ここだよここここ
「世界で初めて卵を産んだ鶏と……、世界で初めて卵から産まれた鶏……。どっちが強いと思う?」
絢音がまたおかしな問題をふっかけてきた。
「そりゃ初めて卵を産んだ鶏っしょ」
あたしはポッキーを食べながら、即答してやった。
「だってもうとっくにココココだもん。初めて卵から産まれたほうはピヨピヨしか言えないんだよ? 弱いに決まってんじゃん」
「あっ、そうか」
悔しそうな顔をした。設問を間違えたと思ったのだろう。急いで次の質問をしてきた。
「じゃあ、ココココとピヨピヨ、可愛いのはどっち?」
「んー……」
下唇にポッキーを当て、あたしは考えた。
あたしの出す解答を待ちながら、絢音は既に悔しそうな顔をしている。聞くまでもなかったと思っているのだろう。そりゃ赤ちゃんの声に決まってるじゃん、ピヨピヨだよな、と思っているのだろう。
あたしはしばらくそんな綾音を楽しむように眺めてから、答えた。
「ココココ」
「なんで!?」
「だって」
ニヤニヤしながら、ポッキーをムシャムシャしながら、言った。
「絢音の言い方が可愛いから」
「あっは!」
絢音が赤面して、笑った。
「そんなに可愛かった!?」
「うん。ピヨピヨは誰が言っても可愛いけど、ココココは絢音を可愛くする言葉だ」
そう言って褒めながら、あたしは絢音の唇をじっと見た。
何も塗ってないのにピンク色で、オイルみたいにツッヤツヤ。
「もー、ハルちゃんたらぁ」
照れる絢音にそそられる。
あたしはポッキーを食べる手を止めた。
「あっ。ここだよ。ここここ」
それはわかりにくい路地の間にあった。一緒に街を歩きながら、ネットで検索してあった古民家風の可愛いカフェをようやく見つけた時、絢音がそう言ったのだった。
「ここここ。ここだよ。ここここ」
別の日、一緒にライブに参加するため大きな会場に行った時、指定の席を見つけて絢音がそう言ったのだった。
その時したいのにできなかったことが、今ならできる。
「もう1回言って?」
あたしはもうポッキーどころじゃなくなって、絢音のベッドの上で、一段高いところの学習机に座っている絢音にお願いした。そんなところに座ってるのに、なんで目線がちょっとしか変わらないの。
絢音が照れ臭そうに、でも見せつけるように、再び言った。
「ココココ」
気づいてる? その唇の形はキスの形だよ。
手を引っ張って、ベッドに押し倒した。