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七十七話

「僕は渋谷さんを推したいですね」

「@滴先生、それは……アイドル的に、ですか?」

 番組の収録も終盤となり、いよいよ誰を選ぶのか? アニメ制作サイドは、別室での協議を始めていた。

 監督は制製作委員会の意向を尊重し、花菜を推している。ピザ時計廻りもスポット的な参加であれば、花菜で良いとしていた。

 原作者の主は、そんな大人の事情を無視して今日の収録でミスの目立った渋谷夢乃を推挙したものだから、監督は思わず見当違いな対応となる。

「違いますよ、彼女にこの役似合ってると思うんですよ」

「え!? ヒロインじゃないですか! ダメダメ、先生! 本職のオーディションまだなんですから!」

 主の提案に即座に反対する監督。


「ま、無しじゃないかもな」

 音響監督は、主の提案に消極的賛成を表明する。監督が眉間にシワを寄せながら、噛みついて来るのを手で制すると何も全面的ではないと監督をなだめる。

「まあ聞きなって。俺もこれが一発限りの劇場版とかなら、アイドルにヒロインさせるのも一つの手だ。そうだろ?」

 音響監督の言葉に、監督は渋々頷く。批判も多いだろうが、話題になるのは間違いがない。その選択がまったくの無しではないことには、監督も納得できてしまった。


「だがよ、こいつはテレビだ。だから、そんな博打は打てない。ただよ、俺も誰を使うかってんなら先生に賛成だ。この役なんかいいんじゃないかと思うんだが?」

「あー、まぁまぁそれぐらいなら……高尾さんでも良くない?」

「良いわけないだろ、あの娘はもっと強い役じゃないと出来ないぞ。しかも年相応のな! そんなのこの話には出てこないだろ……また、改変でぶっ叩かれるぞ」

 なんとしても花菜をねじ込みたい監督も、改変でのいざこざは避けたいのだろう。あっさりと引き下がる。


「さてと、先生。なんでこの娘なのか、聞かせてもらえるかい?」

 音響監督は、やや厳しい目を主に向ける。音響監督は主がデビュー当初からはなみずき25と親しい関係にあるのを承知していた。もし、個人的に親しい間柄のアイドルに役をやりたいから等と言うようなら、番組など関係なく全員を不合格とするつもりだ。

「番組成立させるために、わざとミスしにいく度胸と大胆さは買いたいじゃないですか」

「まあ、それは大人として評価してやりたいわな」

「それに演技も掛け合いになるとスッと入ってくる気がして。まあ他のコが拙いっていうのもあるんでしょうけど」

 なるほど納得といった表情を見せる音響監督、しかし後半を聞いて相手のホームで何を言うんだと絶句してしまう。


「ま、まぁ、あの娘がうまいってのは俺も同意だ。あの娘は吹き替えの経験者だから仕方がないけどな」

「え!? そうなんですか? 経歴にはそんなこと書いてないですけど……」

 監督は慌てて渋谷夢乃のプロフィールを確認する。つられて主たちも確認するが、音響監督が言うような経歴はみつからない。

「間違いない、俺はあの娘に演技指導したことある。子役の駆け出しの頃だけどな。あの時はユメノってカタカナで活動してたはずだ」

 全員がスマホで確認するが、候補が多くみつからない。

「え~とな、これだこれだ。ほら!」

 音響監督のスマホには、幼い少女の顔が写っている。

「面影……」

「あるといえば……」

「ある」


「ま、これに関しては余談だからいいとして。で? 監督、結局誰にする?」

「僕としても失敗を増やしたくないですから、渋谷さんでいいですけど……上に何言われるんだろう」

 渋々了承するが、その後のことを考えると顔を暗くする監督。

「じゃあ、原作者の権限発動ってことにしときゃいい。な?」

「な? って……。まあ、気難しい原作者だと思ってもらいますか」

「よし! 決定だな。さっさと終わらそう、あちらさんが何か気にしてるみたいだからな」


 番組の終盤に、監督から当たり障りのない総評と企画の合格者が発表される。

 多少のざわつきが聞かれたが、合格理由を聞けばメンバー全員が口をつぐむしかなかった。

 原作者の強権発動。

 そのせいで、後々原作ファンからのプチ炎上があるのだが、主は努めて気にしなかった。

 渋谷夢乃が実力で納めてくれるだろうと。


 そして収録の最後に元の『はなみずき25 つぼみ』のメンバーが集められ、番組からの卒業として豪華な花束がメンバー一人ひとりに手渡された。

 花束が豪華なのは、前途が花束のように煌びやかであってほしいとの願いか、それとも番組でスポットライトを当てることもできなかった謝罪なのかは語られなかった。


 収録後、かすみそう25のメンバーはスタッフへ今までお世話になりましたと、深々と頭を下げ現場をあとにする。

 二人だけメンバーを残して去っていく彼女たちの背中は、スタッフたちにはどう見えたのだろうか?

 ただ、全員が彼女たちの活躍を願うしかなかった。

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