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七十九話

「山賀さん、青色千号の二人が来てますけど」

 ある日のテレビ局、楽屋に青色千号の二人の姿があった。

 自分たちの先輩コンビ、大御所であるアリクイと糸ようじの楽屋を訪ねていた。

「誰それ? 知らないんだけど、居ないって言っておいて」

 アリクイと糸ようじのツッコミ担当山賀は、会うのを拒否する。

 知らないわけが無いだろうと、マネージャーは思うが二組の関係性を考えればその対応も仕方がないと、山賀の言葉をそのまま伝える。

「ん? 山どうした?」

「青色なんちゃらが会いたいって、誰だろね?」

「ふーん……まあ、任せるよ」

「いや、居留守使った」

「あっそ」

 相方の坂本は、いったん起き上がる素振りを見せるが山賀の言葉に再び横になり、目を閉じる。


「山賀さん、リョウコさんがご挨拶に見えていますが?」

「ああ、ちょっと待って。……おい、坂本。リョウコちゃん来るって」

「ん? ああ」

 二人の体勢を確認して、マネージャーは共演するタレントを招き入れる。

「おはようございます、アリイトさん! 今日はよろしくお願いします」

 丁寧なお辞儀をする女性タレント、リョウコ。アリクイと糸ようじとは共演経験が多く、その整った顔立ちからは考えられない毒のあるコメントをすることで、番組を渡り歩くバラエティータレントだ。

 テレビ内での毒と若手芸人を引き連れて食事会などをするため、若手芸人の中では『姐さん』と親しまれている。

「リョウコちゃん。今日もよろしくね、あ! エッセイ読んだよ。面白いね」

「よろしくね~」

 普段通りのあいさつをする2人。しかし、当のリョウコは扉の向こうを気にしている。


「どうしたの?」

「あー……。ちょっと土下座している二人がいたから通りずらかったなぁ~って。まあいいんですけど」

 苦笑しているリョウコもアリクイと糸ようじと青色千号の関係性は熟知している。

 山賀の表情と坂本の表情から、それ以上は何も言わずリョウコはただ頭を下げる。

 退室のあいさつかと思えば、そうではないらしい。

 リョウコの頭は下げられたまま、何かを訴えている。

「わかったよ、本当に面倒見がいいね。さすが姐さん」

「もぉ~! やめてくださいよ。……ありがとうございます」

 そう言ってリョウコは退室していく。

「はぁ~! 坂本もいい?」

「任せるって言ったよ」

 そう言いながら坂本は扉へと歩き出す。


 扉の向こうにはリョウコの言うように、床にこすりつけられている二つの頭があった。

「おい! そこにいると他の人の邪魔だから入れ」

「はい! ありがとうございます!」

 青色千号の二人は、先輩芸人の楽屋に入ると再び膝をつき頭を下げる。

 アリクイと糸ようじの二人は厳しい表情のまま、青色千号の二人の言葉を待つ。

「アニさん! 今までの不義理、本当に申し訳ありませんでした!!」

 青色千号の片桐は、それだけを言うとまた頭を下げてしまう。

 山賀は、ため息をすると厳しかった表情を緩める。

「お前たちのせいで、事務所も俺たちも散々な目にあったのは知ってるよな?」

「はい! 申し訳ありませんでした!」

「事務所には謝ったのか?」

「はい!」

 坂本は当時のことを思い出す。青色千号の片桐が、共演者に手を出してしまい問題になったことがあった。売り出し中のアイドル、しかもそれなりに売り出しに成功していたアイドルを引退にまで追い込んだ。当然事務所同士の話し合いも行われ、青色千号の落ち目の原因となる。

 

 青色千号の穴を埋めるように奔走したのが、アリクイと糸ようじの二人だ。

 事務所内で青色千号と同等の知名度があるのが、アリクイと糸ようじしかいなかったのもある。

 率先して後輩芸人の不始末を謝罪して回ったのもこの二人だった。

「わかった。もういいよ、こうして来てくれたんだから」

 坂本の口から謝罪を受け入れる言葉が漏れる。

 可愛がっていた後輩が、時間はかかったが再起してこうして頭を下げてくれる。それだけでもう十分だった。

「坂本~! 俺に任せるんじゃなかったのかよ」

 山賀は坂本の言葉に笑いながらツッコむ。山賀も同じ想いではあったが先を越されてしまったのだ。

「そう言えば、渡してなかったな」

 山賀はバッグの底にあったヨレヨレになった祝儀袋を青色千号の前に投げる。

「結婚おめでとう。……ようやく言えたな」

「ああ」

「本当に……本当にすみませんでした!」

 二人の言葉に青色千号の二人は涙ながらに応える。ただ謝る。それが青色千号の二人には難しい行いだった。


「どうして今頃になって来たんだよ」

 坂本は当然の疑問を口にする。来てくれてうれしい、うれしいがそこに至る経緯を知りたくなったのだ。

「本間さんに聞きまして、新番組の件を」

「本間ちゃん、喋ったんだ……ふーん」

 そして青色千号小向は、懐にしまっていた一冊のノートをアリクイと糸ようじに差し出す。

「これを読んでいただけたらと思いまして」

「これを渡すためだけに、来たの?」

「はい!」


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