
まさかこの俺の精神を壊しかけるとは…恐るべしリーシャ……
ま、俺とロイドとメイドさんたち以外は全員壊れてるけどな。
さぁ飯食っちまうか。
「じゃあ聞かせてもらおうか?この世界について」
食事が終わってから小休止ということで宮殿のテラスに来ていた。
どうやら王族しか来れないらしく、リーシャぐらいしか来ないらしい。
秘密話にはもってこいだな。
…秘密話はしないがな。
「リーシャ…おぬしが話すのではなかったか?」
「あぅ?…そ、そうでしたね」
竜騎にくっ付いてたぐらいで、なんで酔ったみたいになるんだ?
「ではまず、この世界はシャルディアといい、この国、オルシェンはこの大陸の…ここですね」
どこから取り出したか地図を出して説明し始めた。
地球のアジアに似てるな。オルシェンは…大体、キルギスぐらいか?……
「ちっさっ!」
「「う…」」
オルシェン組が痛いところを突かれて唸る。
「確かに小さいよな…」
「「うぅ…」」
うなだれるオルシェン組。
「それで?」
らちがあかないので続きを促す。
「は、はい…それで魔王が居ると思われるのはここです」
カザフスタンってとこか…これだけ近いってまずくないか?いや、それよりも
「思われるってどういうことだ?」
そう、思われるってとこがおかしい。てっきり魔王城でもあるのかと思ったんだが。
「それは間違いない…が、確証は無いのじゃよ」
「ん?んん?わからないんだが」
竜騎が混乱している。当然だろうな。
続きを目で促す。
「ここ…スドラルの中心にあると思われるのじゃ。なぜなら中心に近付くにつれて魔物の数が跳ね上がるからの」
「なるほど…ならそこに守るべきものがある可能性もあるな」
俺はあえて魔王の存在を言及しなかった。それこそ確証が無い。
「それにな、エディンが…この国じゃな、そこの軍隊が中心のほぼ近くまで行ったんじゃ。その時の最後の伝令で、城を見た、らしいのじゃよ」
ふむ。エディン…ロシアか。唯一ということは…軍事力では一番か?
「その軍隊は…その後どうなったんですか…」
少し声を震わせて、竜騎が聞いていた。
「壊滅じゃよ」
まぁ当然だ。わざわざ伝令で伝わったってことはそういうことだ。
「っ…」
拳を握りしめ、震える竜騎。
別に怖れてるわけじゃない。竜騎はそこまでやわじゃない。
怒っているのだ。会ったこともない他人なのに、そいつらのために怒れる、凄い奴。
だから俺はこいつの隣に居る。
確かに俺は強いかもしれない。だが、それは心を捨てた強さだ。ただの暴力だ。けどこいつは、そんな俺すらも受け入れる。こんな俺をも友達と言ってくれる。
だから俺は──お前を守る、影となろう。
隣には微笑むロイドがいる。このじいさんからは、俺と同じにおいがしたからな……九を捨て一を生かす者のにおい。
…姫さんは理解してないようで違う微笑みを見せていたけどな。母性本能でも刺激されたか?
こめかみをピクピクさせながら、あくまで冷静に話を続ける。
「じゃ、とりあえずは分かった。あとはしがない学生だった俺らが、どうやって倒すか、だけど」
これは確認だ。この展開なら確実に…
「それなら問題ありませんよ。お二人ともすごい魔力量ですし、才能あると思います」
はいテンプレー。
「思いますって言われても…なぁ?」
「何がなぁなんだ?気づいてないのか?」
竜騎が話しかけてきたがむしろ俺の方が疑問だった。まさかさすがに気づいてないなんてことは…
「なにが?」
ありました。くそ、こいつはいつも俺の予想を裏切ってくれる。…悪い意味で。
「はぁー…そうだな、お前立って垂直跳びしてみな」
「うん?ああ」
「「?」」
オルシェン組も疑問のようだ。ま、当事者じゃなきゃ分からないが。
「おし。っせぇの…って」
「「ええええ!?」」
うるせぇなバカップルが。たかだか三メートル跳んだだけだろ。
俺なら五メートルはいけるから…規定値まで上げるっていうより増加させるってとこか?
ロイドも叫びこそしないが目を見開いている。
にしてもこの展開はまずいな……ま、今はいいか。調べんのはここを出た時で。こいつらのことを信用したわけじゃないし。
「…どういうわけじゃ?身体強化の魔術でも使ったんか」
「で、でも魔力は見えませんでしたよ…?」
「なんでだよリュー!」お前だけは驚いちゃいけないぞ竜騎!
「…俺にとっちゃ、気づかないお前になんでって言いたい。こっちに来てから体が軽いとか思わなかったのか?」
「そういえば…」
遅ぇよ。今ごろかよ。
「異世界に召還されて身体能力向上なんて、いかにもって展開だろ?」
っても、俺の場合警戒と現状把握が常になっちまってるから気付いたともいえる。
一回それを怠って死にかけたからなおさらな。さて…次はっと。
「なぁ、お二人さん。俺らはこれからどうすれば…なにすればいいんだ?」
つまりどのように振る舞い、どんな予定なのか。
「そうですね…リュウさんには父に謁見してもらって、リュウキは私と一緒にい」
「二人は王と会い、正式な勇者の決定。その後は宝具の選定と力量の判断といったところかの。でしたな姫?」
「はい……ぐすん」
うわー、見事に壊れてんなぁ…原形がわかんねえよ……
「じゃ、準備しますか?ああ、勇者は前から言ってる通り、あそこで跳ねてるバカでいいから。んなちっせぇことをちまちま話してねぇで、さっさと決めろって言ってくれねえ?」
「む……そうか、そうじゃな。おぬしがそういうなら、仕方あるまい」
やっぱりか。通りで干渉が無さ過ぎると思ったよ。どちらを勇者にすべきかなんざ、会ってみなきゃわかんねえだろうが。
「あいつの方がよっぽど勇者らしいから。分かんだろ?」
俺の苦笑は色々と詰まってる。竜騎にはただの疲れた苦笑に見える。
けど、同類のじいさんには分かるはず。
「そうじゃなあ。さしずめおぬしは勇者の影かの?」
ほらな。
「ふん。早く伝えてこいよ、姫様の影」
…
「くははは」
「ふははは」
「「あはははは!」」
似た者同士の大笑。
日陰者だからこその、冷たい笑い。
けどそんなことも忘れる、初めての同類。
心で人を守れるあいつらとは違って、暴力でしか守れない俺ら。
そんなやつは日本には居なかった。
少なくとも俺の周りには。
久々の安心。
俺たちはいつまでも笑い続けていた。
勇者と姫に引かれていることに気付くまで……
ふぃー…なんとかアップできましたぁ…できるなら今週中に10話にいきたいですね~
先に言っちゃいますが、そのころには最強にする予定でーす。